第③.4話
「前に言ったよぉにぃ、最初の殺人は事故ですぅ。だから、城鳥さん③が漆代さん③を殺してしまったのも、事故。それはきっと二日目の夜に、漆代さん①が城鳥さん①のところに行って、漆代さん③が城鳥さん③のところに行った……あの件と関係していると思いますぅ」
「あの日以降、漆代さん①が城鳥さん①に比較的誠実風に接していたことから推測すると……おそらく二日目の夜に城鳥さん①のところに行ったときの漆代さん①も、誠実キャラを演じていたのでしょぉ……。そして逆に、あの夜の漆代さん③は、城鳥さん③に強引に迫った……。場所も、漆代さん①のように城鳥さんの部屋を訪れたわけではなく、自分の部屋に呼び出したのでしょぉ」
「そこで城鳥さん③は、漆代さん③から無理やり関係を迫られたぁ……」
「それに抵抗しているうちに、思わぬ力が入って……彼を突き飛ばしてしまった……。そのときの打ちどころが悪くて、彼は亡くなってしまったぁ」
「焦った城鳥さん③は、その場から逃げ出そうとするぅ……。しかし、部屋の外の廊下から、別の漆代さんがやって来たことに気づいてぇ」
「思わず、生徒会室の鍵をかけてぇ……中に隠れたのですぅ」
「……」
まるで、見てきたように語るマナオたち。
それはハイメにとって、あまりにも耳が痛い言葉だった。
なぜならば、それはハイメが――ハイメ③――が実際に見てきたこと、やってきたこと、そのものだったから。それは全て、真実だったからだ。
「しかし、このままではいずれ自分が部屋にいないことが露呈して、自分が彼を殺したことがバレてしまうぅ……。そこで城鳥さんはスマホからチャットアプリで自分の②にダイレクトメッセージを送ってぇ……自分のアリバイ工作をするように頼んだのですぅ」
「いきなりそんなことを言われた②さんは、きっとすごく驚いたと思いますぅ……。普通だったら、そんなこと急に言われても、冗談だと思って無視するぅ。でも……それが、ほかでもない自分からのメッセージだったからぁ……」
「誰よりもその性格を知っている自分が、そんな冗談を言うはずがないぃ……。だから、城鳥さん②もそのメッセージを信じて、アリバイ工作を手伝ってくれたのですぅ」
「こんな状況だからこそ……。相手がドッペルゲンガー……すなわち自分自身だったからこそ……。メッセージ一つで共犯者を用意することが、出来たわけですねぇ」
「……はあ」
大きくため息をつくハイメ。
それは、これまでのどのため息よりもわざとらしく、演技がかったものだ。
「それで……二つ目は?」
「えぇ?」
「二つ目の佐尻たちの毒殺は、どう説明するの?」
冷めた目つきをマナオに向ける。
「一つ目の漆代殺しについては、その仮説で説明出来るかもしれない。……少なくとも、すぐに思いつくような矛盾はなさそうだわ。でも、二つ目の事件が謎のままだったら、意味ないでしょう? それとも、一つ目と二つ目は別の犯人とでも言うつもり?」
全てを拒絶するようなその視線に、マナオたちは一瞬体を硬直させる。しかし、告発をやめたりはしなかった。
「いいえぇ」
「佐尻さんは、犯人にとって都合の悪い事実を知ってしまったから消されたのですぅ……。だから、一つ目と二つ目の犯人は同じ……佐尻さんたちを殺したのも、城鳥さんの②と③ですぅ」
「その方法についても、ついさっき、分かりましたぁ。それも、ご説明しますぅ」
それからマナオは、数本の飲料水のペットボトルと、空のカップ麺の容器を職員室の机の上に並べ始めた。さっきハイメがここに来るまで間に、用意していたらしい。ペットボトルのうちの何本かには、赤い水が入っていた。
「この赤い水は、漆代さんが持っていた絵の具を勝手にお借りして、色をつけましたぁ。職員室にあるペットボトルはどのみち『危険』で飲めないので、これから行う実験に使わせてもらおうと思いましてぇ」
「それって……」
「はいぃ」
「佐尻さんたちを殺害した毒は、カップ麺そのものに入っていたのではなく……そのカップ麺に入れたお湯……。すなわち、カップ麺を作るために使った飲料水のペットボトルの中に、入っていたのですぅ」
「……ふん」
嘲るように鼻を鳴らすハイメ。
「毒が何に入っていたとしても、同じことでしょう? 私たちは、各自が自由に自分の食べたい種類のカップ麺を選んで、自分でそれを作っていたのよ? ポットに水を入れて沸かしたのも自分自身。つまり、そのための水のペットボトルも、自分で選んでいたのだから。毒の入ったカップ麺を選ばせることが出来ないように、ペットボトルだって選んで使わせることは出来なかったわ」
また、必要以上に説明してしまう。
それが、「追求してほしくないこと」だという証明になっているのにも気づいているのに。
「もしも、お湯を沸かすのに使ったのが500ミリリットルのペットボトルだったらぁ……その反論は正しいですぅ」
「ボクたちが自分のカップ麺を作るのに、一人が一つのペットボトルを使っていたのだとしたらぁ……。相手に狙ったカップ麺を取らせることが出来ないように、狙ったペットボトルを取らせることも、不可能ですぅ」
「でも、そうではなかった……。ボクたちがカップ麺を作るのに使ったのは、1.5リットルのペットボトルでしたぁ。各人が自分用の一本を使うわけではなく、複数人で1本を共有する1.5リットルのペットボトルならぁ……話はだいぶ違ってきますぅ」
「毒を警戒していた佐尻さんは、カップ麺を最後に選ぶようにしていましたぁ。他の人が選んだ物を選ぶことで、カップ麺の中に毒が入っていた場合に自分がそれを選んでしまうリスクを、少なくしようとしていたぁ。でも、それこそが犯人の……城鳥さんの狙いだったのですぅ」
マナオは、職員室の隅の置いてあるペットボトルの入っていたダンボール箱を指差す。それは、1.5リットルのペットボトルが8本入るケースだ。
「4本が2列に並んだ8本入りのケースで、端から順番にペットボトルを取っていくなら……相手が取るものをコントロールすることは可能ですぅ。たとえば、真ん中の4本に毒を入れて、右端と左端の2本ずつに毒を入れなければ……右端から取っていっても、左端から取っていっても、『必ず3本目から毒が入っている』という状態になりますぅ」
「毒を恐れた佐尻さんは、三人とも、あえて最後にカップ麺を選ぶようにしていたぁ……」
「カップ麺を最後に選ぶということはぁ、それを作るためのお湯……水も、最後にカップに入れるということ。それ以外の人が端から2本の安全なペットボトルを使いきった状態で、『毒入りの3本目のペットボトル』を選んでしまう、ということだったのですからぁ……」
そこでハイメが口を挟む。
「だ、だから……私たちは、適当にカップ麺を選んで、水を入れていたのだから、その『3本目』を選ばせることが無理だって言ってるのよ! そうでしょう⁉ カップ麺はサイズがバラバラで、どのくらいの量の水を使うかなんて、誰にも分からないのだから――」
「いいえぇ。カップ麺でどのくらいの水を使うかは、分かりますぅ。それどころか……数学が得意な城鳥さんなら、相手に毒入りを選ばせるように完璧にコントロールできたのですぅ」
それからマナオたちは、机の上においたペットボトルと空の容器を使って、その「実験」を始めた。
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