038.国際化と翻訳

 引き続きクラブイベント中の俺たちだ。

 先頭をニーナ、補助でリリーにお願いしたところ。

 ニーナはしゃべらないけど大丈夫だろうか。


 ニーナの得物は両手剣、バスタードソードと言われるタイプで結構幅がある。

 重くないのかと思うが、それなりの重さだろう。

 避けるより剣で防御と攻撃の両方をする戦術のようだ。


「んっ」


 スケルトンを剣で一撃で吹き飛ばす。

 それでも相手はまだ死なない。いやアンデッドだからもう死んでるけど、死んでない。

 リリーと2人合わせてパワーファイターだ。

 あのニーナの小さな体のどこにあんな力があるのか不思議だ。

 うーん。おっぱいかな。魅惑のぷるんぷるんに力が溜まっているのかもしれない。

 残念ながら鉄の膨らんだブレストプレートがあるのでほとんど揺れない。

 いや、揺れるときは全体が揺れてて、少し他の子とは違う。


 俺がこんなこと考えながら見てるなんて知られたら、絞め殺されてしまうかもしれん。

 クラブマスターの解任投票機能で解雇されて、クラブから追放されるかも。

 半殺しどころかゲーム内なので、晒し者にされて痛めつけられるんだ。

 女の子を本気で怒らせると怖い怖い。


 しばらくスケルトンと戦闘が続いて、こなれてきた。


「ぎああああ。クルリ、ケセユイ、エクヲラ、シチメム、ソケウケコ」


 あ、うん。ニーナが謎言語でしゃべりだした。

 ニーナとリリーを通り抜けて、ゴーストが後ろに出てきた。


「ファイヤバレット」


 俺が魔法の銃弾をぶつけると、布みたいに破れて消えていく。


 でニーナがおかしくなってたけど、なんなんだ。


「あの、ニーナは帰国子女でハーフなんですよ。どマイナーな国に住んでたらしくて」


 なるほど。それでなまったりしたらプライドも高いし恥ずかしいから、黙っていると。



 今回のワードは『国際化』『翻訳』「ローカライズ」「同時通訳」あと関連ワードに「日本独自仕様」とかだ。

 VR小説では全世界、同時通訳機能付きで1000万人がプレイする大人気VRゲームみたいな設定をされているときがある。

 さすがに、おいおい、と言わざるを得ない。


 まず人数がヤバイよな。翻訳ということは単一サーバーなのだろう。

 もの凄く都市が大きくないと、立ってる場所さえないよな、と真面目に思った。


 そして完璧な同時通訳機能とか言われると、うへぇと思う。

 テレビの同時通訳ものを見て、それがどれだけムリゲーか考察してほしい。

 言語によって言順が異なるため、句読点までしゃべってもらわないと、前の部分を通訳することができないことがあるんだよね。

 異世界のチートスキルは神の御技だから、未来が見えてもおかしくないので、完璧な翻訳でも驚かない。

 でもVRは現実の延長なので、未来は分からないわけだ。

 そして遅れて翻訳されたら、戦闘とかとても間に合わない、ユーザーの不満は凄いだろうなと冷静に思う。

 野良パーティーで、翻訳野郎と当たったら「翻訳うぜー」「翻訳出てけ」とか言われて、追い出される未来しか見えない。


 遅れて訳されるのが問題にならない文化だとしても、完璧とかあり得なさすぎる。

 それは文化的土壌が違うと、論理的には完璧な翻訳でも何を言っているか、全然分からないなんてことは日常茶飯事だ。

 「自転車で右側通行みたいだね」と言われてそれが違法行為を示すのは、左側通行の国だけだ。

 言葉そのものが翻訳できても、解説しないと、共通理解は難しい。

 オノマトペや言葉遊び、会話のルーズな言葉とかも翻訳は難しい。

 状況でYES、NOが逆になる単語すらある。

 ダブルミーニングみたいに、裏の意味を含んだ会話とかもあるので、AIがその言語をマスターしてる人間と同程度の知能でも、翻訳ミス、発言者の真意を正しく伝えられるとは、思えない。

 対人戦が大好きな国と協力プレイが大好きな国では、考え方も違うだろう。

 英語が基本の国際サーバーもよくあるけど、そこは色々な価値観の人がいるのが共通認識なのだろうと思う。

 それでも北米サーバーとは別に国際サーバーを置くのは、文化的なものに相違があったり、英語すらしゃべれないヤツはウザイと思われているからだろうと推測できる。


 ある国では必ず挨拶するのが礼儀で、他の国では毎回挨拶してくるやつはウザイか煽っているヤツと受け取られることすらある。

 全世界が共通で完璧な翻訳だから、一緒に遊べるというのは、幻想なのだ。


 もちろんVRファンタジーも各国ごとのサーバーに別れている。

 看板やNPCの言語もローカライズといって現地語に翻訳されているので、看板が読めないとかいう、悲劇もない。

 それに人口が多くなりすぎる問題も、言語で分割した分でだいぶ緩和政策になっていた。

 運営は世界的国際企業なので、全世界同時展開で国ごとによる差別なしをうたっていた。

 昔のゲームでは国によりローカライズの名のもとに、ゴミ要素や改悪が繰り返されていて、よくユーザーに非難されていた。


 翻訳ネタあるあるでは採取が採集になっているとか。

 なぜか複数のゲームで見られる。

 英語ではほとんど同じ意味として扱われるからだろうけど昆虫採集とはいうが単独の収穫行動を採集とは普通は言わないと思うんだ。

 他にもさまざまな誤訳があり、女の子の台詞が男の子口調になっていたりする。

 アイテムの名前も途中で変更されたりすることもある。


 もう一つ例を挙げると、誤訳から発生して広く使われるようになったと言われているのが「課金する」だ。

 課金は課すわけだから、本来請求するという意味だ。

 それが運営の発表などの情報からユーザーが自らお金を払うことを課金するというようになったらしい。

 真偽は不明だ。


 何はともあれ、自動翻訳はそこまで優秀ではないということで、お願いしたい。



 そこで少し逆の話もする。

 露店とか数字と売る買うくらいの単語さえ分かれば「完璧な翻訳とか不要じゃね」という意見だ。

 プロスポーツ選手が、相手国の言語を話せないで、移籍したりする。

 もしかしたら、通訳さんがいるのかもしれないが、AI自動翻訳レベルでいいならゲームでもなんとかなる。

 同じゲームをしているなら、なんらかの共通認識はある程度あるはずだから、むしろ異国情緒があっていいと思うというのはどうだろうか。



 ところで、うんちくのせいで忘れそうだけど、ニーナが幽霊を見てテンパってしまったはずだ。


「ニーナ大丈夫?」

「ん」


 頭を上下に動かしたので、大丈夫なのだろう。

 俺だっていきなり知識なしで幽霊が自分を通り抜けていったら変な声でちゃうかもしれない。


「また出てきても無視してもいいよ」

「ん」


 目を見りゃ、言葉なんてなくても多少は分かるもんだ。


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