隣の席のイケメン美少女、俺と喋る時だけたまに乙女になる〜子供の頃格好付けて助けた女の子と高校で再会したら、誰よりも格好良く&可愛くなってて猛攻が始まった~
プロローグ 後から振り返るととんでもない子を生み出してしまった日
隣の席のイケメン美少女、俺と喋る時だけたまに乙女になる〜子供の頃格好付けて助けた女の子と高校で再会したら、誰よりも格好良く&可愛くなってて猛攻が始まった~
みわもひ
プロローグ 後から振り返るととんでもない子を生み出してしまった日
始まりは、公園で泣いている女の子を見つけたことからだった。
「……ぅ……、ぐすっ……」
小学校低学年の
見たことのない子だった。この辺りの子ではないのか、或いは滅多に外に出たことのない子だったのか。
どちらかは知らないが、放っておくわけにはいかない。公園に走って向かい少女の近くにしゃがみこむと、「どうしたの?」と声をかけた。
「っ」
びくりと一つ肩を振るわせ、その少女が顔を上げる。
とても可愛らしい女の子だった。淡い色の髪に暖色の瞳、色合いだけをみるといかにも明るい印象を抱くが、それとは裏腹に表情は弱気を感じさせ、瞳は涙で揺れている。
辛抱強く待って話を聞くと、どうやらここの子供達に仲間外れにされてしまったらしい。久々に外に出て仲間に入れてもらおうとしたが、自分が口下手だったせいで置いていかれてしまったのだと。
それで、一人になって心細くて泣いていたとのこと。
「なるほど」
よし、助けよう。小学校低学年の子供らしく安直にそう思った。
軽く話は変わるが、当時の燎は、それはそれはもう格好良いものが大好きだった。
例えば画面の中のヒーローや、華麗に躍動するプロスポーツ選手。そう言った普通の男の子が憧れるものだけでなく……姉が見ていた番組の変身する少女や恋愛漫画のヒロインが恋する相手など。
ジャンル内容性別も問わず、とにかく格好良いものを見ては目を輝かせまくっていた。
そして──いつか自分もそういうものになる。そう信じて疑わなかった。
そんな素敵なものに憧れるお年頃の少年が、公園で一人泣いている可憐な女の子を見かけたらどうするのか。決まっている。
そう。格好をつけるのである。
聞いたことをまとめると、遊び相手がいなくなって泣いていたとのこと。
なら当然、言うべきことは一つだ。
「じゃあ、一緒に遊ぶ?」
「いっしょに……? なに、するの?」
そんな少女の問いに、よくぞ聞いてくれましたとばかりに燎は胸を張って。
「ずばり──冒険です!」
思いっきり当時ハマっていた勇者的な方々がファンタジーな世界を冒険する系のRPGの真似事を宣言した。小学校低学年なのでこんなものである。
「ぼ、冒険?」
「そう! とにかくこの街を走り回って、すごい場所や楽しい場所、素敵な場所をいっぱい見つけるんだ! たとえば……」
そんな燎は辺りを見渡すと、まずはびしりとまずは花壇の一角を指差して。
「あそこのお花はね、食べられる甘い蜜があるんだ! たくさんとっちゃだめって言われてるけど、一個くらいなら大丈夫! 回復アイテムだね!」
続けて、公園に併設している神社の方を指して。
「そこの神社の裏手には、たまにお金が落ちてる! あ、これもとるのはだめだよ、神様のものだから! でも、見つけてちゃんとお賽銭箱に返してあげると、なんかの経験値が上がるってお姉ちゃんが言ってた!」
唐突な情報に、目を白黒させる少女。そんな彼女に燎は笑うと、満を持してとっておきの情報を告げる。近くの塀を指差して。
「それでね、あの塀の裏にある空き地には、たまにレアキャラが出るんだ。それはね」
「そ、それは……?」
「……猫です!」
「!」
少女の目が輝く。
「人懐っこいらしくて、触っても全然逃げないんだ! すっごいあったかくてもふもふなの! 猫、好き?」
「す、好き……!」
「ならよかった! 夕方あたりによくいるから、もうちょっと後で行ってみよう!」
好反応を引き出せたことに喜びつつ、燎は続ける。
「こんな感じで、この辺りの楽しい場所を回ったり、新しく楽しい場所を見つけたりする遊び! 一人でも楽しいし、二人でならきっともっと楽しいよ! どう?」
そう締めくくり、屈託なく笑う燎。少女はそんな燎をしばし見つめていたが……どうしてか、顔を落として告げる。
「……すごいね、きみは」
「?」
