第19話 REUNION
その日の夜、警報が鳴った。
そこはとある研究施設で取り扱っているのは数多くの医薬品。他にも研究段階の物も数多く存在していた。最新鋭の防護服とレーザーブラスターを装備した警備兵達が[第3研究室]と書かれた札のドア前へ駆け付けるとドアを強引にこじ開けて一斉に照準を向けた。赤いレーザーサイトの先、そこに居たのは鼻から下を覆う黒いマスクを付けた半袖短半ズボンの何者かでその上にフード付きの深緑色のジャケットを羽織っていて、黒い髪が僅かに被っているフードから覗いている。
そして相手の紐の付いた黒いブーツの足元には薬品のケースが無造作に置かれている。
「そこを動くな!!両手を上げてその場に跪け!!」
1人が警告する、だが相手はオープンフィンガーグローブを付けた右手を目の前に上げて人数を数え始めた。その声は高めである事から少女である事が解る。
「1人…2人…3人…4人…5人。成程、私を制圧するには丁度良い数って訳だ。」
「解ったなら大人しく──ぐはぁあッ!?」
突然、目の前にあの少女が現れたかと思うと正面に居た警備兵が吹き飛んでドアを突き破った。背中から叩き付けられた事もあり、壁が大きく凹んでいる。そのまま床へ力無く座り込んでしまった。よく見ると左右手の甲にはいつの間にか何かの装置が付けられている。それはコートの外側からケーブルが伸びている様にも見える。
「流石は姉さんお手製のパワーユニット。そして今のが必殺、インパクト・クラッシュ。どう?凄いでしょ?」
「お前ッ…よくも仲間を!!撃て、撃てぇえッ!!」
「はぁ……あまり派手にやると怒られるんだけど?」
青色のレーザー弾が放たれ、次々とモニターや機材へ命中しそれ等を破壊していく。
後退した少女は物陰に隠れてから何かの入った手提げ付きの小さな四角いケースを右手に持つとゴーグルを付けてから何かを物陰から放り投げた。途端にそれが起爆し周囲が混乱し始めるとその隙を見て物陰から飛び出して研究施設を抜けて廊下を駆け出した。
「今投げたのはセンサー障害を起こすジャミング・グレネード…起爆したらセンサー類に支障を来す。何せ最近の警備兵は全員、自動センサーによるロックオンやターゲット追尾機能に頼りっぱなしだからねぇ?」
ドアを右足で蹴破り、外へ飛び出すとピックアップする為の黒いワゴン車が通り掛かる。
開いたドアの向こうへ飛び込む様に入るとそのまま警備兵らの追撃を振り切って走り去ってしまった。
-この事件が起きたのはこの先、大規模な事件に発展する約3日前の出来事である-
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普段通りに仕事を終えた陽香と舞依が帰宅し、共に風呂場でシャワーを浴びていた時。
浴槽の縁に腰掛けていた舞依が陽香の方を見ながらふと口を開いた。
「…そういや、あたしとお前が組んだ時からもう数ヶ月経っちまったな。」
「そういえば…そうだね。お陰様で毎日振り回されて大変だけど。」
「前に渡したゴム弾には慣れたか?」
「一応ね。でも…人を撃つのは変わらない、血を見なくなったのは良いと思うけど。」
「あたしみたいなライセンス持ちはアレを元にバカスカ撃って殺しまくってる。人口の増加と共に増えた武器の密輸とかイレギュラーなケースの犯罪が横行し、民間のサツじゃ手に負えないからって作り出したのがD.L.Sって訳だ。」
得意気に話した舞依は軽い溜め息をついた。実は此処最近、何故か彼女は陽香の事を気にする様になっていた。以前はそんな事は無かったのだが最近は特にそうで共に風呂へ入っている時なんかは余計気にしてしまう。パネルを操作してシャワーを一旦止めた陽香はシャンプーを右手に出してそれをタオルに付けて泡立てると身体を洗い始めた。
