第20回/会場14位/総合58位

4-24 微睡みの魔法使いが見る夢は

【あらすじ】

出来損ないの私にできる罪滅ぼしはコレだけだから


―――――――――――――――――――――――――――……

【本文】


 朝が来るのは憂鬱だ。日の光の明るさのせいで、こんなにも出来の悪い私を隠すことが出来なくなる気がするから。

 夜の闇の中にいるのは好きだ。その闇は、私の見せたくない欠点を全て覆い隠してくれる気がするから。

 何よりも見たくないも現実ものを、見えないままにさせてくれるから。


 ああ、今は空も外もこんなにも明るい。

 だからもう少しだけ、私は眠っていることにしよう……そう、もう少しだけ……。


「おい、起きろ!もうすぐ昼だぞ」


 私が大樹の陰で寝ていると、聞き覚えのある声と近くに人の気配を感じ、私は薄っすら目を開いた。

 ああ、来ちゃったか……。

 そこにあったのは、こちらを覗き込む見知った青年の顔だった。ひと房にまとめた鳶色とびいろの髪に、眩しく輝く太陽みたいな金色の瞳を持つ彼は、理知的ながら目にしっかりとした意思を宿しており、気が強そうだ。私なんかとは違って。

「知ってる……」

「知ってるのならさっさと起きろよ!」

「ヤダ、だって眠いもん……」

 私は彼から逃れるように、顔をそらし、拒否するように身体を丸めた。

「ダメだ寝るな、そんなの俺が許さん」

 しかし私の抵抗も虚しく、ぐいっと引っ張り上げられた私は、丸まったまま脇に抱えられてしまった。そしてそのまま、スタスタと歩き出した。揺れる……。

「ちゃんと食べてないから、体重だって随分軽いじゃないか。飯も用意してあるから、サッサと食べろよな」

「別にいいよ私は食べなくても……クートひとりで食べて」

「ダメだダメダメ、シィナお前にはなんとしても食べてもらうからな」

 頑として譲る気のないクートに押し切られて、私は食事が用意されているであろうボロ屋まで連れてこられてしまった。


 その扉を開けると、そこにはその建物とは似つかわしくない、割としっかりとした料理が並んだテーブルがあった。

 見た目も鮮やかなサラダに、ゴロゴロと野菜や肉の入ったシチュー、ふわっとしたパンには炙られて程よく溶けたチーズも乗っている。相変わらず料理スキルが高いけど、私のために料理を作るなんて才能の無駄遣いもいいところだ。やめてほしい。

「ほら、どうだ今日はパンも焼いてみたんだ」

「……テーブルのうえがいっぱいで、突っ伏して寝ることが出来なさそう」

「おい、料理に対しての感想を言えって! ……まったく、これだからシィナは」

 クートはぶつくさ文句を言いながらも、私を優しく椅子に座らせて、手際よく料理を小皿に取り分ける。

「ほら、食え」

「ヤ……」

「なんでだよ、お前の好きなものを選んだんだぞ? 旨そうだろ?」

「好きとか嫌いの問題じゃなくて、食事という行為自体がもうメンドクサイ……」

 正直、眠気や気だるさが酷すぎて食事どころではないのだ。お願いだから私がいい感じに眠れそうな、薄暗い場所へ適当に一人にして欲しい。

「そうかよ、そういうつもりならこっちにも考えがある……無理矢理にでも口に突っ込んで食わせてやるよ!!」

「むぐぐっ……」

「ほら、口に入れたら噛め! 飲み込め!」

 こうなってくると私も流石に無視は出来ないので、仕方なく口に入れられたものを咀嚼して飲み込んだ。……やっぱり味は美味しいな、食べるの自体が面倒臭すぎて、わざわざ食べようとは思わないけども。

「チッ、こうなると次はもっと流し込みやすいように、固形物以外や汁物メインで考えた方がいいな……」

 そうして私にひと通りの料理を食べさせたクートは、ぶつぶつと文句を言いながら、今度は食器の片付けを始めた。

 そんな彼の姿を見て、私はなんとも言えない気持ちになり、ついつい口を開いた。

「ねぇ、私なんかに構うよりクートには、もっと有益な時間の使い道があるんじゃない? だってクートは優秀な魔法使いなんだから」

 そう彼は優秀なのだ、私とは違って……。

 その言葉に、一瞬驚いたように動きを止めた彼だったが、すぐにそれを消すと寂しげに目を伏せながら片付けを続けた。

「もう関係のない話だ……」

 彼から漏れるように発せられたその言葉は、すっかり感情が乏しくなった私の胸を久々にズキッと痛ませた。

 ああ、そうかやっぱりクートも辛いんだ。何ともなさそうに振る舞っていたけど、そんなはずはなかったんだ。

 自分の中の感情を抑えるため、キュッと唇を噛んで俯いていると、何故か私の目の前でゴトッと音がした。気になって顔をあげると目の前にあったのは……水の入った洗面桶?

