第40話 ローガンさんとのお堅い話

 ローガンさんとリーガル商会が持ってきた話しの内容を良く聞いてみると、特許制度に似てるものだった。ただ、ローガンさんはそれを広めれば文明が発展するという本質までは気づいていないようです。


「ローガンさん、先程の情報と引き換えに対価を貰うという方法には三つの方法があります。一つは情報を渡した時に一度きりの対価を貰う方法。二つ目は情報により作られた商品一つに付き幾らと決めて対価を貰う方法。そして最後はこの両方を貰う方法です。勿論、この方法の時は初めに貰う対価を少なくします」


「成程、情報を売る事で継続的に対価を複数から受け取る事も可能に成るから、秘密にするより儲ける事が出来る可能性がある訳ですね」


「そうすれば、色々と変わっていくと思いませんか?」


「確かにそうなれば今まで秘密にされていたことが世の中に広く伝わる訳ですから、生活が便利になったり、今回のように食事事情が良くなって行きます。これはリーガル商会の会頭と話す価値がありますよ」


「ローガンさん、今まで話した内容は概要だけですから、今後その制度を作る時までにもっと細かく決める必要はあります。そしてこの制度を仮にですが特許制度と呼ぶことにしましょう」


 特許制度については先ずはこの程度で良いでしょう。どうせこの先の話は商業ギルドで力を持つであろうリーガル商会を交えて話さないといけませんからね。


「ところでローガンさん、うちが貰う対価は幾らぐらいなんです?」


「あぁそれをまず片付けましょう。これがその魔法契約書です」


 ローガンさんが取り出した魔法契約書を見た時に、見間違いではないかと何度も目を通しましたが、条件的にはかなり良い内容でした。ただ、逆に条件が良過ぎて疑いたくなるレベルでしたけどね。


「こんなに良い条件で本当に良いのですか? 労働力や設備についてはリーガル商会が責任を持って調達する。その上で月額金貨300枚は条件として破格だと思うんですが……」


「そんな事はないですよ。これから販路が広がり、ましてや庶民にまで広がれば、儲けは今の何百倍いえ何千倍にもなりますからね」


「そうですか、では、この条件に私から二つ付け加えて良いですか?」


「それはどんなことですか? 内容によっては一度持ち帰ってリーガル商会の承諾が必要になります」


「一つはうちが卸せる範囲には手を出さない。二つ目は、この契約に期限をつける事です。20年後にはこの契約は無かったものになり、それ以降は月額金貨300枚を支払わなくて良くなるという物です」


 二つ目の条件は、前世の特許制度にもあるもので、永遠に特許を主張する事が出来なくする為の決まり事です。目的は技術の独占の防止と産業の発展を促進させる為です。


 前世で私が薬学博士として将来新薬を開発したら、必ず必要に成る物だったので色々調べていたからよく覚えています。まぁその夢を叶える事は出来ませんでしたけどね。新薬の研究をすることもなく生涯を終えてしまいましたから……。


 まぁ今思えばかなり夢見がちな考え方だっと思います。だって新薬の開発なんてそう簡単に出来る事じゃないですからね。


「本当にそれで良いのですか? 権利は何時までもあった方が良いと思うんですが?」


「ローガンさんは別に私に付き合わなくて良いですよ。この契約は私とリーガル商会のもので、ローガンさんの契約とは別ですからね」


「…………」


 これはローガンさんに余計な事を言ってしまったかな? 私の提案を自分の事にかさねて考え込んでしまった。


「あぁそうだローガンさん、この契約書にはスライム手袋につては何も書かれていませんでしたけど、リーガル商会は売る気が無いんですかね?」


「その事を言うの忘れていました。 スライム手袋に関しては私が独占で販売する事に成っていますから、こちらは私とマリア様との契約になります」


「そうなんですか……? あれ? もしかしてローガンさん店を持つつもりですか?」


「はい、スライム手袋は腐りませんし、こちらなら私が商売をしてもリスクが少ないですからね。それに米の事もありますから、店を持つ方が良いと思ったんです」


 確かにスライム手袋は腐らないからローガンさんが店を持って販売した方が良い。それにローガンさんは恐らくリーガル商会の販路拡大に便乗して自分で売り歩かなくて良いように考えている筈。奴隷の調達は弟さんがやるのだから、そのうちの一人、二人をローガンさんの店の従業員にしてしまえば、リーガル商会が魔魚の生産工場を作る所には同時にローガンさんの店の支店も出来る事に成る。


 ん? でもそれだと魔魚の商品どころじゃない数のスライム手袋を私は作らないといけないんじゃない。 ましてそうなると、当然のように手袋の材料であるスライムを大量に捕獲しなくてはいけない。どうする? こうなったら製造方法も簡単な仕組みではあるけど機械化して材料のスライムも養殖する……? 


 う~~ん、この事は私一人では決められそうにないからみんなに相談して改めて考えよう。



「話しは変わるけど、ローガンさんが今回連れて来た奴隷は鍛冶師を筆頭に専門職の人が四人、他は一般の人が十人と言われていましたけど、その専門職の人はどんな職業なんですか?」


「あぁそうだ。その説明もしなくてはいけませんでしたね。先程も言いましたが一人はマリア様ご所望の鍛冶師で、残りの四人は、大工、木こり、鉱夫、錬金術師です」


 何それ? 大工、木こり、鉱夫までは何時ものパターンだと思えば理解出来るよ。怪我をして治療費が払えず奴隷に成ったという経緯ね。でも錬金術師はどう考えても大怪我をするような仕事じゃないから、訳が分からない。まして錬金術師はこの世界の医療の一翼を担っているポーションを作る人だよ。


 そんな人がどうして奴隷なんかに成ったんだ? 効き目の悪いポーションでもそれなりの値段で取引される物だからね……。


「ローガンさん、他の人はまだ分かりますが、どうして錬金術師が奴隷になったんですか? 何時ものパターンの怪我なんてしそうもないですからね」


「あぁあの人は、そういうのではなく、単にポーションの材料に高額な物を使い過ぎて借金を作ったんです」


 まぁこういうのも異世界あるあるではあるね。研究する事しか頭になくて経済観念が全くない人。それにしてもポーションの材料に高額な物を使ってどんな研究をしてたんでしょう? 同じ研究者として俄然興味が湧いてきましたよ。


 多分、ポーションの効力を上げる為の研究だと思うんだけど、珍しく高額の物に頼るというのはアプローチの仕方が安直で偏り過ぎだよ。研究に困ったら基本に返って色んな方面から試行錯誤し直す。これは前世の私がよくやっていた事だけど、それで新しい道が示されることも良くあるのです。こういうやり方をしてれば奴隷に成る事も成ったのにね……。


 それに最近私が研究している漢方薬なんだけど、効能が前世のそれとは違い過ぎるぐらい効力が高いの。ただ一度煎じた物を魔法で水分を飛ばしただけなんだけどね。だったらポーションも何か一つ変えるだけでも効力は上がるんじゃないかな? それも高額な材料とかじゃなく、私がやったようにポーションを作る過程を変えるとか、前世の物語に良くあった水を変えたり、魔石を加えるとかちょっとしたことで変化があるかも知れない。


 その錬金術師とは一度じっくり話してみる必要がありそうね……。


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