サイバーネクロス・リバイバル:亡霊に全てを奪われた☆1モブな高校生、オカルトが跋扈する終末世界で、ハーレムを集めて、犯し、喰らい、殺し尽くすセカンドライフを始めるようです。

川乃こはく@【新ジャンル】開拓者

第1話 望内コモン と ゾンビパニック


 有名な世界滅亡論といえば、ノストラダムスの大予言が有名だろう。


 1999年7月、世界は滅亡する運命にあった――少なくとも、そう信じられていた。


 陰謀論者たちの語る、世界を覆いつくすような大津波や破滅の大王の到来。

 だが、実際にはミジンコより小さいウイルスが、その廃れた与太話を遥かに上回る“終わり”をもたらしたのだから、今頃ノストラダムスも白目を剥いて墓の上でタップダンスを踊っているに違いない。


 キンコンカンコーンと下校のチャイムが高らかに鳴る通学路。

 バイオハザードにより、いつも以上に混みあっていた十字路はいくつもの悲鳴で満ちていた。


 道路の真ん中に張られたバリケードの内側。ひしめき合うように横一列にならぶ生徒が、不規則に揺れる『ナニカ』に向けて、鉄の塊を突き付ければ、パンパンと立て続けに乾いた炸裂音とともに、黒い影がバタバタと倒れていく。


