はやく終わりにしてくれや (6)

 奏多と葉時目。

 二人の地球人が元の世界へと帰還した。


 しかし、世界を超えた別れに浸る間もなく緊急事態は進行形。

 飛ぶ鳥後を残さずというが、思いっきり残していった。

 決定的な部分はどっかの魔法使いのせいなのだが。


 複数キャストの退場で、すっかり殺風景になったこの空洞に重低音が響いた。


「見てください! 地面が開いて、大きな穴が出てきましたわ!」


 サリアリットが足元に突如出現した大穴を指さす。

 直径にして一〇メートルはありそうだ。

 それなりに深さもあるらしく、覗き込んでも底が見えない。


「これがハジメ殿が言っていた奥の手か? なんだこれは。落とし穴か?」

「え? だったら落ちた方が絵的にはおいしかったんですかね? しくったー。私としたことが、汚れくらいサラッとこなせないとスター性を疑われてしまいます」


 グリシナとフィアーナが呑気な見解を述べているが、春賀は嫌な予感。

 あの葉時目が落とし穴などという、お笑い寄りのお約束を用意するとは到底思えなかった。


 発射。爆発。

 それらの発言とSF映画とかで見たことある、この穴。


 もしこれがショー劇なら、特別ゲストが派手に登場して観客を沸かせるものだが、どうやらスケジュールを押さえることはできなかったらしい。


 だが、それは現れた。

 轟音と溺れるほどの白煙を巻き上げ、せり上がってくる。


 大掛かりな舞台装置で登場したソレは、凄まじい速度で天井の大穴を通過。

 あっという間にうっすらと朝焼けがかかった小さな空へ飛び去って行った。


「げっほげっほ! な、なんですかあれは!?」


 立ち込める煙の中、咳き込むフィアーナ疑問は皆同様。


 だが、春賀にはわかる。

 実物は見たことはないが、それだって知ってはいる。


「あれは、―――ミサイルだっ!」


 ★


「「「みさいる?」」」


 魔法使い三人娘とミノタウロスが首を傾げる。

 まるで子供向け教育番組みたいなノリだが、そんな可愛らしいものではない。


 春賀も別に詳しいわけではないが、知識ゼロの異世界人たちに大まかに説明する。

 一番に反応したのはサリアリットだった。

 真っ青になり、がっくりと膝をつく。


「このままでは民が、我が国が・・・」

「まずいぞ。確か今はあの城に王都の国民全員が避難しているのだろう?」


 自然に優しい魔道ミサイル―――

落陽の炎デリート・サンライズ〟。

 半径一〇キロメートルを吹き飛ばす大量破壊兵器。


 葉時目のプレゼン通りなら、あと数分でそれがネイゴルニーヤ城を直撃。

 レイブルノウ王国は名実ともにこの世界から消滅する。


 きっと今頃王都では、何も知らない人々が朝日を拝もうと起床を始めている頃合いだ。

 それが消滅の太陽であるとも知らずに。


「やっぱり最後はこの私。超天才美少女魔法使い、フィアーナさんの出番ですね」


 翻る白のローブ。

 フィアーナは愛嬌たっぷりにウインクして、ゴーグルをはめた。


「それじゃ、ちょっくらいってきます」


 箒星スターダスト点火バーニアンを発動。

 ミサイルと同じ天井の大穴を通って空の彼方へ飛んでいった。


 誰一人言葉を挟めない、瞬く間の出来事。

 そもそも彼女のドジがなければ、などというツッコミを入れる暇も。

 止める余地すらなかった。


「あいつ・・・」


 グリシナが天井の穴を見上げ、拳を握った。

 サリアリットは地面に伏せって泣き崩れてしまっている。

 そして、魔道人形の中にいる春賀は・・・・・。


 ★


 フィアーナは魔道ミサイルを追う。

 ジェット魔法で朝焼けの空間を凄まじい速度で一直線に貫いていく。

 東の空はまだ薄暗く、先にいくほどその暗さはさらに濃度を増した。


 まるで夜を追う一条の流星。

 なんとも詩的だが、実際は闇夜を突き進む特攻機だ。


(流星が太陽に追われるなんて屈辱ですね・・・)


 西の山影からわずかに顔を出した太陽。

 陽の光に背中を焼かれながら吐いた文句が一瞬で遥か後方に飛んでいく。


 景色が溶ける速度の世界。

 すべてを置き去りにする、誰もいない世界。

 ここにいる時だけ、自分は束の間の孤独に浸ることができる。


(見つけた・・・っ)


