首都へ(その一)
「うっ」
リフリルは強い光に包まれた気がした。
今まで生えるがままの木々のやさしい木陰に包まれていたが、開けた場所に出た途端日差しがまるで物理的に叩きつけるように襲いかかり目を閉じさせた。
ゆっくりと目を開ける。
「うわ」
優しいが少し窮屈な雰囲気だったものが一瞬で当たりは厳しいが開放的なものへと変化しリフリルは思わず声を上げた。
広い世界。
目の前に広がるのは遙か遠くまで見渡せる平地だった。
それが人の手によって作られたものだと一目でわかるものだった。
先ほどまで単に様々な理由で踏み固められただけで道となっていた地面が所々人の手によって道路として整備されている。
畑が見渡す限り左右に広がっている。
畑には何か作業している人の姿も見える。
遠くだが小屋のような建物らしき物も見えている。
早朝に出発してまだそれほど経っておらず太陽も真上にくるにはまだまだかかりそうだった。
「ふう、今日中にはストームハートに到着できそうね」
アマリアがすこし安心したように息を吐きつつ言った。
「今日で5日か、少しかかったわね」
「しかたありませんリフリル殿の体調を考えると急ぐ事は出来ませんでしたので」
馬に乗っているアマリアの横を歩いているエスバルドがアマリアとその前に乗っているリフリルを見ながら応えた。
「最初はね、でも」とアマリアがニヤリと悪い笑みを浮かべ前のリフリルによく聞こえるように少し声を大きめにし、さらに言葉一つ一つをハッキリと区切るように続けた。
「さ・い・だ・いの理由はリフリルが食料を食い尽くしたからよね」
「え」
リフリルが驚いてアマリアを見ようと振り向いた。ただ馬に乗っているせいで真後ろは見えずアマリアの悪笑みは見られなかったが。
「わたしそんなに食べてないよ!でしょ!エスバルドさん!みんな!」
助けを求めるようにエスバルドを見たがリフリルと目を合わせようとはしなかった。
他の周りを見回しても目を合わせないか困ったような顔、おそらくアマリアも同じ顔をしているだろう悪笑みとリフリルを助けようとする者は誰もいなかった。
実際気がついてからのリフリルの回復は早かった。
気がついた当日は食べ物もろくに食べられなかった。
移動も気を失っていた時のようにアマリアの身体にくくりつける事は無くなったものの馬から落ちそうになる事が多々あり途中で休憩を何度も取った。
しかし一晩寝ると前日までの弱々しいリフリルはどこにもいなかった。
朝食になるまで元気が無かったが、朝食を食べ始めた途端「美味しい!」と叫ぶと瞬く間に食べ尽くし、食べ終わると「美味しかった!」と元気よく叫んだ。
ただ少し経つと元気が無くなり、出発前にアマリアが「大丈夫?」と声を掛けると「う、うん」と少し曖昧な返事をしつつアマリアとは視線を合わせずさらに後方を見ていた。
(ん?)
アマリアが振り返り同じ方向を見るとエスバルドが荷物運び用の馬にある荷物を積んでいた
(食料?)
再びリフリルの方へと顔を戻すとリフリルの口元から液体が微かに見えた。
(涎?)
「もしかして朝食足りなかった?」
アマリアが尋ねるとリフリルは一瞬固まったがすぐに大きく首を振りながら「ううん、大丈夫だよ」と今まで聞いた中で最も大きく高い声で否定した。
アマリアは苦笑しつつも振り返り「エスバルド」と老騎士を呼ぶと「リフリルにパンと干し果実を少し分けてあげて」と指示した。
その後もリフリルの食事は皆よりも少し多めに出されたが、誰よりも早く食べ終わり他の食事を物欲しそうに見る事が多くなった。
そのたびに備蓄を小出しにしていたが遂に出発時は到着までは余裕があると思われた食料が底をつき始めた。
「ストームハートまで持ちません」
エスバルドが眉根をよせ困った様子でアマリアに報告した。
「困ったわね」
アマリアも下唇を突き出すように口を歪めながら腕を組んだ。
「お嬢様、その口はおやめください」
「え、あ」
エスバルドに指摘され元に戻したがしばらくするとまたさっきと同じように口を歪めた。
老騎士はもう一度指摘しようと口を開きかけたが、アマリアが真剣に考えているのを見て嘆息しそのままアマリアが考えをまとめるのを見守った。
「近くに村があったと思うけど」
「そうですね」
エスバルドが持っていた大雑把に描かれている地図を広げる。
「南に半日ほどの所にありますね」
「そこで食料を調達しましょう」
ということで寄り道した村まで半日、そこで一晩泊まり元の道に半日とただでさえ遅い進みがさらに遅くなってしまったのだ。
「・・・ごめんなさい・・」
力なく謝りうなだれたリフリルを見て(あ、やりすぎたかな)と思ったアマリアは「ええっと・・そうだこの前立ち寄った村の女の子かわいかったよねぇ」と話題を変えた。
その強引な話題の変え方で周りにいた者は皆驚きアマリアを見たがリフリル自身は変わった話題に特に変わったとは思わないような反応をした。
「村の女の子?」
「そう」
「ああ!あの女の子の持ってきた果物美味しかった!」
さっきまでのうなだれた様子とは打って変わって村で食べた物の話を語るリフリルを見てアマリアを含む皆は少し呆れたようにも見える笑みを浮かべた。