 だが、次から次へと現れる無数の影が視界を埋め尽く影は途切れる気配はない。

 それどころか。時間をかければかけるほど、通路全体を埋め尽くす『人ごみ』は増えていって――


「いやぁっ! お願い、マサユキくん! もうやめてっ!」


 耳を裂くような指揮官の悲鳴に慌てて振り返れば、涙でぐしゃぐしゃになった学級委員長が震えた両手で拳銃握りしめているところだった。


 平和主義の民族が治める法治国家で知られる日本。

 それも花も恥じらう女子高生が物騒な鉄の塊を握りしめていたら、銃刀法違反以前にパニックで取り押さえられているだろうが、彼女を非難する者は誰もいない。


 それどころか。周りから「早く殺せ!」と興奮気味な怒号が飛び交うほどひっ迫した空気が流れていて、


「伏せろ、委員長ッ!」


 一瞬、同士討ちになるかもしれないと判断した普通の高校生――望内コモン、隊列を離れて、冷静に青白い顔をした知り合いの頭を吹き飛ばしていた。


 ゴトンと仰向けに倒れる動く死体。

 「いやああああ」と先ほどとは違う悲鳴が委員長の口から上がり、眼鏡の奥で震える視線がコモンをとらえた。


「どうして、どうして殺したの! 彼はまだ間に合ったかもしれないのに!」

「……無駄だ。あいつは噛まれてすでに感染していた」

「それでもまだ生きてた!」


 きっと自分の最愛の人が奴らの仲間入りしていたことが認められないのだろう。

 だが、いまの俺たちに個人的感情にカマかけている余裕はない。


「しっかりしろ委員長! お前がこの部隊のリーダーなんだろッ! 俺に文句言ってる暇があったらさっさと防衛線を立て直すよう指示しろ、これ以上被害が広げるつもりか!」


 突き放すように吠えたてれば、望内コモンは委員長の胸倉を突き放して隊列に戻る。

 そして改めて前方を睨みつければ、ひしめき合うように血まみれの人たちが、唸りながらこちらに向かってきていて――


「くそっ……! いくら倒してもキリがねぇ。いったいどうなっちまったんだよこの世界は」


◆◆◆


 科学が発達して、誰もが幸福を享受できるようになったはずの24世紀半ば。

 目の前でうーうー呻きながら襲いかかってくる"奴ら"のせいで、俺たちの青春は一瞬で崩れ去った。


 充実した学園生活を送るはずだった。

 放課後に同級生たちとカラオケに行ったり、明日返却されるであろうテストの結果をボヤいては、馬鹿にしあったり。そんな高校生活を送るはずだった。

 それなのに突如として現れた『奴ら』――ゾンビの登場に、コモンたちは銃を取って戦わざるを得なくなっていた。


「いやだ、こんなところで死にたくない……」

「俺だって死にたくねぇよ……っ!」


 ぜぇぜぇと息を切らし、足を引きずる同級生に肩を貸す。

 防衛線は全滅した。

 前線を守っていた仲間たちは、いまや奴らの仲間入り。

 学園まで続く橋を爆破したからこれ以上、こっちに侵入されることはないだろうが、


「ちくしょう。この任務が終わったらミチコちゃんと付き合うはずだったのに」

「だったらなおさら踏ん張れ。待ってくれてるやつがいるんだろ」

「コモン氏。もう僕はだめだ。殺してくれ」

「馬鹿言うんじゃねぇッ! せっかく生き残ったんだぞ。こんなところで諦めるなんてお前らしくねぇだろ!」

「ふっ、実はもう、目も掠れて見えないんだ。死んでまで化け物にはなりたくないお」


 そういって袖がまくられ、血のにじむ腕に歯型がついていた、


「頼むよコモン氏。せめて人として死なせてくれまいか」

「……ばか野郎っ」


 きつく目をつむり、唇と噛み締め、親友の頭を吹き飛ばす。


「借りるぞ、マックス」


 そうして親友の懐から拳銃を抜き取れば、みんなが避難しているであろう学園まで全速力で走った。

 そうだ。まだ終わりじゃない。

 学園には俺たちの帰りを待ってくれている奴らがいるんだ。

 せめてそいつらだけでもここから逃がさねぇと。


 そして学園に籠城しているはずのみんなに避難を呼びかけよう体育館に駆け込めば、


「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!」

「やめてやめてやめて」

「誰か助けてくれええええええええええ」


 ――そこは赤と黒のグロテスクな地獄が広がっていた。


 耳を塞ぎたくなるような悲鳴があちこちから上がり、同級生たちだった者が生きたまま咀嚼されている。

 それはまるで、旧時代で一世を風靡した『ゾンビ』や『ユーレイ』のようなフィクションでしか見たことのない光景で。


「なんだよこれ……なんでこんなことになってんだよッ!」


 知り合いや、恩ある担任の顔を吹き飛ばすたびに、血生臭い液体や脳漿が体に付着し、俺の理性が削られていく。

 そうしてただひたすらに生きるために、引き金を引き続け、


「ご、ごもんぐん、だだすげで」


 ふと、背後から聞こえてきた、かすれた声に無意識にコモンの身体が硬直した。

 拳銃を構えて後ろを振り返れば、そこには学園のアイドルで、俺の恋人だった――“はず”の存在がいて。


「エリナ……先輩?」


 青白い唇から、ヒューヒューと引きつった音を鳴らし、こちらに近づいてく上級生の名前をつぶやく。

 身体のパーツが足りないせいか、動きはぎこちなく。生前あったような美しさがない。それでも、その真っ赤な唇からは生きているんだか死んでいるんだかわからない意味のない呻き声が漏れていて、


「ちくしょう……。ちくしょおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 撃鉄を起こす銃身がカチカチと虚しく鳴り、動かなくなった先輩から視線を外せば、コモンは無意識に奴らが群がる体育館を飛び出していた。


「頼む。頼むから無事でいてくれ」


 助けを求めるクラスメイト達には目もくれず、目的地を目指す。

 そして妹がいるであろう保健室のドアを勢いよく開け放てば、短い悲鳴の後に飛び込んできたのは――竹刀を震わせ、必死に妹たちを庇う幼馴染のサクヤだった。


 カタカタと震える竹刀をこちらに向け、驚きで目を見開いているサクヤと視線が合い、コモンはたまらず息をついた。

 

「よかった。無事だったか」

「コモン! これは一体どういうこと⁉ なんで奴らが避難所に入ってきてるの⁉」

「覇屋谷だ。どうやらあいつ、自分が噛まれてたことを黙ってやがった。そのせいでパンデミックが広がったらしい」

「なんですって⁉」


 驚くのも無理はない。

 コモンだって、体育館に飛び込むまで学園が奴らでいっぱいだったことなど知らなかったのだから。


「でもどうして学園に帰還したばかりのアンタが、そんな詳しいことを」

「それは――」


 不可解な疑問に、思わず口ごもる。

 そうだ。なんで俺はそんな詳しいことを知ってるんだ?


