はやく終わりにしてくれや (2)
―――サラマンダー。
数多の作品で火を吐く竜や、火を司る精霊として登場するメジャーモンスター。
このネイバース世界においては前者の方。
四本の足で立った状態で全高一〇メートル。
巨大なトカゲと聞けば爬虫類マニアが喜びそうだが、違う。
圧倒的に。別次元的に。
シンプルに強い大怪獣。
最強のモンスターの一角―――ドラゴンだ。
「このサラマンダーは僕の命令に忠実に従う可愛いペットさ。躾のために結構な投薬を必要としたが、おかげで血統書付きのゴールデンレトリバーよりも言うことを聞くぞ!」
葉時目は元祖ロボットアニメの主人公が持ってそうなリモコンを取り出した。
「ほれほれ! お手! お座り! ルービックキューブ! 水芸!」
ノリノリで操作し、最強のモンスターが御捻り頂戴の芸を披露する。
わずかに自我が残っているのか、弄ばれる火竜の朦朧とした唸り声が響いた。
「ハハッ! 今度バイリンガルでも作っておくよ! ああ、ペット自慢ができて気分がいいな。春賀君もぜひ遊んであげてくれ。大丈夫、予防接種はバッチリさ」
「あわわわわ・・・」
「それと、リモコンは気分が出るから作っただけだから、破壊すればなんてお約束は残念ながらないよ。さあ砕け! サラマンダー! あいつをやっつけるんだっ!」
葉時目は全世界の愛犬家が猛抗議しそうな命令を下した。
人懐っこいのか、主のGOの合図で元気に駆け寄ってくる。
「どどどどうしようっ! 変身しようにもフィーさんはカプセルの中だし!」
「いーなー、私もあれやってみたいです。ハルカくん! 十万ボルト!」
「できるわけないじゃないかうわ~ん!」
春賀は火事場の馬鹿力でフィアーナの入ったカプセルを持ち上げ、逃走。
逃げながら、昔野良犬に追いかけられたことを思い出した。
その時と比べると随分と大型犬(?)だが、状況的にはあまり変わらない。
「たわばっ!」
「なに転んでんですかっ! どん臭いのもええ加減にせえよ――――ッ!」
投げ出されたカプセルの中で、フィアーナの罵りが反響した。
「いってぇなちくしょ~。この入れ物どんだけ頑丈なんですか? 地面に落ちてもヒビ一つ入ってないし・・・ってハルカくん! 前ッ! まえーっ!」
「ひぇーッ! もうおしまいだ! フィーさんごめんなさい! やっぱり僕は救世主なんかになれなかった! 何の力も無くて役立たずで、なにもできなかったよぅ~!」
春賀の情けない懺悔。
サラマンダーの鋭い牙が光る。噛む気満々だった。
「ぐは! 死んだーって、あれ? 生きてる? なんで? そしてこのモコモコは何?」
目の前に出現した謎の白い物体。
よく見るとそれは、白い羽根でできた壁だった。
羽根が散り、中から山吹色に輝いた魔法剣士が現れた。
彼女が握る大剣が自身の何倍もあるサラマンダーを受け止めていた。
「だらしないやつだな、へっぽこめ」
「グリシナちゃん!」
「わたくしもいますわ」
散っていた羽根に再び緑の息吹が注がれる。
花吹雪ならぬ、羽根吹雪。
サラマンダーの視界や感覚が敏感そうな部分に的確に纏わりつき、注意を逸らす。
「ぶもおおおおおぉぉぉぉ―――――――――――――――ッ!」
サラマンダーのがら空きの横っ腹にミノタウロスが必殺〝パワーホーン〟をぶちかました。
虚をついた渾身の突進に火竜が体勢をぐらつかせる。
「サリーさん! ミーくん!」
「お待たせしましたわ、ハルカ様。フィーも無事でよかった」
「ぶもぉ・・・」
「おい、あいつは何で泣いてるんだ?」
「きっと初めて必殺技が決まって感動してるんだよ。よかったねミーくん」
サラマンダーが火炎で羽根を焼き払った。
ミノタウロスの倍はある高さから、たくさんになった遊び相手を大きな目で見下ろす。
「まさかこんな隠し玉を持っていたとは、ハナがやられたのも頷けるな」
そう口にするグリシナの大剣が派手に折れていた。
連戦続きに今の攻防がとどめとなったらしい。
サリアリットも羽根を燃やされてしまい、ネタが尽きた。
魔法を封じられた魔法使い。
しかし、二人に絶望はなかった。
「ハルカ様。貴方は役立たずなんかじゃありませんわ。確かに貴方は弱虫で泣き虫で情けなくて、容姿も格好良いとは言えません」
「へっぽこだからな。竜騎士様の友人でなければ、お前など相手にしなかった」
グリシナが素っ気なく付け足す。
だが、声色に嫌味の類はなかった。
サリアリットは胸に抱いていた、緑に光るボトルを託すように差し出した。
「貴方は塞ぎ込んだわたくしに、手を差し伸べてくださいました。言葉を掛けてくださいました。顔を上げる勇気をくれました」
「お前はへっぽこだが、私が見失いかけた誇りを見つけてくれた。かけがえのない大切なものが、私の中にあると気付かせてくれた。・・・嬉しかったぞ」
グリシナは照れ臭そうに顔を逸らしながら、山吹色に光ったボトルを渡してきた。
「サリーさん・・・グリシナちゃ―――」
ガンッ!