 ちょっとだけ感傷に浸っていたフィアーナは、この世界の先に異物を発見した。


 速度を上げる。

 箒を握る手がチリチリと痺れるような感覚。

 小さな針の先で軽くひっかくような痛痒さが全身に広がり始めた。


(お願いっ・・・私の体、もう少しだけ・・・っ)


 体中が悲鳴という名の警告を上げる。

 ここまでの危険領域に踏み込んだのは初めてだ。

 このまま魔法を行使し続ければ、この体は数分ともたないだろう。


 魔力の枯渇は、死。

 まるで消える直前の花火のように肉体が激しく燃え、爆散する。

 貧弱な人間の体は耐えきれず、灰となって消滅する。


 だが、普通はそうならない。

 死への恐怖で本能的にブレーキが掛かるからだ。


 しかしここでやめたら、レイブルノウ王国はこの世から消滅する。


「・・・・・・・・・・・・・」


 はめたゴーグルに掛けた左手に、わずかに力が入る。

 フィアーナは目を閉じ、速度の世界で三秒という貴重な時間を沈黙に費やした。


 左手で隠れた顔の半分。

 噤まれていた口が、にやりと笑みを形作った。


「この世界で私より前を飛ぶたぁおもしれえ!」


 フィアーナは魔力全ブッぱで、速度をさらに上げた。

 ぐんぐん追い上げ、ついに魔道ミサイルと並走するまで漕ぎつける。


 手を伸ばせば届く距離に、約三メートルの長さの棒が横倒しになって、そこに置いてあった。

 実際はそうではないのだが、同速で飛行するフィアーナにはそう見えた。

 あとは、これを爆発に巻き込んでしまえば・・・。


 ボッキィ!


(え? ああっ! 箒が折れたあ! ええーいこうなったら、ファイトいっぱーつ!)


 ぴょーん!


 箒を放棄したフィアーナは魔道ミサイルに飛び移った。

 ミサイルに跨って空を飛ぶ魔法使い。

 風刺絵とかでありそうなシュールな構図が出来上がった。


(よ、よっしゃあ、為せば成る・・・)


 ギャグっぽいが、ガチでやばかった。


(あら? このみさいるって、箒みたいに私の魔法にしっくりくる感じですね)


 これなら、たぶん大丈夫。

 目を凝らした遥か先に、ネイゴルニーヤ城が微かに見えた。

 魔道ミサイルがあそこに到達するまで、あと一分もないだろう。


 フィアーナは、ふう、と深呼吸して精神集中。

 自分に残されたすべての魔力を魔道ミサイルに流し込む。

 体の奥底で何かが抑えようもなく膨張してくのがわかった。


「最後の綺羅星! ド派手にかっ飛ばしますよっ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・ーん」

「なんですか、せっかくカッコよく決めたのに。というか、この声はどこから?」


 フィアーナが、チラリと後ろに振り返ると、


「フィーさあ~ん! 待ってよぅ~っ!」


 魔道人形が爆走していた。


「待ってよアベッ!」


 どん臭く転んだ。


「こなくそ~~~~~~~~~~~~ぅ!」


 すぐ立ち上がった。

 ギャグ漫画染みたオモシロ走りで追いかけてくる。


 その進行方向に監視風車塔が建っていた。


「おい、ありゃなんだ?(監視塔にいた衛兵A)」

「ぶつかりゅぅ~ッ! おかあちゃ~ん!(監視塔にいた衛兵B)」


 魔道人形が監視塔を駆け昇った。

 一歩踏み出すごとにガラガラ瓦解するも、かまわず突き進む。

 そして回転する風車の羽根の先端から、魔道ミサイル目掛けて。


 フィアーナ目掛けてジャンプした。

 しかし、わずかに届かない。


「うわーん!」


 春賀は魔道人形のハッチを開け、そこから飛び出した。

 空中をクロールしたり平泳ぎしたりして足りない距離を稼ぐ。

 魔道ミサイルに抱き着いた。


「信じられない・・・」


 執念の成せる技か。

 それほどまでに必死だったのか。

 普段、奇跡だなんだと宣っている魔法使いもこれには唖然。


「なにやってんですかこんな危ないことして! あーいや、それもよりも・・・ええーい、とにかくすぐに降りなさいっ!」

「嫌だよっ! そんなの絶対に嫌だよっ!」


 春賀は叫んだ。

 キンキン声が風が暴れる音を貫く。


「フィーさん言ったじゃないか! ずっと一緒にいてくれるって! でもこのままじゃフィーさんだけが死んじゃうじゃないか! そんなのだめだよ! あっちに行くなら、僕も一緒じゃなきゃ嫌だよぅっ!」


