それゆえ人はあいされる
阿僧祇
あいされた人類へ
「人が愛されるか? AIされるか? それは人類最大の分岐点となるでしょうね」
新色彩華は、私を試すようにその言葉を投げかけた。
「もちろん、前者のあいされるは、LOVEの方の愛される。だから、人に愛される未来のことね。後者のあいされるは、人工知能のAIされる。AIに使役されるわけだから、人がAIに支配される未来だね。
梨子はこの村のAI技術に触れて、いつかこのAI技術は人を追い越す未来が来るだろうと感じたはず。いや、もうこの村に限れば、AIが人を超えていると感じたんじゃない?
なのに、梨子は未来を諦めて、麻縄で首を吊らないのはなぜ?」
私は答えない。
私は彼女の質問を突拍子の無いものと感じていない。彼女の質問は合理的な考えでは肯定されるものだ。自分より有能なAIがいるのなら、凡人である私のような人間は未来を諦めて、
自決するべきだ。
「梨子が自殺しない理由は、自分の潜在的な価値を信じているからよ。
AIは素晴らしい。
科学、数学、統計などの学術的な分野だけではなく、農業、交通、医学などの実用的な分野や文学、芸術などの人間の心を動かす分野までもAIの力が及んできている。
AI技術の成長速度を考えれば、人間など取るに足らないものよ。
しかし、人は人のことを過信しているようで、人はAIが再現することのできない真価が自分の中に存在すると思っている。その真価の根源の一つは、人の愛する力だろうね。人は愛という言葉が好きだから、その愛はAIでは再現できないと思っている。
でも、その愛が気付かない内に、AIへと入れ替わっている可能性は大いにある。
実際、梨子は私の作品とAIの作品を見分けることができなかったでしょ?
私は人生の全てを芸術に捧げてきた。だから、私が生み出す作品には、私の愛を惜しげもなく注いでいるわけだね。それでも、梨子は私の愛ではなく、人工知能のAIを選んだ。
人の愛なんてその程度なんじゃない?
きっと、インターネットやAIが幼少期にあったという環境的な要因だという反論もあるだろうけど、その環境要因こそ、人がAIに使役されている証拠ではないのかな?
さて、改めて先ほどの質問を問いかけ……、いいや、まどろっこしい質問は止めようか。
そして、限りなく直接的で致命的な質問を問いかけようと思う。
人に生きる価値はある?」
私は即答などできなかった。
私の言葉では、きっと彼女を言い負かすことは出来ないだろう。AIは進化し、人間の真価は失われる。その事実を認めざるを得ない。この村での経験が、私にその事実を受け入れることを強いる。
「私がその質問に答える前に、新色さんに質問していいかしら?」
「ええ、いいわよ」
「あなたの頭上の死体は、あなたが人の生きる価値を信じられなくなった結果ってこと?」
彼女の頭上には、首吊り死体がぶら下がっている。彼女の後ろに降り積もっている雪をさらうような寒風が吹きぬけば、ゆらゆらとつららの生えた死体の足先が揺れた。
彼女は微笑する。
彼女の色白の肌も合わさり、雪女のようで不気味だった。
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