「な、なぁ…?」
「ん?どうかした?」
「お前…あたしの事どう思ってる?」
「へ?…どうしたの、何かあった?」
「別に…そんなんじゃねぇ。ただ、気になるんだけ。」
「うーん…最初は何か嫌な子だったけど最近はそうじゃ無くなって来たかな。いつも私の事見ててくれるし、気に掛けてくれる…あのマガジンくれたのも私の事を思ってでしょ?良い子じゃないけど頼りになる相棒って感じ。」
振り返った陽香が舞依を見て微笑む、舞依は視線を僅かに逸らすと小さく頷いた。
「…そうかよ。そういやお前、カレシとか居んの?」
「居ないよ、あまりモテないし…性格も地味だし…こう見えてドジでおっちょこちょいだもん。」
そっとその場に立ち上がった舞依は円香へ近寄ると彼女の方を見ながら口を開くとシャワーノズルをお互いの合間へ向けてから再び放った。
「そういうの…女同士ってのは変な事なのか?」
「え?そ、それは…何とも言えないけど、もしかしてそういう…感じ?」
「あーもうッ…ウジウジしてんのもダルいし…この際だから言わせてもらう、あたしはお前が──!!」
何かを言い掛けた時、洗面台に置いてある陽香の携帯が鳴った。咄嗟に泡を流してシャワーを止めた陽香が脱衣所へ戻るとそれに応対してから舞依の居る浴室のドアを再び開けた。
「京香さんが非常招集が出たから署に来いって!早く出て着替えないと!!」
「ちッ、タイミング悪過ぎんだろ。カップル向けの映画じゃねぇんだからよ…ったく。」
溜め息をついた舞依が外へ出て陽香と共に着替える等の身支度を済ませてから再び部屋を後にする。そして駐車場に停めていた彼女の社用車を利用して警察署へと向かった。
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普段使っている待機室へ着くと京香が備え付けの薄型テレビをリモコンでクイクイと示す、そこには[原因不明の爆発事故発生、負傷者多数]と見出しが付けられている。
「京香さん、これって…!?」
「…場所はセクター4、ほんのさっき速報が入ったばかり。うちからも応援が要請されて出動してる。」
映像には逃げ惑う人々と共に黒い煙を上げている高層ビルの姿が有り、その周囲には警察や救急隊が駆け付けている。舞依が陽香の隣で映像を見ながら口を開いた。
「派手にやりやがって、テロのつもりか?」
「恐らく…というかどう見てもテロよ。何せ数日前にセクター3で危険指定されてる薬品が盗まれ、更にその少し後に同セクター内に有った別の施設が狙われてる…何れも狙われたのは最新鋭の武器や装備を開発する研究施設、そして犯人は複数と見てる。」
「それで、ヤクの次は何パクられたんだよ?」
「話によると人型駆動兵器へのアクセスコード、それから小型制御端末…そして幾つかのドローンよ。」
「駆動兵器ぃ?ンだよそりゃ。」
「人型の制圧兵器というべきでしょうね。それと2人は現場へ向かって頂戴、事態の処理に増援が必要なんですって。」
京香の指示に舞依も陽香も頷くと2人は部屋を後にし現場へと赴いた。
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車を用いて辿り着いた先であるビル街の一部は既に規制線も張られ立ち入り禁止となっている。離れへ車を停めて2人も歩いて現場へ着くと周囲を見回すのだが辺りには崩れ落ちた建物のコンクリートの破片や砕け散った看板も散らばっている他に車も黒く焼け焦げて黒煙を上げていた。
「おーおー、こりゃひでぇ。戦争でもおっぱじめたのかと思ったぜ。この壊れ具合ならハリウッド映画のロケ地になれるかもな。」
「そんな訳ないでしょ…でもケガ人は大勢出てる。死者が居ないだけマシかもしれない。」
救急車のサイレンが鳴り響く中を進み、