 春賀はミサイルにしがみ付きながら訴えた。

 えんえんと涙を流し、べちゃべちゃ鼻水を垂らしながら。

 かっこ悪い。情けない。

 まるで小さな子供の幼稚な我が儘だった。


「・・・・・たとえそこが地獄でも?」

「ここが天国なら未練もあったかもね。まあ、どこも変わらないよきっと」


 春賀はまた、にへらと気の抜けた笑みを浮かべた。

 高所恐怖症で、ちょっとだけ引きつっていた。


 フィアーナは、プッと吹き出してしまう。

 ああもう、この子はほんとに・・・


「よーし! それではいっちょ、次の世界までかっ飛ばしますよ!」

「できれば安全運転で・・・」

「魔力全開ヒャッハーッ! あ」


 フィアーナがぎこちなく春賀へ振り返った。

 珍しく焦った風で、笑みもぎこちない。

 発覚したミスを誤魔化すみたいで、あははと乾いている。


「私、二人乗り苦手なんですよねー・・・」


 あはは。


「へ―――ああああああああああああああああああうわああああああああああああああああああああああああああああおうわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・・・・・・


 暴走した魔道ミサイルはしっちゃかめっちゃかに王都上空を飛び回った後。

 まだ薄暗さの残る東の空へ消え、―――


 どっかーん。


 爆発した。


 この不可思議な出来事は後に『太陽が東から昇った日』として、しばし人々の間で語られたが、「そんなギャグみたいなことあるわけないじゃん」と、誰も聞く耳を持たない与太話として、あっという間に風化。

 人々の記憶から消え、忘れられた。





 で、春賀とフィアーナはというと・・・・・・





 どっかの草原で大の字になり、すっかり夜が明けた空を、ぼーっと見上げていた。

 二人ともボロボロで、完全に爆発オチの後だった。


「・・・生き残っちゃったね」

「・・・・・・・そうですね」


 二人とも黄昏ちゃってた。


「これからどうしよっか」

「どうしましょうかー」


 ボルヘイムの脅威は去った。

 レイブルノウ王国に仇なす存在はおそらくもういない。

 だからといって、これまでの生活に戻るといのも・・・。


「・・・ハルカくんは何かやりたいことあります?」

「僕は・・・うーん、すぐには思いつかないなぁ」


 それはそうか。

 と、フィアーナは春賀に背を向ける形で、ごろんと寝返りを打ち、


「ねえ、何があったんですか?」


 寝返りを打ち直し、春賀の方へ向いた。


「竜騎士さんから聞きました。地球世界であの人と別れて、三年間であなたは〝そうなってしまった〟。一体何があったんですか?」


 他人の繊細な部分に触れる不躾な質問。

 普通なら神経を疑うところだが、フィアーナはこと春賀に関しては、んなこと知ったこっちゃねー。


「だって私たち、これからずっと一緒なんですよね?」


 まっすぐに春賀と目を合わせる。

 ずいっと近づけてきた彼女の顔に、春賀はあうあうと狼狽えてしまう。

 いつもこれくらいならいいのに、とちょっとだけ思った。


「別に面白くなんかないよ。もう終わったことだし」

「構いません。なんならまず私がとっておきの秘密を暴露しちゃいます。実は・・・」


 ・・・・・ゴク。


「実は私、巨乳じゃないんですぅ~!」


 春賀はコケた。


「みんな知ってるよ!」

「ずっとパットしてたんですぅ~っ! シクシク」

「ええっそれで!? むしろどうなってるのその胸! 抉れてるの!? 女性型ロボットがおっぱいミサイル撃った後みたいになってるの!? 業務用アイスクリームを二か所くりぬいた画像でひと笑い起きちゃう! 大変! フィーさんがネットのおもちゃに!」


 さめざめ涙を流すフィアーナだが、春賀としてもいろんな意味で勘弁してほしい。


「さあ、私も言ったんですから。ぐす」


 一体誰得情報だったのか。

 しばし、眉間に指をあてていた春賀だったが、


(ま、いっか)


 語ることにした。

 記憶の中で、座っていた椅子をターンさせ、真後ろにあったそれに手を伸ばす感覚で、あの三年間を思いだす。


 話してる間。

 鳩っぽい鳥が通りすがりのワイバーンに、パクっと食べられた。


 フィアーナからすれば、ふーん、って感じの話だった。



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