「わたしは、ひとりぼっちになったら悲しくて泣いてるだけだったのに……きみは、一人でもこんな楽しそうなことができて……わたしとは、全然違って」
そう語る少女の瞳に、再びじわりと涙が滲む。
「やっぱり……わたしは、だめなんだ。弱虫で泣き虫な○○○じゃ、なにもできないんだ……!」
一部小声で聞こえなかったが、きっと自分の名前を言ったのだろう。
何があったかは分からないが、とにかくこの女の子はすごく今、自分に自信が無いことが分かって……
「──じゃあ、今から変えよう」
気がつくと、燎はそう言っていた。
信じたんだと思う。自分はいつか、物語で見たような格好良い奴になる──
──
少女が顔を上げる。
「え……?」
「弱虫で泣き虫な自分が嫌なら、変えるんだ。格好良い自分に、今から。きっと今が最大のチャンスだよ、だっておれと出会ったんだからね!」
胸に手を当て、自信たっぷりに。例によってかなり格好つけて、燎はそう言う。
……今思えばなんとも小っ恥ずかしい自信だし、正直言うと当時の燎も若干恥ずかしかったが。
それでも、この子に元気になって欲しい。その一心で、言葉を紡いだことは覚えている。
「おれが教えるよ。楽しい場所の見つけ方、楽しみ方。冒険の仕方。外に目を向ければ、楽しい場所も楽しいことも、いくらだって溢れてるって!」
「で、でも…………じゃあ、外に出られなかったらどうするの?」
「それなら……インターネットとかでもいいんじゃないかな。あ、でもネットは怖いところらしいから! 油断すると画面に吸い込まれて食べられるらしいから! お父さんお母さんの言うことはちゃんと聞いてやろうね!」
若干話題が逸れてしまったが、ともかく言いたいことは。
「冒険は、誰だってできるよ。どこにいても何をしていても、楽しいことやワクワクは見つけられる。その気になれば、どこにだって行けるしなんだってできる!」
「!」
「大丈夫、きみもできるよ。だって……よく分かんないけど、きみは今日外に出たんでしょ? 今までできなかったことをした。じゃあもう、最初の一歩は踏み出してる」
少女の目が見開かれる。
「やり方を知らないだけだよ。で、それはおれが教えられる。それでも自信が無いなら……そうだな」
けれど、その瞳にはまだ若干の迷いが滲んでいて。それを後押しするために何かないかと燎は自分の記憶を漁って……こんなことを告げた。
「『今の自分』に自信がないなら、『違う自分』になってみるのはどう?」
「ち……違う、自分?」
「そう。おれといるときだけ、きみは違う自分になるんだ。せっかくだし名前から変えてみようよ。えっと、えっと……そう、コードネームってやつ!」
思いっきり当時ハマっていたスパイもののアニメにばっちり影響を受けての提案だ。小学校低学年なのでこんなものである。
「たとえばそうだな。おれの名前は……『リョウ』で!」
最初に例を示すべく、彼はそう告げる。
語源は極めて単純、自分の名前の音読みだ。ちょいちょい初対面の人間から間違えられるその読みをせっかくだし採用した。
「本当の名前は『かがり』だけど、きみといるときだけおれは『リョウ』になる。そんなふうにまず名前から自分を変えてみて……そこから、その自分を本当にするんだ!」
そのあたりで、少女の顔に理解と共に──希望を見つけた輝きを見て。
踏み出そうとしている、と察した燎は、最後に立ち上がって口を開く。
「それじゃあ、もう一回聞くよ」
年頃の少年らしく、格好つけて、儀式めいて。
彼の好きな冒険のゲームから、印象的な一文を拝借して。
「──野生のヒーローが現れた!」
まずは名乗りから。……自らヒーローを名乗るのも何ともだし、『野生』の部分はなんか響きが格好良かったから採用しただけで特に意味は分かってないのだが。
それでも、その時の彼は自信を持ってそう名乗り。
その上で、少女に向けて真っ直ぐに手を伸ばし。彼の大好きな多くの物語の始まりとなる、この言葉を口に出す。
「冒険を、始めますか?」
真っ直ぐな彼の笑顔と、その後ろで輝く太陽。
二つに照らされたその少女は、最後に一つ下を向いてから──もう一度顔を上げ。
「……『ケイ』」
確かな光を宿した瞳で、そう告げる。
「きみといるときの、わたしの名前。泣き虫でも弱虫でもない、ケイ、になりたい!」
そうして立ち上がり、差し出された手を取って。
「ぼうけんを、はじめる!」
