れん@だん

すらなりとな

れん@スタート画面

 事の発端は、たまたまネットで拾ったフリーゲームだった。


 お正月休みで暇だったこともあり、ネットを徘徊していて、たまたま目についたゲーム。

 起動すると、まず製作者のロゴが表示され、スタート画面が……


「はい! お待ちください! プレイヤー様!

 今、このロゴを邪魔だと思いましたね?

 フリーゲームのくせに雰囲気づくりでロゴなんか表示してるんじゃない、このところは商用ゲームだってロゴを外したものがあるくらいだぞ、と、そう思いましたね?

 私も同意見です!

 ということで、ロゴを取ってみましょう!」


 声が響くと同時に、暗転する画面。

 待つこと数秒、スタート画面が表示された。

 派手なタイトルとともに、


「お待ちください! プレイヤー様!

 今、このスタート画面が表示されるまでのロード時間、暇だと感じましたね? 数秒も待つくらいだったら何か表示したらいいんじゃないか、ミニゲームでもあれば、と、そう思いましたね?

 私も同意見です!

 ということで、遊べるロゴを表示してみましょう!」


 再び暗転する画面。

 すぐに、ロゴが表示された。

 今度はロゴそのものがブロック状になっている。

 PUSH START に従ってボタンを押すと、ブロック崩しが始まった。

 崩し終えると、ようやくスタート画面が表示される。


「プレイヤー様!

 今、このブロック崩しが終わらないとスタート画面が表示されないのかと不安になりましたね?

 私も同意見です!

 ということで、スキップ出来るようにしてみましょう!」


 またも表示されるブロックロゴ。

 今度は画面下にPUSH ANY BUTTON TO SKIPと表示されている。

 ボタンを押すと、ブロックが弾け飛び、Please Waitの文字のあと、タイトルが表示された。


「プレイヤー様!

 おめでとうございます!

 あなたはついにスタート画面にたどり着きました!

 では早速ゲームを始めましょう!

 まずはキャラクタークリエイトからです!」


 次いで、選択肢が表示される。

  性別:男 女


「プレイヤー様!

 今、え? 選択肢二つだけ?

 と思いましたね? その通り!

 現代は何事も分かりやすく二つに別けるのは悪とされる時代!

 このような選択肢は消してしまいましょう!」


 性別の選択肢に取り消し線が引かれ、選択肢が消える。

 次いで、風船のようなものが浮かび上がった。


「さあ! 見た目のクリエイトです!

 身長、体型、髪の長さや肌の色、その他諸々を決めてしまいましょう! 設定した数値に基づき、目の前のアバターが変わるので、どうぞ色々いじってみてください! ここで何時間もおかけになる方もいらっしゃいますよ!

 あ! プレイヤー様!

 今、サンプルは無いのかと思いましたね?

 もちろんあります!」


 風船のようなモノの形が次々と変わる。

 女性から男性、筋骨隆々から細見、植物に動物、虫、果ては剣や宝石といった無機物まで。


「プレイヤー様!

 今、このくらい出来て当然と思いましたね?

 その通り!

 今や、創作物の世界ではなんにでも転生できる時代!

 このくらいではインパクトは薄いでしょう!

 しかし、本作では、何と惑星や宇宙も指定できます!

 まさに可能性無限大! さあ、ご希望をどうぞ!」


 今度は選択肢ではなく、文字入力が表示される。

 男と入力すれば風船は男性的な見た目に、女と入力すれば女性的な見た目に、宝石と入力すれば宝石に変わった。

 どうやら、ここにアバターの原型となる単語を入力しろ、ということらしい。


「あ! プレイヤー様!

 今、フリーワードじゃ考えにくい、せめてどういうキャラクターならどういうメリット・デメリットがあるのか教えろ、と思いましたね!

 いかにも!

 今やネタバレ上等の攻略サイトに動画が溢れる時代!

 情報なくして決められないのもごもっとも!

 本作ではそんな貴方のために!

 本編のダイジェスト動画をご用意しました!」


 今は宝石の形をしているアバターの横に、再生ボタン付きのウィンドウが浮かび上がった。ボタンを押すと、動画が流れ始める。


「では! 僭越ながら、私が解説を!

 本作はファンタジー世界が舞台です!

 剣と魔法の世界です!

 が、作成したキャラクターによっては、相当程度好き勝手ができます! 銃や機械、宇宙要塞を持ち出すもよし、マジックアイテムになってNPCを操るもよし! ただし! 世界観に合わない何かになった場合は、宇宙や異空間からのスタートになります! 剣や宝石の場合はNPCに拾われるところからですね! 通常の人間のキャラクターなら、見た目に応じて貴族・平民といった階級や魔法使い・戦士といった職業が与えられます!

 え? 人を見た目で決めるなって?

 まさにその通り!

 では、キャラクタークリエイトに職業その他も追加しておきましょう!」


 宝石アバターの横に、今度は職業や種族が記載された別のウィンドウが表示された。

 が、動画はそのまま流れ続ける。


「引き続き動画をご覧ください!

 このゲームの目標ですが、王道に則り、魔物を生み出す魔王を倒すこととなっています! 今やなにかと分かりやすさが求められる時代! 魔王が実は善玉だったり、魔王の後に大魔王がいたり、大魔王の後に魔神がいたりなどという複雑な設定は投げ捨てています!

 ただし、魔王を倒す方法は自由です!

 王道のRPGのごとく、地道にキャラクターを助けてもよし!

 宇宙戦艦となって人間ごと滅ぼしてもよし!

 宇宙そのものになって星ごと消滅させてもよし!

 まさに、プレイヤー様のアイデアと個性が試されます!

 え? 見た目と種族によって難易度が違い過ぎる?

 そこに気づくとは!

 では、難易度も調整できるよう、プレイヤーのステータスも表示いたします!」


 今度はステータスが表示される。

 初期値なのだろう、レベルは1で、能力値もすべて10で固定されている。


「さあ、数値をいじってみてください!

 え? 数値じゃどのくらいにすればいいか分からない?

 まさにその通り!

 平均と分散も分らぬデータなど何の意味もありません!

 文字に直してみましょう!」


 数字が文字に変わる。

 レベルは「雑魚」、HPは「吹けば飛ぶ」、MPは「いつもかつかつ」、体力や魔力は「そんなものはない」、防御は「物理も魔法も紙」、運は「生きるのって大変」などといった、散々な記載が目立つ。


「せっかくですし!

 最高値にしてみましょう!」


 ステータスが変わる。

 レベルは「神」、HPやMPは「無限無制限理不尽」、体力や魔力は「無尽蔵」、防御は「ウルトラスーパー超高強度宇宙合金X」、運は「なんというご都合主義」などと書かれている。


「こんな感じですね!

 では、引き続き、動画をご覧ください!

 種族人間、全ステータス「まんなかくらい」のキャラクターがスタートからゲームクリアまでの動画になります!」


 流れ続ける動画。

 少年らしき兵士が王命を受け、仲間と共に様々な場所を調査、途中で人を助けたり、迷ったり、騙されたりしつつ、遂には魔王を退治するまで。

 王道なハッピーエンドに至る道筋が流れていく。


「さて! これでゲームクリアです!

 さあ、プレイヤー様!

 さっそくキャラクリエイトの続きを!

 え? もう全部見たからやる気がなくなった?

 いい時間だしゲーム終わり?

 それは残念!

 またのお越しをお待ちしております!」


 ――その声の直後。


 宝石が転がる、音が響いた。

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