第7話 子猫のように。

「どうおもう? ユリア」

「おにいさまはマリエルねえさまがお嫌いなのかしら?」

「あんなに優しいねえさまなのに?」

「ばかね。好きとか嫌いとかに優しいとか優しくないは関係ないのよ?」

「わかれるって、もうねえさまがねえさまじゃなくなるってこと?」

「そうねえ。そうなるかもしれないわねえ」

「そんなのいやだ」

「もう、ユリウスったら子供ね」

「ユリア! 僕のことすぐ子供扱いする! 産まれた日は一緒なのに!」

「ほんっとばかね。そういうところが子供だっていうのよ」

「お前だって子供じゃないか!」

「お前じゃなくてユリアお姉様でしょ!? わたくしがお姉様、あなたが弟、これはもう決まってる事実なのよ?」

「くっ」

「ほら、お姉様って呼びなさい?」

「お前なんてユリアで充分だよ。絶対お姉様だなんて呼んでやらないから」

「もう、しょうがないわね。じゃぁいいわ。ユリアで。そのかわり『お前』は嫌よ?」

「う、ごめん。ユリア」

「いいのよ、ちゃんと謝れるのは良いことだわ。ユリウス」


 ベローニカとジュリウスの会話を覗き見していた双子。ユリアとユリウス。

 まだ五歳の二人だったけれど、姉のユリアの方は随分とおませで、弟ユリアスの方は純朴さを残す年相応にもみえる。

 顔立ちはそっくりな二人。違いがあるとしたらその金色ふわふわな巻毛の長さだけだろうか。

 耳が隠れる程度の短い髪のユリウス。前髪はぱっつん切り揃え、後ろは背中まで伸ばしたふわふわな髪のユリア。


「そうだ。ジュリウスにいさまがマリエルねえさまとわかれるって言うなら、僕がお嫁さんにもらってあげればいいんだよね? そうすればねえさまはずっとこの家にいてくれるよね?」

「ほんっとばかねえ。結婚って、そんな簡単なものじゃないのよ」

「じゃぁどうすればいいっていうのさ。ユリアはねえさまがいなくなっても良いっていうの?」

「そうは言ってないけど」

「じゃぁ」


 二人がそんなふうに言い合ってるところに、不意に目の前の扉が開いた。


「あらあら。二人ともこんなところで覗き見してたの?」


「あ、ママ。マリエルねえさまが居なくなっちゃうなんて嫌だ」

「わたくしも嫌だわ。ねえかあさま。なんとかならないの?」


「そうねえ。あの子のあの様子だと、むずかしいのかもねえ」


「そんなぁ」

「うーん、でもまだ何か手はあるかもしれないわ」


「そう思うの? ユリアは」


「とにかくおにいさまはダメよ。朴念仁だから。攻めるならねえさまの方じゃないかしら?」


「そうねー、そうかもしれないわね」


「ねえかあさま、わたくし、マリエルねえさまと一緒にお食事できないかしら? いっつも別々でしょう? たまにはご一緒できないかなぁって。ああ、おにいさまは別でいいから」


「ふふ。そうね。マリエルちゃんに聞いてみるわね」


「ありがとうかあさま大好きよ」

「僕も大好きだよママ」


「ええ、二人とも大好きよ。わたくしの可愛い天使たち」


 そう、二人をハグするベローニカ。

 子猫のように頭を擦り付けてくる双子を交互に撫で回しながら、その頬に優しく頬擦りして。

 微笑んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る