陽香が付近に居た男性警官へ話を聞いてから
案内されたのは仮設テントが立てられた場所。
そこでは既に話し合いが行われていて2人にも資料が配られた。
「パクられたのはさっき聞いた奴ばかりで相手は2人組みで狙われた建物は何れも観光客向けのホテルと銀行にレストランとバー…成程な、手当り次第ってか。」
舞依が鼻で笑うと2枚目の資料を見るや目付きを変えた。
「どうかした?」
「……バーニィだ。はッ、生きてやがったのかアイツ。」
「バーニィ?舞依の知り合い?」
「…バーナード・シンプソン、元ウチの部署に居た奴で汚職は勿論、盗品の横流し、ヤクの密売を主にやってたクズん中のクズ。ジョーの顔に泥を塗るだけ塗り…そしてあたしを今でも目の敵にしてる。」
「…どういう事?」
「あたしの産まれは何処のセクターでもねぇ壁の向こう側のスラム…そん時にやらかしてサツにパクられた時、バーニィを含んだ奴等に強姦されかけた。そんで、ライセンス取得試験の前夜に奴と奴の仲間から仕返しを喰らった…ジョーの目の届かない場所だったから尚更。」
「酷い…ッ…。」
「…前の方とケツ穴、口、全部にブチ込まれて最悪の気分だった。スラムの人間はそこら辺に有る犬のクソと同じ扱い…だから何しても良いと思ってんだよ。ま、過ぎた事だし同情なんて要らねぇから心配すんな。」
資料を握り締めた舞依の目付きが強く鋭くなった。その目は普段見るあの殺意に満ちたそれと殆ど変わりは無い。そして舞依はテントから1人離れてタバコを吸いに向かった。
「…絶てぇぶっ殺してやる。舞依じゃなくリサーナとしてアイツをな。」
火を付けたタバコを吹かしていると招集の合図が掛かり、2人もまた指定された場所へと向かって歩いて行く。そこは爆発現場から離れた先にあるビル等の大きな建物が並ぶエリアでそこのパトロールをして来いという命令だった。
「どう見ても厄介払いじゃねぇか…ったく。帰ってテレビ見てる方が暇つぶしになるぜ?」
「あはは…嫌われてるのは確かだし仕方ないよ。」
「へいへい...。」
舞依がタバコの煙をふぅっと吐き出した時、鈍く大きな音が響き渡る、現場はそう遠くはなく走って駆け付けられる距離でそこへ急いで向かうと黒煙が立ち込めていて
周囲は騒然としていた。路肩に停まっていた車に建物のコンクリート片が直撃し
屋根がひしゃげている。他の車も同様に黒煙と炎を上げ、アラームが鳴り響いている物もあった。
「また爆発!?どうしてこう短時間に...!!」
「ハルカ!上だ、上に誰か居んぞ!!ふざけた真似しやがって...此処はハリウッドじゃねェんだぞ!!」
爆発したビルの反対側にある屋上付近を見て舌打ちした舞依は陽香と共にらせん状の非常階段を駆け上がって上を目指す。そこに居たのは白衣を着てガスマスクを付けた黒い長髪の人物、振り返るとその手には何かの装置が握られていた。
細身の体型からして女性である事は明白だった。
「治安警察です!その手の物を捨てて地面へ跪きなさい!!」
陽香がそう言い放つ、だが相手は臆せずに立ち尽くしていた。
「そのブツ捨てろってんだ、聞こえねェのかよ。無差別にバカスカ爆発させやがって...戦争でもおっぱじめる気か?」
「...随分と品の無い喋り方ね。それでもヒトを捕える立場の人間なのかしら?」
「品が無ェのはてめぇも同じだろマヌケ。それとだ...逃げられると思うなよ?此処できっちりお前を仕留めてやっから...泣いて謝るなら今のうちだぜ?」
舞依が先に双銃をホルスターから引き抜いて差し向ける、しかし彼女は何か違和感を感じていた。
「あら?撃たないのかしら。」
「はッ、ふざけやがって。此処に居ンのはてめぇ1人じゃねぇだろ?ハルカ、さっさとお前も構えろ...奴さん仕掛けて来るぜ。」
そう話した直後、舞依は左手の銃で自身から見てた左斜め方向へ発砲する。
