第1話 望内コモン と ゾンビパニック(上)


 桜吹雪と死臭が漂う春先の最前線。

 『バイオハザード』によりゾンビ溢れる東京都は、いくつもの悲鳴で満ちていた。



 世界が壊れるのはいつだって唐突だ。


 有名な世界滅亡論といえば、ノストラダムスの大予言が代表的だろうか。


 陰謀論者たちの語る、世界を覆いつくすような大津波や破滅の大王の到来。

 だが、実際にはミジンコより小さなウイルスが、その廃れた与太話を遥かに上回る“終わり”を世界にもたらしたのだから、今頃ノストラダムスも白目を剥いて墓の上でタップダンスを踊っているに違いない。



 キンコンカンコーンと高らかに鳴る下校のチャイムに釣られ、所狭しと動き出す死体どもが、緩慢な足取りで生き血を求めて集まってくる。


 対して道路を区切るように張られたバリケードの内側では、塹壕を前に横一列にひしめき合うように並ぶ生徒たちが、顔をこわばらせて不規則に揺れる『ナニカ』に向け、鉄の塊を突き付けていた。


「いいか。奴らの動きはそう早くない。十分に引き付けてからぶっぱなせ!」

「「「「おう」」」」

「ここから後ろは避難所だ! 絶対に後ろに通すんじゃねぇぞっ!」

「「「「おう!」」」」


 陸自用のアサルトライフルを片手に弾倉を入れ替えれば、敗北必死の防衛戦線を維持する学生指揮官――望内コモンの部隊は何とかギリギリのところでゾンビの侵攻を押しとどめていた。


 パンパンと日常に似つかわしくない乾いた炸裂音が立て続けに反響し、黒い影がバタバタと倒れていく。


「くっそ、これじゃあキリがねぇぞ! ――もっと弾薬持ってこい!」

「駄目ですコモンさんッ! 人員に対して奴らの数が多すぎます!」

「だったらなおさら今、持ちこたえずにどうすんだ! どうせ避難所にいる奴らが安全に拠点を移動するまでの時間稼ぎなんだ!」


 弾薬なんて気にせず、使いきれ!


 だが、次から次へと視界を埋め尽く『不気味な影』は途切れる気配がなく。

 それどころか。時間をかければかけるほど、通路全体を埋め尽くす『人ごみ』は増えていって――、


「いやぁっ! お願い、マサユキくん! もうやめてっ!」


 背後から聞こえてくる聞き覚えのある悲鳴に、コモンは作戦の終わりを悟った。


 耳を裂くような指揮官の悲鳴に慌てて振り返れば、涙でグシャグシャになった学級委員長が震えた両手で拳銃握りしめているところだった。


 平和主義の民族が治める法治国家で知られる日本。

 それも花も恥じらう女子高生が物騒な鉄の塊を握りしめていたら、銃刀法違反以前にパニックで取り押さえられているだろうが、彼女を非難する者は誰もいない。


 それどころか。周りから「早く殺せ!」と興奮気味な怒号が飛び交うほどひっ迫した空気が流れていて、


「伏せろ、委員長ッ!」


 同士討ちになりかねないととっさに判断し、隊列を離れて自動小銃を反転させると、コモンは青白い顔をした知り合いの頭を吹き飛ばした。


 着弾と同時に脳漿がアスファルトに飛び散り、ゴトンと仰向けに倒れる動く死体。

 「いやああああ!」と先ほどとは種類の異なる悲鳴が委員長の口から上がり、眼鏡の奥で震える視線がコモンをとらえた。


「どうして、どうして殺したの! 彼はまだ間に合ったかもしれないのにっ!」

「……無駄だ。委員長だって見てたろ、あいつは噛まれてすでに感染していた」

「それでもまだ生きてたわ!」


 きっと自分の最愛の人が奴らの仲間入りしていたことが認められないのだろう。

 だが、いまのコモンたちに個人的感情に寄り添っている余裕はない。


「しっかりしろ委員長! お前がこの部隊のリーダーなんだろッ! 俺に文句言ってる暇があったらさっさと防衛線を立て直すよう指示しろ、これ以上被害が広げるつもりかッ!」