 そこの水面には見たくもない私の顔が映っている。真っ白な髪に、赤い眼。気持ち悪く不気味だと、生まれ故郷で散々罵られた呪わしい容姿…………ああ、本当にこんなもの大っ嫌いだ。

「ほらほら、ぼーとしてないで少しでも顔を洗ってシャキッとしろ」

 気が付くとクートがまた私の後ろに立っていた。どうやら少し目を離した隙にこんなものを用意していたらしい。

「いいよ、別に……私もう寝るから……」

「………」

 彼は無言で私の後頭部を掴むと、桶の中にその顔を突っ込んだ。

 ぶくぶくぶくぶくっ……。


 それからすぐに、そのまま顔を上げさせた彼は、ダラダラと水を流す私の顔に柔らかいタオルを当てながら聞いた。

「……怒ったか?」

「別に……」

「じゃあ、もう一回やるか?」

「それはヤダ……息ができないし……」

 彼は一体何がしたいのだろうか。

 クートは元々、私の兄弟子で、以前から面倒見が良い方ではあったが、最近ではそれに拍車が掛かっている気がする。


 私は……彼の未来を奪ってしまった。

 だから返さなくてはいけない。


「よし、じゃあ次は体力がないシィナの体力作りのため散歩タイムだ」

「ネカセテ……」


 だけど、その考えを悟らせるわけにもいかない。

 だから彼が見ているときの私は、必要以上に無気力でいることにしたのだ。実際、眠気のせいでやる気が出づらい部分もあるけど……。


 私は別に死んでも構わない、だけど絶対にこれを成し遂げるまでは死ぬわけにはいかないんだ。



 ◇



 結局、昼間はあんまり眠れなかったな……。


 今は夕暮れ時、私を散歩だなんだと言って連れ回してたクートは、もう眠ってしまっていた。今の体だとあまり長くの活動が出来ないからだ。

 ボロくて狭い室内で、寝息も立てず、まるで動かず、また死んでしまったかのように。でも今はまだ大丈夫、魔法が切れた感覚はないから。


 そう、彼は一度死んでいる。私はそれをとある魔法によって甦らせたのだ。

 しかし出来損ないの私が、まともに死者の蘇生などできるわけもなく。その結果はとても中途半端で、不完全なモノになってしまった。

 再び甦ったクートは短い時間しか活動できず、一見普通に見える身体の状態も正直不安定だ。そして何より術者である私の気力や魔力を延々と吸い続けなければ、クートは動くことが出来ないのが現状であった。


 クートには、自分が禁忌である死者蘇生の魔法を使って彼を甦らせたことは伝えたが、それが不完全であることは伏せていた。彼は責任感が強い、だからこそ自分のために禁忌の魔法を使った私への責任を感じて、こんな辺鄙な場所で一緒に暮らしてくれているわけなのだが。でも自分の存在が、私を害していると考えればすぐにでも、私の魔法を解かせるはずだ。

 しかしこのままでは、魔法の不完全性がバレなくとも何かのきっかけで私が死んでしまえば、クートは再びただの死体へと戻ってしまう。


 だけどそんな結果にはさせない。彼は生きているべき人だから。

 私が完全な魔法に修正して、それを食い止めてみせる。


 しかし、でもなぁ……。

 手元にある魔導書を見て、私は大きく溜め息をつく。


 やっぱりまだ素材が足りない……。いくつかはどうにか集めたものの、まだまだ手に入れがたいものが多い。

 何より昼間はクートの目があるから、不審に思われないように、材料の収集と作業する時間が日の落ちた夜間に限られてしまうのも難点だった。


 死者の蘇生に必要なのは大きく分けて四つ 多量の魔力、繊細で複雑な術式、希少な魔法触媒、そして一度失われた命を戻すに足りるだけの代償だ。

 私は実技だとダメダメだが魔力量だけは多いので、魔力については問題は無い。実際に今も不完全ではあるが、術の発動は出来ている。魔力が絡まない細かい作業は割と得意なので、術式を描く作業もそこそこ順調。

 一番問題なのは魔法触媒だ。必要な物の内いくつかは、師匠の家を出る際にそのまま持ってきてしまったが、それでもどうしても足りないものがあと四種ほどある。

 それらをどうにかするのが、今一番急を要することだ。



 大丈夫、やれる、やってみせる。

 落ちこぼれの私だけど、これだけは絶対に成し遂げるんだ。



 私は……私の命と魂を代償にして、必ずクートを生き還らせてみせるから。

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