「・・・それで私が食べているとその子がトテトテと寄ってきてね・・」
「村を出る時にパンを持ってきてね・・・」
そういった話をしながらしばらく進んでいると周りの景色がだんだん畑よりも建物の密度が増していった。
そして太陽が真上を超え西に傾いてしばらくするとアマリアが「見えた」と前を指さした。
横を向いてエスバルドを喋っていたリフリルはそれを聞き前を向いた。
「あれがストームハート。我が国ヴィリディクトの首都よ」
遠くの丘のような盛り上がりの上にボンヤリと壁のような物が見える。
「なんとか日が落ちる前に着きそうね」
「はい、無事着きそうでなによりです」
アマリアとエスバルトの会話を聞きリフリルは「え、もう見えているからすぐじゃない」と疑問を口にした。
それを聞きアマリアが「そうよね、そう思うよね。私もそうだったから」と言いながら少し意地悪にも見える含んだ笑みを浮かべて続けて言った「まぁこのまま進めば分かるわ」
それからしばらく無言の進みが続いた。
リフリルはじっと前を見たまま馬に揺られていた。
「なに、これ・・」
盛り上がった丘の端が見えてくると驚嘆したように呟いた。
かなり先に黒い壁のようなものが見えるがリフリルが驚いたのは目の前の丘にあった。
その丘はうねるような盛り上がりがあちこちに見られた。
うねった盛り上がりはリフリルの背丈の5人分はあった。
道も盛り上がりを迂回するように先に伸びている。
丘に入ると先は全く見通せなくなった。
「何故真っ直ぐな道にしようとしないの」
「これでも土を盛って進み易くしたらしいわ」
「へえ~」
興味深そうに周りを見ていたリフリルが急に何かに気がついたように「あっ」と叫んだ。
「これって・・木の根っこ?」
「そう」
「じゃあ私たちの行く首都って」
「そう、切り株・・じゃなくてなんだったかなエスバルド」
「折れた後の株は倒木株と申しますが、これは燃え朽ちて樹木自体は倒れていないという事なので単に株と申して良いかと思います・・お嬢様、前に歴史としてお教えしたはずですが」
「えっ、まっ、まぁそうだったかな」
右にいるエスバルドの咎めるような視線を避けるように左を向いた。
アマリアはそのまま一回咳払いをして再び言葉を続けた。
「この木は根源樹と云って見ての通りとても大きくて焼ける前は天に届いていたといわれているの」
「でも何百年も前に焼けて今は首都になっている」
「木を中心に街が出来たのね」
「いいえ、幹の中に街があるの」
「幹の中!?木の中に都市があるってこと?」
「そう」
「木の中に人が住むって狭くないの?」
アマリアは後ろを向いて問いかけるリフリルに「見たら分かるわ」と含むような笑みを見せた。
根の間の道をしばらく進みやがて日が落ちかけ夜の闇が辺りを薄く覆い始めた頃「ほら見えてきた」とアマリアが前を指さした。
ちょうど前を塞ぐように高くそびえていた根を左に回り込んだ所だった。
リフリルが前を向くと「うわっ」と声を張り上げた。
目の前に今までの根の高さとは比べものにならない位高くまた横にも端が霞むような巨大な壁が現れた。
暗くなってきたためちょうど篝火が焚かれ始めたところだった。
その光が辺りを照らし始めているが壁の上部には全く届いていなかった。
最上部にポツポツと焚かれた火が微かに見えるがそれがさらに高さを強調していた。
口を半開きにし上を向いたまま身動き一つしなくなったリフリルを少し微笑みながらアマリアは少し芝居かかったように言った。
「ようこそヴィリディクトの首都ストームハートへ」
リフリルがストームハートの壁の高さに驚いていた頃その壁の最上部で篝火に火を灯す作業をしている兵士がもう一人の歩哨に立っている兵士から遠くを指さしながら声を掛けられた。「あれ竜じゃないですか」
作業を中断した兵士が指さされた方向を見る。
「ああ竜っぽいが・・でかくないか?」
「あれだけでかいのは珍しいですね」
「そうだな、だがこちらに来なければ問題ないだろう」
そう言っている間に日は落ち辺りは闇に包まれ始めた。
遠くに見えていた竜の姿も闇が包むようにその姿を消していき兵士からは何も見えなくなった。
「こちらに来たら厄介だから気をつけてくれ。俺は明かりを灯すついでに他の連中に知らせてくる」
「了解しました」
そう言って作業を中断していた兵士は再び篝火に火を灯し始めた。
最初に竜を見つけた兵士もしばらくはいつもと違う音や気配が無いか暗闇の先をじっと見つめ注意を払っていたが何も起こりそうに無かった。
遙か先の森や畑で時々明かりが動いたり突然光ったりすぐ消えたりしていたがこれは夜行性の獣やゴブリンのようなモノを追い払ったり退治しているいつもの光景だった。
だから遠くでの大きめの光も気に留めなかった。
(何も起こりそうにないな)
兵士はそう判断し一息つくと身体をほぐすように伸びをしボンヤリと星空を眺め始めた。
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