最悪な悲劇
「多分そっちと同じだと思うけど」
「条件は青の地の帝王を殺し、報酬は現実へ帰れるということ」
この警戒よう、
きっとあっちも柧夜を殺すという条件だろう。
そう思いつつも、
条件は同じだろうが報酬は何なのだろうか。
そんな疑問に襲われる。
「そっちの報酬は?」
気づくと無意識のうちに聞いていて
「......名前を変えること」
と小さな声で答えた。
名前?
「別に今のままでもいいんじゃない?」
「可愛いしかっこいいし似合ってると思うけど」
そう励ますように言うと
「私がどれだけ辛い思いしてるかあんたはわかんないんでしょうね!!」
「だって『千秋』だなんて普通で羨ましいし!!」
「私だって普通の名前が良かったのに!!」
と涙ながらに声を上げた。
その瞬間、視点が暗転し身体が重くなった。
でもそれとほぼ同時に
身体が一瞬で冷たくなったような感覚もした。
まるで氷になったというような。
目を開けると俺は何事も無かったように
先程と同じ、薄暗い土砂降りの中に居た。
が、さっきと違うところが1つあった。
それは目の前に倒れている俺と
慌ててる叶向が居た。
だが視点は俯瞰視点で見ているような感じだった。
「は...?」
そう声を漏らしたと同時に
【名を...】
【我に名を...愛し子よ......】
と響く。
またあの声。
一体誰なんだ。
「..ぁ....き」
「千秋!」
ふと誰かに呼ばれているような気がして
無意識的に目を開ける。
と、目の前に居たのは心配そうな顔で
俺を見てるラトと柧夜の姿があった。
そして遠くには冬の帝王の姿も。
「ん...」
「あれ?柧夜..なんで泣いて──」
「千秋!!」
俺の声を遮ってまで俺の名前を呼ぶ。
俺が柧夜と目が合ったと同時に柧夜は
俺のことを抱きしめてきた。
【まず、この騒動を起こしてしまい、申し訳ない】
ふと、そんな声が聞こえ振り向く。
と、居たのは紫色の龍だった。
しかもこの声...
何度も頭に響いたあの声の正体は
この龍だというのか?
「藤の龍のせいじゃないニャ!!」
藤の龍?
【いや、全ては我のせいである】
【我が──】
どんどん話が進んでいってるのにも関わらず、
俺はなぜだか耳には入っていかなかった。
「フユ...?」
気づくと俺は無意識にそんなことを呟いていた。
『フユ』
聞き覚えは全くないが、
なぜか懐かしさを感じるのが少し恐い。
【『フユ』それは我の名だな?】
【ありがたい】
そう言いながら紫の龍...
いや、藤の龍は俺に近づいてきた。
が、
「ダメ!!」
「千秋にはあげない!!」
そう叶向が叫んだと同時に叶向の周りは
藤の花弁が舞い始めた。
なんだか花弁の先が尖ってて危ない。
しかも段々、俺に近づいてきている気がする。
狙いは俺か?
はたまた、藤の龍だろうか。
そんなことを思っていると、
花弁は一斉に俺と藤の龍に向かって飛んできた。
ほぼ瞬きの間の出来事だった。
柧夜が俺と藤の龍に前に立ち、
俺たちを守った。
だが、柧夜の紅葉の力じゃ守ろきれず、
やばいと思ったのも束の間。
冬の帝王は柧夜の前に立ち塞がったのだ。
なぜだかは分からない。
互いに仲が悪いんじゃ無かったのか?
そのせいで冬の帝王は死んでしまった...の
だろうか?
真相は分からない。
だが、
倒れていることしか分からなかったのだから。
我が戻ったのか叶向は冬の帝王の姿を見て
「寒珋...?」
と震え声を零す。
「寒珋ってば!!返事してよ...!!」
そう言いながら叶向は肩を揺するも、
返事は無かった。
大粒の涙をぼろぼろと零している最中、
柧夜はこんなことを言う。
「自分がやったことじゃろう」
「罰が当たったのじゃ」
と。
こんな時くらい慰めてあげろよ。
そう思った。
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