Crown of You

ずっと

1.道化師《クラウン》

 時は昔、あるところに “クラウン” と呼ばれる一人の道化師ピエロがいた。

 陽の光に晒されサラリと輝くパールグレイの短髪。白塗りされた顔。その上から身につけている、涙型にあしらわれたスフェーン付きの金のマスカレードマスク。赤い口紅が塗られ、奇妙なことにプルシアンブルーのタキシードで全身をつつんでいた。

 まったく、当時の人々からしてみれば誰もが首を傾げる変なさすらい者であった。

 しかしそいつは、まごうことなき典型的な間の抜けた道化師だった。

 彼が笑えば皆が笑う。彼が跳ねれば風がどよめく。

 クラウンが現れる毎週日曜日の午前の広場は、いつしか人々の憩いの場となっていた。

 反対に彼が去れば、街は元通り薄暗い霧が立ち込め、静かな時間が流れて再び重苦しい一週間が幕を開ける。



                  …



 水がシャンシャンと跳ね踊る噴水を背にして、クラウンは今日もその姿を現す。

 ああ、このまま二度と明日が来なければいいのに。

 クラウンが広場に訪れるのを心待ちにしていた人々は、老若男女 例外なく心のなかでそう息を吐いた。

 みんなにしっかり届くように、クラウンはにこやかにゆっくり手を振り続ける。



                  …



 「ねぇ、クラウン。 どうしてあなたはおしゃべりができないの?」

 クラウンが街に訪れるようになってから五回目の日曜日。見事なパントマイムを一通り披露し終えた彼に、ザアザア拍手の雨が止まぬ中 一人の少女が彼の腕にしがみついた。

 「おいアマル、おまえだけずるいぞー」

「クラウン様になんてことを仰るの?」

「この無礼者が! 今すぐ下がれ!」

 すぐさま非難の矢が遠慮も無しに少女を襲う。

 道化師は困ってしまった。そして、心底悲しそうにむんと口を歪めた。輝くパールグレイのセンターパートから、力なく垂れ下がったアクアマリンの瞳がのぞく。

 「わたし、あなたに世界を救ってほしい」

 彼女はきっと、世界を知らない。少女が言う世界とは、地球上に存在しているこの小さな小さな街のことなのだろう。

 強い眼差しで見上げ続けるその瞳。まさに希望のまばゆきシトリン。



                  …

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