討伐指定

陽が落ちかけていた。

山に隠れる前の太陽は最後の陽光で影を最大限に伸ばそうとしていた。

ストームハートへの帰路についていたリフリル、アマリア、エスバルドの三人の影も行き先を誘うように長く前に伸びていた。


<私の父は赤いエンシェントに殺されたの>


崖の上で低く昏い声でそう言ったアマリアは次の瞬間我慢が途切れたのか目に涙を浮かべ泣きそうなり声を絞り出すように言った。


「私はお父さんの仇を取りたい!・・でも・・でも・・!!」

言葉を詰まらせたアマリアをリフリルは静かに抱きしめた。


「ごめん、辛いこと言わせちゃったね。わかった、私も手伝う」

「うん、うん、ありがと」

アマリアも溢れる涙を拭おうとせずリフリルの腰に手を回す。

リフリルはしばらく抱き合うように身体を寄せアマリアの泣くに任せた。

「落ち着いた?」

「ええ」

リフリルはアマリアが落ち着いたのを確認すると離れて言った。

「さぁ帰ろうか!」

「そうね」

アマリアも泣きはらした顔だが穏やかな笑顔を見せ頷き山を下り始めた。


帰路の馬上でリフリルはエンシェントについて尋ねた。

「あの竜って宝石で出来てるって言ってたけど全部が宝石?それとも表面だけ?」

「全部よ」

「じゃあさっきのヤツを斃したら沢山の宝石が手に入るって事だよね!」

「残念、エンシェントは斃されると角だけ残して後は塵のように細かく散ってしまうの」

「ええ~!それじゃ金持ちになれないな~」


アマリアは笑いながら答えた。

「竜自体からは何もないけど莫大な報奨金がもらえるし一人で斃すと貴族にもなれるわ」

「貴族!?」

「そう今の貴族は全員一人でエンシェントを斃した三つ星ドラゴンスレイヤーの子孫よ」

「アマリアのご先祖様も?」

「そう」

「凄いご先祖様だね!」

「そうね・・でも今は・・」


アマリアが気落ちするような仕草をし始めたためリフリルは質問を変えた。

「さっきのエンシェントで音楽が聞こえると壁が消えたり竜も消えたりしたけどあれってなんだったんだろう」

俯いていたアマリアは顔を上げて言った。


「どうやら奴らは鱗を使って音楽のような呪文を唱えるらしいわ」

「鱗!?どうやって!?」

「私もはっきり知らないけど、どうやら鱗一枚一枚が自由に動いてそれを擦ったり叩いたりしているらしいわ。あと鱗の中に空気の通り道があるらしくて笛のように鳴らせる事も出来るみたい」