 突き放すように吠えたてれば、望内コモンは委員長の胸倉を突き放して隊列に戻る。

 そして改めて前方を睨みつければ、ひしめき合うように蠢く血まみれの死人が、唸りながらこちらに向かってきていて――


「くそっ……! いくら倒してもキリがねぇ。いったいどうなっちまったんだよこの世界は」


◆◆◆


 科学が発達して、誰もが幸福を享受できるようになったはずの24世紀半ば。

 目の前でうーうー呻きながら襲いかかってくる"奴ら"の登場で、コモンの青春は一瞬で崩れ去った。


 充実した学園生活を送るはずだった。

 放課後に同級生たちとカラオケに行ったり、明日返却されるであろうテストの結果をボヤいては、馬鹿にしあったり。

 そんな高校生活を送るはずだった。


 しかし突如として現れた『奴ら』――ゾンビの登場に、コモンたちの学生鞄が物々しい鉄の塊に変わるのは、そう時間のかかることではなかった。


 そして学園に立てこもり籠城すること一か月。

 人を減らしながらもなんとか抵抗を続けていたコモンたちは、ゾンビどもの襲来に追い詰められながらも学園からの拠点移動する糸口を見つけ、最後の賭けに打って出たのだが――、


「いやだ、こんなところで死にたくないお……」

「俺だって死にたくねぇよ……っ!」


 ぜぇぜぇと息を切らし、足を引きずる同級生に肩を貸すコモンは、通いなれた坂道を歩いていた。

 防衛線は完全に崩壊していた。

 前線を守っていた仲間たちは、いまや奴らの仲間入り。


 学園まで続く橋を爆破したからこれ以上、こっちに侵入されることはないだろうが、


「これだけ戦力を集めでもどうにもならないのかよッ!」


 ギリッと唇をかみしめる。


 本来であれば、成功する作戦だった。

 しかし、突如として、脈絡もなく現れた『怪物』の登場に前線は完全に崩壊し、ゾンビの群れに飲み込まれることとなった。

 結果、恐慌状態となった部隊は壊滅。

 今は、こうして辛うじて生き残った隊員を連れて、撤退しているところだが、


「……くそっ、あんな化け物がいたなんて情報になかったぞ。いったいどっから現れやがったんだ!」

「各地に設置したセンサーに反応なし。それに信じられないかもしれないけど、僕が見た限り、アイツ。いきなり虚空から現れたように見えたお」

「なんだよそれ、オカルトかよ」


 息も絶え絶えな様子のマックスを抱え直し、こんな状況でもふざけだす悪友の発言を鼻で笑う。


「ああ、こんなことなら逃走訓練サボるんじゃなかったお。僕、この任務が終わったらミチコちゃんと付き合うはずだったのに」

「だったらなおさら踏ん張れ」


 あれだけ時間を稼いでいたんだ。

 学園に避難した連中も無事、別の拠点へ逃げられてる頃だろう。


「そうしたいのは山々だけど、コモルン。もう僕はだめみたいだ。ここで殺してくれまいか」

「――っ、ふざけんなッ! せっかく生き残ったんだぞ。こんなところで諦めるなんてお前らしくねぇだろ!」

「実はもう、目も掠れて見えないんだよね」


 そういって袖がまくられ、血のにじむ腕に歯型がついていた。


「おまえ、いつの間に――」

「へへ、頼むよコモルン。普段おちゃらけてる僕だけどさ、さすがに奴らの仲間入りはごめんだお。守るべき奴がいる友人にこんなこと頼むのもあれだけど。せめて人として死なせてくれまいか」

「……ばか野郎っ」


 きつく目をつむり、唇と噛み締めて、親友の頭を吹き飛ばす。

 友人の命を奪ったにもかかわらず、これが正解なんだと、冷静に分析する自分がいるのが余計に腹立たしい。


「――借りるぞ、マックス」


 そうして親友の懐から拳銃を抜き取れば、みんなが避難しているであろう学園まで全速力で走った。

 そして最後の仕事を任されたコモンは、学園から逃げ遅れた連中がいないか確認するために、みんなが生活の拠点としていた旧体育館に駆け込めば、


『ぎゃあああああああああああああああああああああああ!』

『やめてやめてやめて』

『誰か助けてくれええええええええええ』


 ――そこは赤と黒のグロテスクな地獄が広がっていた。


◆◆◆


年末だよ! カクヨム10だよ! 新作投稿だよ!


初SFホラーものです。

登場人物がガンガンいなくなります。

可愛い女の子も泣きながらたくさん死にます。


そんな笑いあり、グロありな刺激的なホラー展開を書いていきたいと思います。


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