第15話 新人っていいよね

 新人冒険者ライトの引率をしていたら、近くの森から狼の群れが姿を現した。

 森から出ないなら放置するつもりだったけど、地震後で腹をすかしているのか、群れは俺達に向けて走り出す。


「ガーディナーさん!」


「ああ、来たらやるしかないな。一匹だけなら相手を出来そう?」


「え、えっと、何とかしてみます」


「ああ、そんなに緊張して剣を構えなくていいよ。原っぱでまともに戦う訳じゃないから」


「え?」


 俺はライトの手を引いて街の外壁近くまで走り出す。

 この少し大きめの街、アリミネ(仮)は俺の肩くらいの高さの石壁があり、小型の魔物なら防げる力がある。

 後ろを見ると狼の数は……八か九匹位かな、ライトに回す一匹は小型のあいつだ、それ以外は俺が相手をしよう。


「ライト、石壁を背にして戦うんだ」


「ええっ! そんな、逃げ道が無くなるじゃないですか!」


「大丈夫だよ、ほーら、行ってこい!」


 俺はライトの手を引っ張り壁際に押し込めると、くるりと反転して狼を見る。

 小さい奴は、いた、あいつだけライトに押し付けよう。

 右手で剣を抜いて下段に持ち、左手にはショートソードよりも短めのダガーを持つと、目前に迫った狼に対し剣を振り上げた時に一匹、そのまま振り下ろして一匹、左真横に来た狼をダガーで一突きにした。

 残りは五匹、お、いいタイミングで小さい奴が正面から突っ込んで来たな。


「ライト! 行くぞ!!」


 小さい奴を後ろに向けて蹴飛ばし、そのまま体を一回転させて剣で二匹同時に斬り裂き、小さい奴を追いかけて行った狼にダガーを投げて一匹倒す。

 これで俺の方に残り一匹、ライトに一匹だ。

 それにしても強くなったな俺、最初は剣を両手で持つのも大変だったのに、今はもっと重い剣を片手で軽々と扱ってる。

 ライトを見ると随分とへっぴり腰だけど、大丈夫かな、ま、こっちは、よっと、もう終わったから、危なそうなら助けに入ろう。

 特に狼を見る事もなく一匹を倒し終えると、ダガーを回収してライトを見る。


 ライトは俺が言ったとおりに壁を背にして戦っており、狼は壁のせいで勢いよく突っ込むことが出来ないでいる。

 しかも小さい狼なので、ライトに噛みつこうとしてもしても、簡単に剣で払われてしまう。

 少々時間はかかったけど、足首に噛みつこうとした狼の首をタイミングよく切りつけた事で、狼は悶えるように暴れ、動かなくなった。


「お疲れ、何とかなっただろ?」


「は、は、はい、なんか、思ったよりは、か、簡単に」


「一匹だけなら壁を背にして、前だけ見てれば噛みつかれる事は無い。群れてない狼は視界に入れておけば、余程強い個体じゃなきゃ問題ないよ」


「はい!」


 おお、なんだろう、この久しぶりに打てば響くような感覚、そうだ、うららさんに新人教育をしている時がそうだったな。

 懐かし~、あの時からうららさんは可愛かったから……そういえば俺、改めて告白するって言っちゃったけど、退院はまだ先とはいえ、言えるかな……ああ、不安になってきた!


