第6話 最悪のネタバレ
「遥か未来——この世界でも完全に凡夫と決別できなかったアメジアという名の男の成れの果て……それが俺だよ」
ジアははっきりとそう言った。
(ジアが……未来の……僕!?)
いきなりそんなことを言われても、信じていいかどうかわからない。
それでも、話を聞いて改めてジアのことを見つめ直してみる。
思えばその顔立ちはどこか似ていなくもないと感じた。
だが、それだけで未来の自分だと信じるには、あまりに唐突で非現実的だった。
(そんなの……簡単に信じられるわけがない!)
唐突すぎる。いくら転生という奇跡を経験したアメジアでも、いきなり未来の自分が目の前に現れるなんて、そう簡単に信じられるわけがない。
「まあ驚くのも無理はない。とはいえ、俺が未来から来たのは紛れもない事実だ」
それでもジアは自信に満ちた物言いを崩さない。まるでアメジアの疑念を一蹴するようだった。
(本当に未来の僕なのか?それとも、ただの似ているだけの他人が騙っているのか……?)
頭の中に疑問が渦巻く。確かに、転生という現象を体験している以上、タイムスリップという概念も否定はできない。
(顔は……確かに面影がある……髪の色も瞳の色も一緒だ……いや、それだけで判断するのは早すぎる)
考えれば考えるほど、頭がこんがらがっていく。
気づけば、アメジアは無意識に髪を掻きむしっていた。だが、ジアはそんなアメジアの混乱をよそに、
「さて、この時代の俺よ。今からお前には俺に協力してもらう。」
突然の言葉に、アメジアはハッとして顔を上げた。その声には妙な威圧感があった。まるで拒否権などない、とでも言うような———
「協力……?何を……?」
疑問に思ったので問い返すと、ジアの眼差しが一層鋭くなる。
「俺はこれから運命を捻じ曲げる予定だ」
「運命を……捻じ曲げる?」
「そうだ。具体的には、死ぬはずだった人々を救い、滅びるはずだった国を救う。そのために、死や滅びの原因となった
その言葉に、アメジアの思考は完全に追いつかなくなった。話が壮大すぎたからだ。
「……ええ?」
困惑のあまり、思わず力なく情けない声が口から漏れる。だが、ジアはなおも視線を外さずに言葉を続けた。
「そしてお前には、俺と協力して未来を変えてもらう」
その声からは言葉で表せないほどの想像を絶する覚悟が感じられた。
「一週目の世界で俺が守れなかった誓いを……果たせなかった救済を……俺の代わりにお前にはやり遂げてもらう。そのために俺がお前を強くする」
「……強く?」
「そうだ。力を渡す。いざという時も、俺が代わりにお前の身体を借りて対処してやる。だからお前は俺の力を受け取り、凡夫と完全に決別してみせろ」
それは、一方的な宣告だった。
「俺が憧れ、俺がなれなかった存在に、お前にはなってもらう。真の最強の存在へと導いてやる。誰一人として救えなかったくせに、力だけは手に入れて半端な決別を迎えた俺のようにならないように……それが俺が未来から逆行してきた理由だ」
そして、ジアは突然問いかけてきた。
「例えばの話だ。もしも俺が逆行してこなかったら、お前とレダ母さんはどうなっていたと思う?」
「……僕と母さんが?」
突然の質問に、胸の奥で嫌な感覚がざわつく。冷たく嫌な予感が走る。そして次の瞬間、最悪の可能性が頭をよぎった。
「まさか……」
「どうやら察したようだな。そうだ。俺が運命を変えなければ、お前は母さんと死別していた」
そのまま、ジアは語った。ジアにとっては過去の、アメジアにとってはあり得たかもしれない未来の出来事を。
◼️◼️◼️
とある男の話をしよう。
男は、転生した異世界で前世の凡夫だった自分と決別し、最強の存在になりたかった。
今度こそ、誰かを救える特別な存在になれると思っていた。
それが純粋な憧れからなのか、あるいは前世の最期に思うことがあったからなのかはわからない。
とにかく、強く、特別で、簡単に死なず、自分以外の大切な誰かを救うことができる存在になりたいと思い、男は己を鍛えることを決意した。
だが、この世界は甘くはなかった。
一度転生しただけで、特別な存在になったと勘違いした凡夫な男はそれを思い知らされた。
世界はすぐに男に牙をむいた。
男が13歳の時、母さんは殺された。
ある日突然村を襲ったルルムという名の魔人族が降らせた隕石によって。
ただ、男だけは母の最期の魔法によって難を逃れることができた。
だが、これはまだ序の口だ。
その後、魔人族は三千年ぶりに本格的な人類圏への侵攻を開始した。
奴らは既に、人類圏の結界を抜けるすべを手に入れていた。
種族間の大規模の争いが起きた。
やがて、結界を超えて人類圏に侵攻した魔人族によってこの国は滅ぼされた。
国の為に戦った騎士や神聖騎士たちも皆敗れて殺された。
国を守護していた女神も魔神に敗れた。
隣の国の太陽神でさえ、魔神には勝てなかった。
結果的には、人類圏にいた人間の七割以上が魔人族によって殺されてしまった。
そして、男は、誰も守れなかった。
母も、父も、
誰も助けられなかった。
逆に救ってもらうばかりだった。
魔人族に挑んでも無様に負けた。
転生者だから特別なのだと錯覚し、大言壮語を吐いておきながら、男は無力で何ひとつとして果たせなかった。
結局、男はこの世界でも凡夫なままだった。何もできず、誰も救えない。そんな救いようのない存在だった。
それが、俺でありお前——アメジアという名の凡夫な男がこの無慈悲で残酷な世界で経験した出来事だ。
そして、アメジアという凡夫な存在に運命づけられた未来でもある。
このまま前世と同じ凡夫な存在のままであれば、お前は何もできずに全てを失うことになるだろう。……この俺と同じように。
ジアの口から語られたのは、これ以上ないほどに最悪な人生のネタバレだった。
「俺と契約を結べ。そして、俺ができなかった凡夫との完全な決別を果たせ。魔人族を殲滅しろ。誰も死なせるな。みんなを救え。そのための力をお前に力をくれてやる。全てを失った後、ようやく手に入れることができた特別で最強の力——この世界の頂に至った俺の力をな」
そして、最悪の未来を語ったその口で———
「お前がみんなを救って最強へと至れ。それが、この世界で完全に凡夫と決別できる唯一の道だ」
アメジアが望む最善の未来に至る方法を語った。
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