幼女の婿探しより領地運営の方が簡単だよ

まほろば

第1話 転生いきなり婿探し

「本当にこの子に後を継がせるのか?」


「しょうがないでしょ。誰もこの領を継ぎたがらないんだから」


「しかし、この子はまだ一歳にもなってないんだぞ。それにこの子は女の子だから婿でも貰わないとこの領は継げないだろう」


「分かってるわよ。だから婿探しを今からやってるんじゃない」


「でも流石にこの年では無理だろう。だが不思議なのが良くこの年の娘に仮にでも国が後継者として許可を出したな」


「そこだけは私も不思議なのよね……。親戚が全部拒否したから如何しましょうと国に聞いたら、この回答でしょう。職を失わなかったから私達は良かったんだけど、どうにもそこは分からないわ」


 という会話を聞いているこの私がその当事者で、一歳にもならないのにこの会話についていける頭脳を持っている転生者です。名前をマリア・フォン・シュガーと言います。前世の名前はこれまた同じ真理愛マリアで姓は佐藤、字は違うけど読みなら砂糖でシュガーだから、殆ど同じ。まして境遇も似てるというからおかしな愚善が重なっている。それは生まれて直ぐ両親がいない事。前世の両親も今世の両親も私が一歳になる前に事故で死んでいる。ましてその事故に私も巻き込まれているのに、両方とも助かっているという強運。凄いよね……。


 でもその後が今回は大きく違うんだよね。前世ではまぁ普通にそのまま養護施設に入って多くの兄弟たちと暮らし、普通に学校へ行き、運よく奨学金が貰えて大学まで卒業しました。それも国立だよ、敢えて学校名は言わないけど超一流校、凄いでしょ。エッヘン! 


 大学卒業後は教授の勧めで大学院まで進み、薬学の研究をし修士課程を修了と同時に博士号も取得。順風満帆な生活をこれから送ろうという時に、これまた異世界物では定番の交通事故であっさり人生の幕を閉じたのです。流石にこの時ばかりは神の呪ったね……。


 それで今度の人生がこれですよ。先程の会話を聞いていても分かるように、もうこの時点で今度の人生も波乱万丈間違いなし、これから私の人生どうなるんだろうね? はぁ~~~。


 で、さっきから私の寝ている部屋で会話をしてるのが、私の専属侍女のマーサと父の従士だったケイン。この他にこの屋敷には侍女は二人しかいないけど侍女頭でマーサの母であるエマがいる。このエマの旦那さんも両親の事故の時に一緒に亡くなっているので、現在この屋敷に居るのは私を除いて女性二名と男性一名だけ。


 あぁ言うの忘れてたけど、私の前世の記憶が戻ったのは事故の時だから、両親の事は殆ど何も覚えていません。ただ周りが気を使ったのか私の部屋には両親と私の描かれた絵は飾ってあるので、両親の顔は知っています。貧乏なのにそんな絵は描かせたんだね。私としては申し訳ないけど、その絵があるお陰で寂しさが押し寄せて来て返って辛いんだよ。前世の時も両親の写真だけはあったから……。グスン……。


「その認可が何故下りたのかが本当に不思議だよな。ここは本当に貧乏な場所なんだから取り潰して隣領に併合しても良いような物だろう。それなのに、女性に婿を迎えてまで残す意味が分からない」


「そこは本当に謎なんだけどこうなったからには、何としてでも婿を探してこの領を残さないとね。私達の仕事を守る為にも……」


「マーサ、それは分かるが、お前の父親でもある家令のセバスさんが亡くなったから、この領の運営はどうするんだ?」


「そこなのよね。父さんがいないから、いろんな事務処理が滞っているし、領の運営もどうして良いか分からないのよ……。国もこういうやり方にするなら、こちらの事情も分かってるんだから、誰か文官を一時的にでも派遣してくれたら良いのに、マリア様の事だけ回答して来てそれ以外は放置だからね。一体何を考えているのやら?」


「コンコン!」「ガチャ!」


「何時までマリア様の所にいるの! マーサは屋敷の掃除をしなさい! ケインも領の見回りにでも行きなさい! マリア様が大きく成られるまでは私達でこの領を守らないといけないのよ!」


「は~~い、でも母さん、父さんもいないのにどうやってこの領を守るの? ケインじゃ無理よ」


「おいマーサ、間違ってはいないけど本人のいる前でそれをいうか!」


「そこをどうにかするのが私達の役目でしょ。幸いなことにこの領は貧乏だけど、借金だけは無いんだから、最低限現状を維持出来れば何とかなるわよ。だからあなた達も自分の仕事を確りやりなさい。私があの人の仕事を何とかやってみるから……」


「そうね。それしかないわよね。母さん私頑張る!」


「俺も、俺に出来る事しか出来ないけど、やってみるよ! 旦那様には恩もあるからな」


「バタン!」


 この状況の愚痴を溢すばかりだったマーサとケインがエマにハッパを掛けられ出て行きエマだけになった。


「マリア様、騒がしくしてごめんなさいね。心配しなくても私達が必ずあなたをお守りしますからね」


 エマはそう言って私を寝かしつけようとしてきましたが、そんな事を言っていられる状態じゃないのは私が一番切実に感じてるのよ。だから一応寝たふりだけしてエマが部屋を出て行くように仕向けた。


「バタン!」


 漸く一人になれたか。『さてこれからは私の時間だ!』 0歳児が何故こんな事を言うのか、それはお決まりの転生特典の練習です。転生して事故にあって記憶を取り戻してから一番にやったのが当然定番のステータス表示。勿論、やってみたら出ましたよ。ですがこのステータスがちょっと変わっていて普通のステータスと領地経営のステータスの二つなのです。


 なんで0歳児の私に領地経営のステータスが出てるのよ!


 まぁ両親が死んでいるからこういう事もあるのかと一時期は思っていたんですが、私の傍に居るエマ達の話を聞いていると、そんなステータスはこの世界には存在しないようで、これも言ってみれば私の転生特典のようなんです。


 でもね、こんなステータスが私に初めから付いているという事は、両親の死は元々決まっていて、私が生まれると同時に死ぬ運命にあったようで物凄く申し訳なく思うんだよ。ましてエマの旦那さんも一緒にだからさ……。本当にごめんなさい……。


だけど、私がどんなに申し訳なく思っても、もう時間は戻せないんだから、あとは私が頑張るしかないじゃない。だから、そこは気持ちを切り替えて、今は私個人の方のステータスを伸ばそうとしてるの。まぁ良くある魔力の増量という奴だけどね。将来それは絶対に役に立つと思うし、そうすれば守って貰うんじゃなく私が守る方になれるでしょ。そうしないと死んでいった三人に申し訳が立たないもんね。


『では今日も魔力を使い切って昏倒しましょうか! 魔力放出!』


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