何かが魔道人形の頭に投げつけられた。
ひっくり返り、単眼を動かす。
紅い輝きを放つボトルが地面に転がっていた。
「まったく、美少女二人に迫られたからってデレデレしちゃって」
ミノタウロスのおかげで、カプセルから出ることができた魔法使いの少女。
トレードマークの箒を受け取り、白のローブ姿が紅いポニーテールをかき上げた。
「ハルカくん。あなたあの時言いましたよね。俺がお前の魔法だって」
それは春賀がこの世界に召喚された最初の夜。
初めて魔道人形に乗って変身した時に彼女へ言った台詞だ。
「救世主だとか、そういうのはもういいです。だけどあなたが私の魔法なら無様は許しません。この超天才巨乳美少女魔法使いである私の魔法が、この程度なわけないだろ?」
ごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごご・・・・・・。
「は、はいぃ・・・」
春賀は泣きそうになった。
「最後の最後にもう一度だけ教えたげます。何度言わせんですか言わせんな恥ずかしい」
フィアーナは、ビシッと高らかに指を立て、いつものやつを意気揚々と謳った。
「魔法とはズバリ全知全能! このネイバース世界を統べる手のひらの上の森羅万象にして、すぐそこにある神聖神秘の息吹なり。奇跡の一つや二つ、サクッと起こしやがれっ!」
げっぷぅ。
「―――
★
少女の心の
地を焼く焔は風に消え。
熱は那由多の彼方まで。
我らは炎。
遥かなる空虚に、新たな軌跡を焼き付ける。
《―――インストール終了。ドレスコード・イフリート。マスターアップ―――》
それは神秘のエトワール。
ウィッチでエッチなウィザードリィ。
魔法仕掛けの
「魔法少女マギアギア☆エリス! 完成だぜ!」
真紅の閃光。
舞い散る火の粉は桜花の如く。
紅蓮のセーラー服は灼熱の梅花。
魔女っ娘帽子を頭に被り、上昇気流でなびくスカートの下で純白をチラつかせた。
世界の軛から解かれた魔法の乙女。
対峙するのはこの世界の頂点の一角、ドラゴン。
その戦いの火ぶたが今、切って落とされた。
「いくぜぃ!」
先に動いたのはエリス。
背面バーニアが火を吹き、一直線に突っ込んでいった。
それを火竜は口を開けて待ち構え、食らいつく。
しかし、どれだけ丹念に噛み締めても、舌を濡らすのは唾液ばかり。
「オラオラオラオラオラあぁ――――――――――――っ!」
空を味わった火竜の真下から衝撃の連打が叩きこまれた。
ちょうど顎下から下半身へかけて。
まっすぐに正中線を拳のラッシュが通り過ぎていく。
エリスは食いつかれる直前。
スライディングの要領で火竜の真下へ滑り込んだのだ。
そしてスラスターで低空飛行し、打ち込めるだけのパンチを打ち込んだのだ。
「どんなもんでぇい! ―――って、おうわっ!」
サラマンダー真下から抜け出し、背後で着地したエリス。
そこを狙って巨大な尻尾が振り下ろされた。
残念ながら今の連打は大したダメージになっていないらしい。
咄嗟の横っ飛びで回避するも、地盤を砕くほどの威力と重量。
あまりのスケールの違いにたまらず肝が冷えた。
しかし、本当の意味で肝が冷えるのはこの次。
いや、冷えるにしては熱すぎる。
サラマンダーの口の中で、炎が溢れんばかりに渦巻いていた。
まるで生体火炎放射器。
灼熱の赤が空間を塗り潰すペンキのようにぶちまけられた。
エリスは両足のスラスターを吹かし、地表を高速でスライド移動。
どうにかその効果範囲から逃れることができた。
「あらよっと! ざっとこんなもんだぜってあイッタぁッ!?」