「とにかくこの拠点はもう駄目だ。別の拠点に避難するぞ」

「避難って、そんな――嫌よっ! 病気のこの子をこのまま置いていけないわ!」


 そうして何もわかっていないような顔で自分を見上げる幼い妹の手を取り、同じく自身の妹に寄り添っている幼馴染の手を引けば、イヤイヤと首を振るサクヤ。


「こうしている間にも、奴らがやってくるかもしれない。そうなれば妹ともども俺たちはおしまいだ! 無茶でもなんでも動くしかねぇ!」

「でも――」

「これも奴らから逃げて生きのびるためだ。頼むッ! お前たちだけは見殺しにしたくないんだ。今だけは俺を信じてくれ!」

「……わかったわ。いま準備するから。もう少しだけ時間を頂戴」

「本当か!」


 すると悲しそうにうつむいた幼馴染が、体調を崩した妹の顔を覗き込む。


「大丈夫。病院に行けばきっと治してもらえるわ。だからもう少し頑張りましょう、ね? リサ。……リサ?」


 ピクリとも動かないリサ。

 サクヤはそんな妹の様子を不審に思い、少女の顔を覗き込む。

 するといままで大人しく姉の背中におぶられていたリサがは牙をむき、狂ったように叫び始めた。


「オなガズいダああアアああア嗚呼ああああああああ」

「そんなッ⁉ ――どうして! あいつらには噛まれていないのに⁉」


 それはまるでどこか出来の悪い映画のようで。

 姉の首筋に噛みついたリサがあっさり頸動脈をかみ切り、サクヤは悲鳴を上げて絶命した。

 そして幼馴染の白い瞳がギョロっと動き、何かに憑りつかれたように動き始め、


「お兄ちゃん、助けて!」

「アリスッ⁉」


 ふと世界が暗転したかのように切り替わり、ゾンビの群れに囲まれた妹のアリスが、今にも食べられそうになっていた。

 伸ばした手は届かない。

 それどころか身体がフリーズしたように動かない。


「(なんだ今のノイズは。俺たちはいま保健室にいたはず。なんで知らねぇ洋館の中にいんだよっ⁉)」


 混乱で頭がどうにかなりそうだった。

 だが、それどころではない。

 一刻も早くアリスを助けなけたいのに――


「(なんで、身体が動かねぇんだよッ!)」


「いやあああああっ! やめてやめてやめて。いたい、痛いよお兄ちゃんッ!」

「アリス! やめろ。お前らッ! 殺すなら俺からやれ!」


 しかし現実はコモンの足掻きをあざ笑うかのように、妹の原型が少しずつなくなっていく。

 それどころか、群がるように蹂躙されていく小さな身体から、腕が、足が、腹部に収まった極彩色の何かがブチブチと嫌な音を立てて引きづりだされる。

 あとには耳にこびりつくように自分に向かって助けを叫ぶアリスの声と、残骸が無残に床に散らばり――


「うわあああああああああああああああああああッッ」


 視界が真っ白にはじけ、内臓の奥からせり上がる叫びで、意識が遠のいていく。

 それからどのくらいの時間が経っただろう。

 いつまでも頭の中で響く絶叫が、自分のものか、それとも誰かのものかわからなくなった時――


『ソノカラダヲヨコセ』

「やめろおおおおおおおおおおおおおっ――おおう⁉」


 ゾワリと耳元で囁かれた言葉に声を荒げてベットから飛び起きれば、注射器を握りしめた看護師さん(美人)にめちゃくちゃ心配されるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

サイバーネクロス・リバイバル:亡霊に全てを奪われた☆1モブな高校生、オカルトが跋扈する終末世界で、ハーレムを集めて、犯し、喰らい、殺し尽くすセカンドライフを始めるようです。 川乃こはく@【新ジャンル】開拓者 @kawanoue

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画