すると何かに命中し弾丸があらぬ方向へ跳弾した。
そこに居たのはショートカットの黒髪を持つ少女で防弾ベストと半袖シャツと短パンを身に付けている。よく見ると右腕には何かしらの装置が取り付けられていた。
「へぇ、ステルスシステムを見破るだなんて凄いじゃん?」
「こういう場合、誰か1人を護衛に付けるモンさ。1人で来りゃあ蜂の巣にされて死んじまう...それがテロの主導者なら猶更な。覚えときな嬢ちゃん?」
「...なら私も教えてあげるよ。私達は絶対に捕まらない、だって殺すのはこの国の一番偉い人だから。これは悪魔でデモンストレーション......ライセンスが有っても役に立たないって事、教えてあげるよお姉さんッ──!!」
少女が右手の装置を操作した次の瞬間、勢い良く駆け出しその拳を振り翳して来る。
それを舞依は咄嗟に躱し発砲する。だがそれすらも躱して肉薄するとその拳を突き出した。
「──インパクト・クラッシュ!!」
「っぐぁッ─!?」
腹部へ拳がめり込み、衝撃と共に舞依の身体が吹き飛ぶ。
そして背中から地面へ倒れると転がりながら屋上の端で止まった。
「舞依!?」
「出力は2割にしてるから死なないよ?でもまぁ...結構痛いとは思うけどね?」
「くッ...!!」
陽香も少女へ銃口を向け狙いを定める、だが直後に耳鳴りの様な音が聞こえたかと思うと彼女は自然と銃を手放していた。視線を向けると白衣の女性が左手を陽香へ向けている。
「えッ...何で...右手が勝手に...動いた!?」
「ふふふ、今のが姉さんのサイコキネシス。警察の人なら知ってるでしょう?異能者って言葉。」
事実、犯罪が横行し始めたのは異能者という存在もその中に加わっている。
その半数以上が自然発生した者だが詳しい事は解ってはいない。
現にその力を利用し国家転覆を図ろうと目論んだカルト信者さえも居た程で
未知なる脅威と言っても過言ではない。するとガスマスクの女性はこう話し始めた。
「...成程ね。あの下品な子がハルカ、ハルカって言うから気にしていたのだけれど...そう、やっぱり貴女なのね?」
「誰なの...!?私は貴女なんか知らない!!」
「知らない?...酷いわね、昔はずっと一緒だったのに。」
何の事だか解らずに困惑していると女性はこう続ける。
「勉強も教えてあげたでしょう?お父様のようになりたいって言ったから一生懸命支えてあげたのに。」
「ま、まさか......!?でも...そんな訳ない、絶対...絶対違う!!」
「何も違わないわ。今この場で起きている事こそが真実なのよ...ハルちゃん?」
「ッ......!!」
咄嗟に銃を拾おうとしたが身体を動かす事が出来ない、そして女性がゆっくりと
陽香の方へ近寄って来る。近くで立ち止まると彼女を跪かせてから見下ろすような姿勢を取り、陽香の顔を覗き込んでいた。
「あのお人好しで何の取り柄も無いハルちゃんが今じゃ犯罪者を取り締まる警察官。それもライセンス持ち......生きていると面白い事もあるものね。」
「どうして...どうしてこんな事するの...?」
「...どうして?決まってるじゃない。全てはこの世を作り変える為...この日をずっと待っていた、もうこれで誰も苦しまなくて済む。ふざけた制度も何もかもが崩れ去るのよ。」
「そんな事...出来る訳が...!!」
「出来るわよ、だってその為に私は科学者になったのだから。」
歯を食い縛った陽香は相手を見ながら思い出した様に声を上げて叫んだ。
「こんなの間違ってる...こんなやり方、絶対に間違ってるよ...
そしてガスマスクの女性はその内側で小さく口角を上げて微笑んでいた。
(つづく)
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