灰の都で笑って

秋田こまち

0-1

世界中に発生した謎の鉱石、輝暁石。

 輝暁石は燃料として非常に優秀であり、水力や火力、原子力発電以上の発電効率を誇り、気づけば勝手に発生するためウランよりも持続年数が高く、それによって世界は目覚ましいほどの経済発展を遂げた。

 だが、輝暁石には決定的な欠点があった。輝暁石は陽の光を浴びれば燃えてしまう。その際に多量の灰が発生する。その灰には毒が含まれており、それによって流行した新型感染症によって人類はこれまで築いてきた文明の崩壊の危機を迎える。

 吸ってしまえばどんどんと体内に毒が蓄積されていき、最終的には死亡。死者は意識不明にはなるものの、屍となっても動き続ける。脳に作用して死体を強制的に動かすため一種の脳ウイルスとも呼ばれている。

 だが、抗体を持ったものは通常ではあり得ない超常的な能力を手にするという。 

 灰毒病かいたいびょうと呼ばれたその感染症は、世界中に蔓延した。

 特に感染拡大がひどかった先進国の首都は半永久的に封鎖。いつしか閉鎖都市と呼ばれ、回復の兆しは見えず、開放の希望は完全に途絶えた。

 

 日本の空は、今日も分厚い灰色の雲に包まれていた。

 礼二は窓から空を眺めていた。

 ・・・現実から目を逸らしながら。

「どうして認めてくれないのですか!」

 机を叩く音が聞こえる。

 ビクリと、礼二の身体が大きく震える。

「許可できませんよ。国家間を飛び回る武装組織なんて」

「武装組織ではありません!これはれっきとした保護団体で・・・」

「では、この計画書のどこに保護要素があるのか、十行程度で説明してもらえますか?」

 ぐ。と、目の前に立つ少女は引き下がる。

 政府の許可がでない限り、このような組織は立ち上げられないとされている。それでも狭き門なのだが、

ましてや、"国内外を活動拠点とした感染者の保護を目的とする武装組織"なんて。

「そ、それでも、世界には助けを求めている感染者のかたが・・・」

「わざわざそんな危険因子の肩を担ぐ企業が、この国に必要なのですか」

 うぐぐぐ。と、先程よりも大きな唸り声を上げながら少女は再び引き下がる。

「会長、あきらめましょう。政府にいくら言おうと国外での活動は許可されませんよ」

「礼二さんは黙っててください」

「お嬢」

 少女を軽く宥める。

「良いですか?よく考えてください。私達は足を洗ったとてただの元反社です。そんなやつらが、こんな怪しい計画を立てて、怪しまれないわけないんですよ。だから大人しく回れ右して帰ぶべらッ!?」

 少女が右を向いたかと思えば、腹部に強烈な痛み。

 視線を下げれば、そこには蛋白質が足りていなそうな細い腕から伸びた拳が深々と礼二の腹を刺していた。

「・・・失礼。勿論、許可してもらえますよね?」

 代表取締役を名乗る少女は、笑顔で拳を構える。

 それは遠目から見たら脅しのようで、近くで見てもやはり脅しだった。

 机の前にいる審議官は、目を丸くすると、無線機に手を掛けた。

「こちらG1」

「あれ」

「現在折紙組残党の襲撃にあっている。応援頼む」

「あれ?」

 即座に扉が開かれる。

 警備員は少女と礼二に組着くと、そのまま警察に連行していった。

「あれぇ?」


「何で私達捕まってるんです?」

「お嬢が思いっきり脅したせいでしょ」

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