第18話
「今日は会えないんですか?」
ぱたり…
病室の扉がしまっても、亜理紗はその場を動けなかった。
英人はどうしているのだろうか。
大丈夫なのだろうか。
考えても答えなんて出るはずもない。
心が塞いで辛いのに、お腹が空いてご飯は食べるし、朝になれば学校へ向かった。
英人が苦しんでいる時に、普通に生活してしまっている自分が悪いことをしているようで、何をしても気が滅入ってしまう。
藍や武史とも英人を思い出してしまって、あまり話せてない。
亜理沙はため息がクセになりそうだなと思いながら、またため息をついた。
「亜理紗」
放課後、廊下をぼんやり歩いていると、
「最近、英人の調子が良くないらしいな」
中庭に来ると、武史はベンチに座った。
「・・・うん。新しい治療をしてるみたいなんだけど、その副作用でしんどいみたい」
「心配だけど、治療して前には進んでるんだな」
「うん」
空を見上げてみると、空がかなり高いように見える。
「英人のために俺らが出来ることって、いつでも応援して、必要としてくれた時にすぐに駆け付けることだと思うんだよな」
そこで武史は一区切りすると、「だから、お前がそんなに弱ってちゃだめだ」そう言って、「まぁついてこい」と亜理紗を空き教室へ連れて行った。
空き教室へ入ると、
「亜理紗」
藍は亜理紗を抱きしめた。
「もう!一人で抱え込みすぎだから」
「藍…」
まぁまぁと武史は藍を落ち着かせると、「今日はさ、英人からメッセージを預かってるんだ」と携帯を取り出した。
「英人から?」
「まぁこれを見ろよ」
武史が映像を再生する。
英人が恥ずかしそうに映る。
「これ撮れてるの?」「撮れてるわよ」英人と母親の会話が聞こえ、英人が話し始めた。
「亜理紗、最近元気ないでしょ?きっと僕のことを心配して元気がないんじゃないかな。実はピンピンしてるのかもしれないけど」
そう言って照れくさそうな笑っている。
「亜理沙にはたくさん心配かけたし、色々助けてももらってるので、プレゼントを用意しました!でもそのまま渡すだけってのもつまらないので、武史たちに頼んで宝探しゲームをすることにしました」
パチパチと自分で拍手して盛り上げている。
「さぁ宝物を見つけることができるかな」
そういうと、映像は終わった。
「宝物探し?」
「そう、宝物探し。最初の宝のヒントはこれだよ」
潤から紙を渡されて、開いてみる。
“入学時の最初の亜理紗の席”
英人の字で書かれている。
高1の入学した時の席を思い出して、机の周りを見てみると、机の裏に紙がある。
「“い”?」
“い”と書かれたカードだ。
「次のヒントはこれね」
藍に渡されて開くと、“みんなと一緒に遊んだ公園”とある。
電車とバスに乗って地元に帰ると、懐かしの公園へ向かった。
「懐かしー!最近来てなかったなー」
「よくかくれんぼとかしたよな」
小学生の頃に5人でかくれんぼしたり、鬼ごっこをしたりして過ごしていた。
幼い英人の顔が甦る。
カードは、いつもかくれんぼに使った土管の中にあった。
“さ”と書かれている。
「じゃあ次はこれだ」
武史がヒントの紙が渡される。
どうやらみんなの思い出の場所に宝物のヒントのカードがあるらしい。
亜理紗は次々とカードを集めていった。
「これが最後だよ」
潤に渡されて開くと、“亜理紗と僕が出会った場所”と書かれている。
公園のブランコへ行くと、ブランコの裏にカードが貼られていた。
「これで全部そろったね」
カードを並べてみる。
“い” “さ” “の” “り” “え” “あ”
「並び変えてみなよ」
藍に言われて何度か並び替えてみる。
亜理紗はハッして、走り出した。
がらりと家の扉を開けると、聞き覚えのある優しい声が聞こえる。
「英人!」
「遅かったね」
優しい笑顔で英人は亜理紗を待っていた。
「大丈夫なの?」
「治療を頑張ったから今日は一時帰宅できたのよ」
英人の母親がそう言って、英人の肩を撫でた。
「さぁ、亜理紗。宝物だよ」
そう言って、亜理紗の左手を取った。
「これは祖母から母に受けつがれた指輪なんだ」
すっとポケットから指輪を取り出すと、左手の薬指にはめた。
「夏に誕生日プレゼント準備できなかったから」
亜理紗の目から涙がこぼれた。
「これからも治療頑張って、さっさと病気治して、来年の誕生日はちゃんと準備するから。だから、亜理紗も勉強頑張って夢をかなえてほしい」
「ひでとぉ」
亜理紗はぐちゃぐちゃの顔になったまま、英人の胸に飛び込んだ。
英人の身体は細くなっていたけれど、温かかった。
□■□
亜理紗は手を伸ばして、左手の指輪を光にかざした。
小さな石がキラキラと反射して光る。
(この指輪さえあれば何でも頑張れる、そう思ってたな・・・)
扉が開く音がして、そちらを見ると、英人が心配そうな顔で立っていた。
「ずっと寝ててごめん」
亜理紗が身体を起こそうとすると、慌てて英人はそれを止めた。
「ううん。無理しないで」
英人は指輪に気づいて「それずっとつけてくれてるよね」と亜理紗の左手を手に取った。
ひんやりとした感覚が手に広がる。
「うん。宝物だから」
「大事にしてくれて嬉しいよ」
「うん…」
亜理沙は時計を見て、「そろそろ起きるよ。ずっと寝てる方が余計に悪くなりそうだから」そう言って、起き上がった。
その瞬間、割れるような頭の痛みと血の気が引くような感覚でそのままバタンと倒れた。
遠くで「亜理紗!亜理紗!」と呼ぶ英人の声が聞こえた。
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