「ガーディナーさん、確か討伐した場合は依頼とは別に、討伐料がもらえるんですよね?」


「え? ああうんそうそう、依頼は街周辺の警戒だけど、討伐は別でもらえるよ」


「討伐の証拠とかはどうしたらいいんですか?」


「狼の場合は尻尾だね、それと毛皮は討伐とは別に売れるよ」


「本当ですか! やったー!」


 う、初々しい! 俺も昔はそうだったな、年を食ったな俺も。

 まぁ皮をぐなんて面倒だから普段はやらないけど、一匹くらいならいいか。

 剥ぎ方を教えながら肉も切り取り、ライトは慣れないながらも頑張ったんだが……血まみれになってしまった。


「うわぁ……」


「慣れないとそうなるな。慣れだ慣れ」


 残りの狼の死体は森の中に投げ入れ、他の魔物が街近くまで出てくるのを防ぐ。

 その後の巡回は魔物が出る事なく終了し、ギルドに戻って報告をした。


「お疲れ様ですガーディナーさん、ライトさん。街の外はどうでしたか?」


 受付嬢の明るい笑顔で癒されるが、ライトの血まみれの体が気になるのかチラチラ見ている。


「一度森狼に襲われましたが、撃退しました。あ、尻尾が八本あります」


 討伐証明の尻尾を出すと、受付嬢は見て直ぐにわかったのか、討伐書類を出した。

 これに倒した魔物の種類と場所、数を記入し、サインをしたら報酬がもらえる。

 これはライトに書いてもらい、俺は受付嬢に顔を近づけて耳打ちする。


「森狼は随分と腹をすかせてました。他の魔物も同じかもしれません」


「森狼の死体はどうされましたか?」


「森の中に放り込んでおきました」


「ありがとうございます」


 この内容を大きな声でしゃべると、他の新人冒険者が不安がるだろう。

 それに受付嬢としても、依頼の難易度を設定しないといけないから、少しでも情報を伝えておいた方がいいと思う。


「えっと、これでいいですか?」


 ライトが書類を書き終えて受付嬢に渡す。

 問題なかったようなので、依頼分と討伐分の報酬がもらえた。


「え、こんなにもらえるんですか?」


「街の外の警備よりも、討伐報酬の方が高いからね。とはいえ最初から討伐依頼を受けるのはお勧めしないよ。それと、毛皮もまだ残ってるだろ?」


「あっ本当だ! ガーディナーさん、これはどこで売るんですか?」


「冒険者ギルド」


「……え?」


「ここでそのまま買い取ってもらえるよ」


 ライトの「おんや?」と首をかしげているのを見て、思わず笑ってしまう俺と受付嬢。

 わざと言わなかったんだけど、予想通り面白かった。

 さて報酬はライトと山分けし、俺は安宿に戻り荷造りを始める。

 夢の中での生活が安定してきたし、懐も随分と温かくなった。

 安宿から少しランクアップしよう。

 せめてベッドがガタつかない、きしまない宿がいいな。

 と、丁度いい宿があったから泊まり、だった。


「……ん? アラームがいつも通りだ。もう少し眠ってたい……ああいや、やっぱり起きよう」


 昨日は地震のせいでうららさんのお見舞いに行けなかったから、今日は電車やバスの状況を見て、行ける様なら行ってみよう。

 その前にうららさんにおはようメッセージだ。

 なんか俺、リア充っぽくない?

 調べてみると、バスはまだ臨時運行のままで、電車は便数を減らして運行するらしい。

 電車が使えるならいけるかな?

 と、丁度うららさんから返事が来た。

 「お見舞い大丈夫だそうです。ただ面会は十分以内だそうです」

 OKOK、短いけど会えるならそれでいいや。


 電車を乗り継いで病院に着いたけど、思ったよりもいつも通りだ、怪我人の山とか救急車がひっきりなしに来るとか、そんな事は無かった。

 ノックをして病室に入ると、うららさんはベッドで上半身を上げて座っていた。

 

「先輩! 今日も来てくれてありがとうございます!」


「いえいえ、流石に昨日は来れなかったよ、ごめんね」


「なに言ってるんですか、あ、イスどうぞ」


「ありがと」


 いつものイスに腰かけると、自然と地震の事や会社の事が話題になる。

 会社は大変だったけど、やっぱり病院はそれ以上に大変だったみたい。

 それはそうだろうなと思いながらも、いつも通りのうららさんを見てると安心する。


「それにしても先輩の夢、とってもいいタイミングでしたね。まさか予知能力者ですか?」


「え? そうだね、いいタイミングだったよね、ほんと」


 やばい、今は夢の話題はしたくない。

 したところで信用してもらえないだろうし、仮に信用したとしても、今のうららさんに余計な心配事をさせたくない。


「……先輩? 隠し事してますね?」


「え!? な、なんで?」


「ここ数年間、毎日先輩を見てきたんです。反応を見たら嘘か本当か、本心は別にあるって事がわかるようになりました」


うららさんは俺の親か?」


「仕事もプライベートも知ってますからね、ある意味親以上と自負しています」


 ううっ、確かに色々と話をしてる、特に最近はゲームの事も話したし、趣味や服の好みまで知られてる。

 何を隠そう、今日の私服もうららさんコーデだ。

 最近のうららさんの趣味? 暇つぶし? は俺の衣装を考える事らしい。

 夢の内容が最後の砦といっても良いレベルに、俺の事を知られている。

 ……うららさんも夢に出てきた以上、部外者ではないよな。


うららさん、俺ね、ここ数ヶ月、変な夢を見てるんだ」

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