「へぇ~一人、いや一匹音楽隊みたい」

「そうね言葉も口じゃなくて鱗で話すらしいわ」

「鱗で!?どうやって話すの?」

「竜同士では私たちの言葉ではなくて音楽で話しているみたいね。私たちが口ですることを奴らは鱗でしているみたい」


ここでアマリアは一旦言葉を句切るように止めた。

そして次の言葉は独り言のように静かに、だが周りにはハッキリと響いた。

「だから奴らとは会話が出来ないの」


日が落ちて夜も更けた頃リフリル達は首都ストームハートに着いた。

「こんばんはー」

リフリル達はまずキャラウェイの薬屋に寄り依頼されていた小動物の分泌物を渡した。

「ありがとね~じゃあ~これが~報酬と~後これ~案内所に渡して~」

キャラウェイがリフリルから受け取った依頼書に依頼達成の焼き印を付け報酬金と一緒に渡す。


「ありがとう!キャラウェイさん!」

「はいは~い、ま~た~よろしくね~」

カウンターで気怠そうに頬をつき手のひらを上下に振るキャラウェイを後にしルーソンの壺に着いたリフリル達は冒険者受付のカウンターに座っているネイトに声を掛けた。


「いらっしゃいませ!」

「依頼達成したよ!」

「おお!おめでとうございます!」

リフリルはキャラウェイからもらった依頼書を手渡した。

「えっと・・はい!依頼者からの達成印がありますので達成承認です!お疲れ様です!」

「やったね!・・ん?」


アマリアに向けて破顔したリフリルは酒場の一角で人が集まりざわめいているのを見つけた。「・・じゃ・カリノ村・・・った・・・」

「ああ・・あ・なりゅ・・・・・・・・」

カリノ村という言葉を聞いて笑顔だったリフリルの顔がスッと険しくなった。

つかつかとその集りに近づき話している冒険者に声を掛けた。

「ちょっといい?いまカリノ村って聞こえたんだけど」

「ん、ああ、その村を襲った竜がわかったんだよ」

「どんなやつ?」


リフリルの険しい表情に少し気圧されながら冒険者の男は答えた。

「ブ、ブラッドリバーってやつだ」

「ブラッドリバー!?」

驚いた声がリフリルの後ろから聞こえた。

リフリルが振り向くとアマリアが驚いた顔をしている。

「知っているの?」

「ええ、グレーターの一体で黒い体に血の川みたいな赤い筋がいくつかある巨大な竜よ」

アマリアは続けて言った。

「そいつは不思議なところがあるの」

「不思議なとこ?」

「ええ、近い時間に離れた場所で目撃したそうだけど、だれもその間の移動を見てないって事が何度かあったらしいわ」

「だからディオン教官が駆けずり回って疲れたって言ってたのを覚えているわ」

「ディオン教官?」

「最初にあなたと出会った村に私と一緒に居た方よ、あなたは気を失って覚えてないと思うけど。そうかブラッドリバーか・・」


「なに?」

少し安心したような顔をしたアマリアにむっとした。

「いや、あなたが竜を斃すってきかないからどうしようかと思っていたけどブラッドリバーじゃあなたに斃す権利がないから悩み事が一つ減っただけ」

「権利?竜を斃すのに?」

「ええ、二つ星、三つ星になるためには一人でグレーターやエンシェントを斃すっていう説明は聞いたよね」

「えっと・・」


「覚えてないのね・・まぁいいわ、一人で斃すって言っても斃した証拠を持って帰ってきただけでは多人数で斃してないかを確認出来ないのはわかる?」

「うん」

「だから討伐時に確認官が同行することになってる」

「うん」

「そして確認官も暇じゃないから同行してもらうには日時を指定なくてはならない」

「えっそんなのいつ遭遇するかわからないじゃない」

「そう、だから竜一体を討伐指定するの」

「討伐指定?」


「今確認されている竜の内一体を指定してその竜の動向を優先的に知る権利を持てるの。そしてどこを住処にしているかを確認して確認官を連れて討伐するって流れね」

「さらに他の冒険者は突発遭遇以外ではその竜を斃してはいけない決まりになっているわ」「じゃあブラッドリバーはディオンていう人が討伐指定しているから私は手を出せないって事?」

「そうなるわね」


リフリルは眉根を寄せ明らかに不満そうな表情になり視線を下にし俯き加減で下唇を突き出してく黙り込んた。

しばらくして顔を上げたリフリルの表情は唇を引き締め悔しさを飲み込んだ決意のようなものがあった。


「ディオンさんに今回の事を伝えてブラッドリバーを斃してもらう。私が斃したいけどそれが出来ないなら斃せる人にやってもらう」

リフリルの涙を浮かべ悔しそうな顔を見ながらも少し笑顔になったアマリアは頷いた。

「そうね、ディオン教官が帰ってきたら伝えましょう」


「こっちから行く」

「え」

「こっちから行って、伝えて、斃してもらう」

「えっいや・・帰ってくるまで待ってもいいんじゃない」

「帰ってくるまで待ってられない。いつ帰ってくるの」

「いつって・・そういえば遅いわね」


アマリアはいつという言葉に反応し考えた。

エスバルドに聞いた。

「ディオン教官と別れてから十日くらいかしら」

「はい」

「調査と訓練で三日から四日ぐらいだと思うから移動時間考えても一週間位で戻ってくるはずよね」

「そう思います」

「三日くらい遅れるのはよくある事とはいえちょっと気になるわね」

アマリアはエスバルドを気遣うように言った。

「明日ディオン教官に会いに行こうと思うのだけど、ここのところ出かけてばかりで疲れてない?」


エスバルドは「お気遣いありがとうございます、ですがこのエスバルドこれしきのことでへこたれるような柔な身体はしておりません」と胸を軽く叩いて大きな笑みを浮かべた。

「それじゃあ明日準備して行きましょう」

「やったぁ!ありがとう!」


リフリルはアマリアに抱きついた。

「わかったから!重たい!」

アマリアがリフリルを離そうとしている時一人の女性が近づき二人に声を掛けた。

「私も一緒に行かせてもらえるか?」





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