第11話 罠
電車を乗り継ぎ指定の住所へ着くと、すでにエルドラたちが待っていた。
「やぁ、アリスちゃん。久しぶりやな」
「エルドラさんもリン君もお久しぶりです」
「なんや固っ苦しいな。もっとラフにいこや」
駆け寄っていくアリスにエルドラは肩を軽く叩き接する。方や隣に立つリンは言葉は発さず小さく会釈をしていた。
その様子は見るに、常日頃から関わりがあることが伺える。
想定していた中で最も最悪な状況にディアンは天を仰ぐ他なかった。
だが、ずっと打ちのめされている訳にはいかない。
「エルドラ、これはキサマのイタズラか?」
ディアンはすぐに切り替え本題に入る。
「なんやいきなり犯人扱いかいな。ウチはまどろっこしい事はしやんタイプや。用があるなら直接行く。アンタは身に染みて分かっとる筈や」
「だったらこれに心当たりは?」
ディアンはエルドラに封筒を投げ渡す。
エルドラは観察するように中身を調べるが、心当たりはないようで首を横に振った。
「前に言うた
「何も分からないってことか」
「ハッ! 失礼な奴やな、そうやけど!」
そうなると後出来ることは目の前にある豪邸に突撃することだけだ。
豪邸と言っても随分前に家主はいなくなっているのだろう。壁面にはツタが生い茂り、苔むしている。
道中の木々も好き勝手生い茂っている様子を見るに、周囲に人がいる様子もない。
まさに何かしようとするには格好の場所という訳だ。
「小娘、吸血をさせろ。突入するぞ」
「はいはい」
アリスはディアンの元へ戻ってくると袖を捲り差し出し、ディアンは迷うことなく噛み付き血を吸った。
同様にエルドラもリンの鎖骨付近に噛み付き吸血する。
「行くぞ」
ディアンは扉に付いているドアノッカーを使い、ノックをする。
すぐには応答はない。少しの緊張が走った後、ゆっくりと扉が開く。
出てくるのは人か、
「ようこそ。お越しいただきありがとうごさいます」
出てきたのは人間だった。
それも若い男。高校生くらいの少年だ。
ピシッとしたスーツに身を纏い、この豪邸に相応しいいかにもな格好をしている。
「キサマが呼んだのか?」
「いいえ、アナタを招待したのは私の御主人にございます」
「だったらさっさとそいつを連れてこい」
「はい。少々お待ちください。その間、中でおくつろぎ下さいませ」
まるで貼り付けられたような笑顔に不気味さを感じる。
だがそれだけ。見た限りではただの人間だ。
何かあるとすれば、少年の主人の方なのだろう。
しかしすぐには会えない様子。
ディアンたちは促されるまま、館の中へと入っていく。
玄関を抜けるとすぐにもう一つ大きな扉がある。
防犯のためなのか分からないが、金持ちの考えることだ理解しようなんて無理なことだろう。
その大きな扉も抜けると、そこには色とりどりの机とソファーが並んでいた。
電気は通っていないのか、蝋燭などが至る所にあり光を補っている。
「椅子にかけてお待ちください。すぐに呼んで参りますので」
そう告げると男は別の扉から奥へと消えていく。
「アンタも座ったら?」
「何があるか分からないだろ」
アリスやリンは立っているのも疲れるのでソファーでくつろいでいる。
だが、ディアンとエルドラは座らず警戒していた。
今は敵の胃袋にいるようなものだ。安全が保証されるまでは気を抜くわけにはいかない。
そして予感は的中する。
「やっぱり罠やったやんけ」
「うだうだ言わずに片付けるぞ」
「こんな事巻き込んで、後で飯奢りや」
奥にある巨大な扉が開くと、中から数えきれない程の大量のガーゴイルが飛び出してくる。
先程の少年の仕業か、それとも主人とやらの仕業か。
とにかくヨグドスを従えているという時点で、まともな奴ではない事は確かだ。
そして考えるのは後。今やるべき事は目の前の敵を消すことだ。
「エルドラ!」
「分かっとるって!」
エルドラが勢い良く地面を踏むと部屋を多い尽くす程の氷塊が地面から発生した。
その氷塊は、以前のように成形されたような形ではなく、荒々しく鋭利な箇所が目立つ氷山の様。
それがヨグドス目掛けて一瞬にして育っていき、身体を貫き押し潰していく。
「ほら! 次はアンタの番や!」
「オレ様に命令するな」
しかし氷塊で全てのヨグドスは倒せない。
隙間から難を逃れたヨグドスが襲い掛かってくる。
ディアンは指を自身の歯で傷付け大鎌を生成すると、襲い掛かってくるヨグドスを次々と斬り殺していく。
その姿は優艶でまるで踊っているかの様で、アリスは以前と同様目を奪われていた。
そして気が付くと全てのヨグドスが片付いていた。
「リン、アリスちゃん、怪我ないか?」
「大丈夫」
「ありがとう。大丈夫です」
血が飛んできて服が汚れてしまったが、命に比べれば安いものだ。
「さてと、ディアン、これからどうするつもりや?」
「どうにも出来んだろ。キサマの氷のせいで進めん」
「あちゃー、やりすぎたな」
エルドラはわざとらしく額を叩いて失敗しましたとアピールをする。
行く先が塞がっている以上、出るか待つかの二択しかない。
「出るぞ」
ディアンは外に出て別の入り口を探す事にした。
その時にアリスは自分が付いていっては足手まといになると訴えたが、下手に置いていったほうが危険が高まることをディアンは指摘し、共に館から出るのだった。
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