その返事に、燎はもう一度笑って。それに釣られて、少女も初めて……とても可憐に、控えめながらも輝くような笑みを見せるのだった。
◆
その日から、二人の……『リョウ』と『ケイ』の冒険が始まった。
週に何回か、都合のつく日は毎日会って。幼い日の大冒険を繰り広げた。
ケイの案内でまだ知らない場所に足を踏み入れて秘密基地を作ったり。
二人が自転車を手に入れた日は、『世界の果てまで行ってみよう』と無謀な挑戦と共に自転車をひたすら漕いで、案の定途中で力尽きて二人揃って怒られたり。
普段はリョウが引っ張る側だったが、基本引っ込み事案ながらも時々謎のアクティブさを発揮するケイにとんでもないところまで連れていかれたり。
一緒にリョウがのめり込んでいたサッカーを体験して、思った以上の負けず嫌いを発揮したケイと泥んこになるまでボールを追いかけ回したり。
リョウはそのサッカーに、ケイは歌にちょっと興味があると、各々のやりたいことや将来について無邪気に語り合ったり。
これまでで、一番楽しい冒険だった。二人なら、本当にどこにだって行けるしなんだってできる気がした。
気づけば燎も、彼女との日々が一番楽しみになって。幼少期の中でも一番素敵だと言えるくらいの、充実した数ヶ月間を過ごした。
そう──数ヶ月しか、過ごせなかったのだ。
彼女と出会ってから数ヶ月後。彼女と出会った公園にて。
「……ぅ……、ぐすっ……ぅう……っ!」
あたかも出会いの日をやり直すように、彼女は泣いていた。
『ケイ』もこの日は、泣き虫の少女に戻ってしまっていた。何故なら……
「……遠くに、行っちゃうの?」
珍しく沈んだ声色で、燎が問いかけた言葉の通り。
ケイが、遠くに引っ越してしまうらしい。詳しい事情は聞けなかったが、それが避け得ようのない別れであることだけは、はっきりと分かった。
「リョウ……ごめん、ね……っ」
「な、なんで謝るの? ケイが悪いわけじゃ……」
「ううん、そうじゃないの。だって、だってわたし……」
慌てる燎に、彼女はこう告げる。
「わたし……リョウに、何も返せてない……っ!」
「──」
「助けてもらったのに、わたしからは、何も……!」
それを聞いて、燎の中にはいくつかの言葉が浮かんだ。
その多くは、そんなことないよ、系統の本心からの言葉だったが……それを言ってしまうのは、なんというか……寂しい気がしたので。
代わりに、彼はこう告げる。
「じゃあ、約束」
小指を出して、笑顔を作って。
言葉通り、彼は約束をする。まず一つは再会の約束。離れ離れになる二人が行う、様式美のようなものだけど、それでも。
そしてもう一つ……
「いつかまた会って、それでおれがつらかった時は……」
「……うん」
「今度は、ケイがおれを助けてよ」
彼女の目が見開かれ、綺麗な瞳が燎を見据える。
それがなんとなく気恥ずかしくて、燎は誤魔化すように。
「ま、まぁ、ないとは思うけど! おれはいつだって最強だけど! でも……」
「うん、分かった」
けれど、そんな誤魔化しも無粋に思えるほど、彼女の返答は真剣で。
「約束、する。絶対、ぜったい……!」
それ以降の言葉は涙で紡げなかったものの、彼女の意思はこの上なく伝わって。
「うん。……約束ね」
最後に固く小指を結んで、二人は数ヶ月の思い出に別れを告げた。
そんな、きっとありふれた幼少期の一幕。
幼くして離れ離れになってしまった友達同士なら、誰もがするような……そして、その多くはきっと果たされない、儚くも切ない別れの儀式。
……けれど。そんな、ただの幼い思い出になるはずだった約束が。ただの淡い記憶になるはずだったこの日々が。
まさかまさか双方の人生に、この先も密接に関わってしまうなんて。
具体的には、まず少女の方は彼女自身にあまりにも大きな影響を与え。
燎の方は八年後、これが巡り巡って人生を変える契機になってしまうだなんて。
燎も、そしてきっと彼女の方も。この時点では、まさしく夢にも思わなかったのである。
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読んでいただきありがとうございます!
本日はもう一話更新。
「面白い」「続きが気になる」「この二人がどうなるのか見たい!」と思った方はぜひ
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