第13回/会場1位/総合4位
1-09 氷の魔女の✕し方
【あらすじ】
溶けない雪に包まれた、白い森の奥深く。
そこには氷で出来た城があり、人々をおびやかす恐ろしい氷の魔女が住んでおりました。
そんな魔女を仲間と共に倒しにやってきたとある若者は、あっという間に仲間を氷漬けにされ、たった一人魔女の前に取り残されてしまいました。
仲間を失った彼は勝利の望みもないまま、捨て身覚悟で魔女へ最後の攻撃を仕掛けようとしていたところ、魔女からある話を持ちかけられます。
「ねぇ、私のことを✕してみてよ?」
その内容は彼が魔女の城に住み、魔女の望む方法で魔女を✕すこと。
そうすれば彼の仲間は助かると、魔女は言うのです。
……これは温もりを忘れた✕を解かすための✕の物語。
―――――――――――――――――――――――――――……
【本文】
くすくすと笑う女の声が響く。
少し気を抜けば全てが凍り付いてしまいそうな寒さの中で、その声だけは不釣り合いなほど楽しげであった。
「久しぶりのお客様だったけど、今回はずいぶんと呆気なかったわね」
見目麗しいその女は、白いドレスに真っ白な髪をなびかせて、悠然と歩く。
ここは氷の魔女である彼女の城で、その歩みを阻むものなど当然どこにもいない。
そんな彼女の行く先は、突然この城に襲撃を仕掛けた一団の最後の生き残り……満身創痍で倒れ伏す、一人の若い男の元であった。
だがそこへたどり着く前に、もう動かないと思っていたその男が、フラフラと立ち上がったため、魔女はそこで足を止めた。
「あら、まだ立ち上がれたの?」
関心したような声を魔女が声を掛けるが、男はそれに答えず、やっとという様子で持っていた剣を構えた。
「せっかく体力が残っていたのに、その判断はどうかと思うわね。最初の人数でまとめて掛かってきても無理だったのだから、アナタ一人で逃げた方がまだ賢いのではなくて?」
「黙れ……!!」
男は息も絶え絶えに、絞り出したような声で叫ぶ。
「元より俺の命なんてどうでもよかった……それなのに皆がやられた今、自分だけ逃げられるはずないだろう!?」
そして手にした剣を魔女に向けると、今度はまるで自分に言い聞かせるかのように言った。
「もはや俺に出来ることは、ここまで一緒に来てくれた仲間に報いるためにも、最後まで戦って死ぬことだけだ……」
「あら、そんなにお仲間のことが大切だったの?」
「ああ、少なくとも自分の命よりは遥かにな……!!」
そう答えながら飛びかかってくる男の攻撃を、魔女は軽々とかわすと、ふらつく男に神妙な口調でこう問いかけた。
「ねぇ、それじゃあ彼らのことを、まだ助けられるって言ったらどうする?」
「なんだと……」
睨みつけるように魔女を見る男に、彼女は微笑みながら辺りに立ち並ぶ《元は男の仲間だった氷像》を指さした。
「だって彼らはまだ死んでないもの、この氷さえ解ければ元通りになるわ」
「氷が解ければ……」
「要するに魔法を掛けた私を殺せばいいの」
「っ!! そんなこと、元よりそのつもりで」
もう一度自分に剣を向けようとする男を、魔女はすっと手を上げて制すると、呆れたような口調で言う。
「馬鹿ねぇ。さっきやられたばかりでもうボロボロなのに、今更勝ち目がないことも分かってないの?」
「だとしても、貴様を殺すには一か八か、俺が命を賭けて戦う以外方法など……!!」
「ああ、本当に馬鹿ねぇ。なんで私がここまで親切に色々教えてあげたと思う?」
「それは……」
改めて言われてみると魔女の行動の理由が分からず、男は黙り込んでしまった。
そんな男の様子を見た魔女は、くすくす笑いながら彼にこう言った。
「だから私はこれからアナタに、それ以外の選択肢をプレゼントしてあげる」
「なんだと……」
「つまりアナタに大切な仲間を救うチャンスをあげるってことよ」
「そんなことをして、お前に一体なんの利益が……」
「ただの気まぐれよ。それで私の話に乗るのかしら?」
男はしばらく考え込んだ後に、悩ましげにゆっくりと口を開いた。
「詳しい内容を聞いてからだ……」
「あら、慎重なのね。でもそういう所嫌いじゃないわ」
「いいから、早くしてくれ」
苛立ちげに急かす男の言葉に魔女は、くすりと笑いなが答えた。
「まずアナタは私と一緒にこの城に住むこと、そしてその中で……」
そこでわざと言葉を区切り、恐ろしくも美しい笑みを浮かべて魔女はこう続けた。
「私が教える方法で、アナタが私を殺すことよ」
×+×+×+×+×
「ねぇイヴァン、ここでの暮らしにはもう慣れた?」
「まぁ多少はな……」
イヴァンと呼ばれたその男は、魔女の言葉にぎこちなく頷く。
2日前、魔女の提案に応じた彼は、その約束を契る際に自分の名を魔女へ明かしたのだった。別に特別親しくなったというわけではないが、それから魔女は気まぐれに彼の名前を呼ぶようになっていた。
「私、人間の暮らしには疎いものだから、もし何か足りなかったら教えてちょうだいね」
「ああ……」
