第17話 対面

 道すがらアリスは疑問をディアンにぶつける。


「エルドラさんには連絡しないの?」

「オレ様達だけで来いとの事だ。破ればキサマの親が死ぬ」

「そう、なんだ」


 敵の組織の全貌は分からない。

 だが、直接襲ってこず人質を取る辺り、慎重なのかそれとも人員が少ないのか。

 そうなると戦力を分散させ、各個撃破の動きも理解出来る。

 何であれ、罪のない人々を支配し害なす存在である以上、敵対するしかない。

 アリスの父母を助ける為、二人は指定された場所へと到達する。

 そこは四方が分厚い壁に囲まれた、廃材置き場と思わしき場所。

 高さもあるその壁のお陰で中の様子は伺えない。

 廃れた場所だ。人が来る気配もない。

 何をするにも、うってつけと言う訳だ。


「ディリック! 来てやったぞ、開けろ!」


 唯一の扉の前に立つとディアンは叫ぶ。

 すると巨大な扉は重々しく音を立ててゆっくりと開いていく。

 目の前に広がるのは金属類のゴミの山。

 そしてその頂上に一人の吸血鬼ヴァンパイアが存在を示すかのように一人の少女を従え座っていた。


「キサマがディリックか」


 ディアンは扉の中へと足を踏み入れる。

 その様子にディリックは待ってましたと言わんばかりの様子で立ち上がる。


「待ってたぜ、ディアンさんよぉ。待ってる間退屈で退屈で、テメェに遊んでもらう予定だったガーゴイルどもを殺しちまったよ」


 ディリックは足元に転がるガーゴイルの死体を蹴り飛ばす。

 ゴミ山の周囲には十数体のガーゴイルの死体がある。

 ディリックの服や体も返り血で染まっている。

 発言に嘘はないという証明だろう。


「アリスの親はどこにいる。」


 だがそんな事はどうでもいい。

 ここに来た目的はアリスの親を助け出すためだ。

 ディアンの問いにディリックは不適な笑みを浮かべる。 

 そしてディアンに向かってスマホを投げ付ける。


「喋れる筈だぜ」

 

 スマホは通話状態になっている。

 ディアンはすぐさま「大丈夫か」と安否を問うと―――  


「ディアンくん。ボク達は大丈夫だ。少し前に解放されてね。もう自由になっている」

「は?」  


 理解しがたい返事が返ってきた。


「どういう事だ」


 ディアンはアリスにスマホを渡すと、ディリックに疑問をぶつける。


「どうもこうも必要ねぇから逃がしてやっただけだ。オレはテメェを殺す! それだけだ! リーヴァントの思想もオレには関係ねぇ! オレは殺し合いが出来れば満足なんだよ!」


 シグマとは別ベクトルで狂っている。

 住み家としてリーヴァントに属しているだけで、組織の一員として動く気は更々ないという事か。

 だからこそアリスの親は助かったのだが、殺しにしか目がないという事はどちらかが死ぬしか、この場を切り抜ける道はないという事だ。


「ママ達は家に帰るって。ねぇ、どうするの?ここから逃げるの?」

「いや、逃げた所でアイツが逃がすとは思えない。それに逃げれば今度こそ誰か殺されるかも知れない」

「じゃ……じゃあ、戦うっていうの!?」

「それしか道はないだろうな」


 ディアンは歯で指を傷付けると鎌を作り出す。


「下がってろ」


 アリスを下がらせると、ディアンはゴミ山へと近づいていく。


「いいな! やる気があって助かるぜ!」


 ディリックもゴミ山から滑り降りて来るとディアンと距離を詰めていく。

 ポケットから取り出したのはナイフ。

 リーチで言えば、利があるのはディアンの方だ。

 だが、ディリックの能力が分かっていない。

 二人は互いの間合いの外で立ち止まり構えを取る。

 乾いた風が頬を撫でる。

 先に動いたのはディリックだった。











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