まだ経過した日付は浅いものの、男はこの城の暮らしに何とも言えない居心地の悪さを感じていた。それというのも、魔女の言動が彼の想像していたソレとかけ離れていることが、一つ大きな要因として存在した。
まず魔女は男が自分の提案を受けると決めたところ、真っ先に彼の怪我を手当てしてくれたのである。そうして人の身ではここの寒さは堪えるだろうと、彼のために暖かい部屋を用意してくれて、きちんとした食事まで出してくれたのだった。
何より驚くべきことは、怪我の手当ての際に魔女は魔法を使ったのか、本来なら完治に数週間は掛かるであろう怪我も、一晩寝て起きたら全快していたのである。
(わざわざ怪我を魔法で治療し、親切に面倒まで見てくれる魔女か……)
そんな彼女と接するうちに、男の中である疑問が芽生え始めていた。
(これが本当に長年人々を苦しめてきた、邪悪な魔女の姿なのか……)
彼が噂で聞いていた魔女の姿は、残虐での命を簡単に奪う怪物のはずだった。しかし実際に目の前にいるそれは、少し風変りではあるものの噂とは似ても似つかない存在であった。
(いや、考えるな……現に仲間の命は彼女に握られている、魔女は敵だ)
一瞬、彼の中に魔女を擁護する考えが浮かんだが、必死に頭を振ってそれを追い払う。
(魔女は必ず殺さなくてはいけない、彼らを救うためにも)
内心で改めてそれを決意すると、男はぐっと拳を握りしめたのだった。
男の怪我が治ると、魔女は彼を氷の城の様々な場所を案内してくれた。
昨日は城の中の部屋だったが、その日魔女が案内してくれたのは城の中庭だった。そこには、男が見たこともない真っ白い植物の数々が美しく咲き誇っていた。
「ほら、こんなにずっと寒いと植物も花も育たないでしょ? だから私の魔法で、ここでも育つ植物を作ってみたの」
そこで魔女は、とても魔女とは思えない無邪気な笑顔を浮かべて、男にそう語りかける。
「そうか……」
対して男は、その姿が純粋であればあるほど、気まずさを感じて目を合わせることが出来なかった。
(ああ、早く……これ以上余計なことを考える前にコイツを……)
祈るような気持ちで男がそんなこと思っていると、魔女はある植物の前で立ち止まった。
「これは葉も枝も氷で出来た、薔薇がベースの氷の花なの。氷像みたいに見えるかも知れないけど、ちゃんと生きていて、栄養を与えると一定の周期で花を咲かせるのよ?」
そんなことを言いながら魔女は男に背を向けて屈み、花に手を伸ばした。
(チャンスだ……!!)
無防備に自分へ背中を向けたその隙を、男は決して見逃さなかった。
すかさず彼は懐に隠し持っていたナイフを取り出し、魔女の背中に向けて振り下ろした。が……。
「なっ!?」
しかしそのナイフは魔女の体に当たると、刃がまるでガラスのようにバラバラに砕け散ってしまったのである。
「あら」
気の抜けた声を出して振り返った魔女は、地面に落ちたナイフの破片に気付くと、それをヒョイと拾い上げて、僅かな時間見つめた後に男へこう問いかける。
「ねぇ、このナイフの刃には毒も塗ってあるでしょ。その毒も持っているなら出してくれない?」
「それは……」
その通りではあったが、一瞬で毒のことまでを見抜かれて面食らった男は、上手く返事をすることができなかった。
「絶対に怒らないと約束するから、ね?」
魔女にそこまで言われると、男は渋々ナイフと同じく隠し持っていた毒の便を取り出し、魔女に手渡した。
(どちらにしろ言い逃れるのは、難しそうだからな……)
「うん、ありがとう」
毒便を受け取ってにっこり笑う魔女に、彼は違和感を感じてこう聞いた。
「それを一体どうするつもりなんだ」
「ええ、アナタがこれ以上無駄なことをするといけないから、実際に見せてあげようと思って」
そこから毒便の蓋をあけて、中に入った毒を一息に飲み干してしまったのだった。
「っ!?」
「見ての通り私には武器も毒も効かないのよ、分かった?」
(一滴で熊も殺せる毒だぞ!?)
驚いて目を見張る男に魔女は、相変わらずにこにこと笑顔で言う。
「信じてなかったみたいだけど、私を殺すには普通の手段じゃ無理だってちゃんと教えたはずよ?」
「だが、あんな馬鹿な話を……」
男は言葉の途中だったが、魔女が急に顔を近づけてきたために、思わずその口をつぐんでしまった。
「いいえ、本当よ。だからちゃんと思い出して、ね?」
その言葉に男は自分が提案を受け入れた時に、魔女が自ら語った《魔女の殺し方》について改めて思い返す。
『私の心臓は、氷で出来た心臓なの。凍てつく氷の心臓は、凍ったままだと誰も害することが出来ないけど。私が誰かを愛したその時に、解けてそのまま死んでしまうの』
(つまり魔女を殺すのに必要なものは……)
男が再び魔女の顔を見ると、彼女は嬉しそうに笑った。
「ねぇ、分かったのなら早く私のことを
それはまるでプレゼントを欲しがる幼子のように、どこまでも無邪気な笑みで、氷の魔女は男へ
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