天井に頭をぶつけた。
火炎をブースタージャンプで逃れたまではよかった。
しかし、勢い余って天井に激突してしまったのだ。
「しおしおのぱ~」と落下していく乙女を、センターフライを取るように渦巻く火炎が見事にキャッチした。
「やれやれ。デートに焼肉なんて、ボクの趣味じゃないな」
緑の閃光。
巻き起こった旋風が纏わりつく炎を吹き飛ばした。
頭上に輝く光のリング。
四肢の翼を広げる女神の如き、その姿。
エリスがドレスコード・ペガサスに変身したのだ。
「ここは随分と風通しが悪いね」
小言を漏らし、狭い空間を飛行する四翼の天使。
火竜はそれを叩き落してやろうとするも、あの虫はそれができないギリギリの高さを嫌らしく飛行している。
なんとも嫌らしい。
致し方ない。
火竜は害虫駆除の方法を殺虫剤を撒くことに決めた。
上空へ向かって放たれる炎の渦。
しかし、四翼の天使はその機動力で火炎を、ひらりと涼し気に躱す。
「キャアッ!」
その悲鳴が四翼の天使に届いた。
まるで餌に引かれる魚。
露骨に反応を示した乙女が単眼を走らせる。
地上が火の海になっていた。
火の手が三人の少女と一匹の友人の目と鼻の先まで迫っていた。
「さすがにそれは頂けないな」
致し方ない。
エリスはご期待通り、放たれた火炎を真っ向から迎え撃った。
それは揺らめく蝶のよう。
乙女は両手に扇子を携え、優雅に舞った。
乙女が舞えば、そこは神風の舞踏会。
舞い散る金属質の羽根が炎をパートナーに乱暴な円舞曲を踊る。
発生した異常気流。
火炎が綿あめのように絡めとられ、空間にたくさんの火球が浮かんだ。
「ご照覧あれ」
単眼の天使が何気なく扇子を振る。
命令を受け、火球が一斉にサラマンダーへ殺到した。
風と炎の異色ペアは随分と好評のようだ。
火だるまのサラマンダーが悶絶し、のたうち回っている。
「怪我はなかったかな?」
「はい! ありがとうございますハルカ様!」
サリアリットは目がハートだった。
残りの二人と一匹は、うーわ、みたいな顔。
花の香りに誘われる虫のように、サリアリットたちのもとへフラフラ降下していた四翼の天使。
そんな乙女を巨大な尻尾が横薙ぎに襲い、岩壁に叩きつけた。
サラマンダーが歓喜の咆哮を上げる。
やはり虫を殺すのはこれに限るとばかりに。
サラマンダーは健在。
火炎のダメージも分厚い皮膚と強靭な鱗のおかげで見た目ほどではなかった。
ただ高熱を吸い込んだせいで肺を損傷し、火炎の使用が非常に億劫になってしまった。
しかし、その憂さはすぐにでも晴らせる。
火竜が尻尾で岩壁に押さえつけている虫を、大根おろしにしてやろうか海老煎餅にしてやろうか悩んでいると、
「その手は桑名の焼き蛤でござるよ」
再び閃光。
カラーは山吹色。
説明不要のゴスロリナイトタンク。
ドレスコード・デュラハンに変身したエリス。
背面アームに接続された五・二八メートルの大剣で、火竜の尻尾を受け止めていた。
両足のキャタピラが岩壁と設置しているので魔法の発動も無問題。
「推して参る。いざ」
両腕が伸び、火竜の尻尾に巻き付いた。
駆動輪が唸る。
岩壁を下って無事に地面に到達した。
「おおおおおおおおおおおおおおおおお・・・どりゃああああああああああッ!」
フルパワーで超進地旋回。
グルグル回転し、自身よりも遥かに巨大な火竜を迫力満点のジャイアントスイングでぶん投げた。
豪快にしてダイナミック。
落下した衝撃で地面が揺れ、グリシナたちがそのタイミングでぴょんとジャンプした。
「お覚悟」
エリスの背面砲剣が稼働し、右肩へマウントされた。
サラマンダーは立ち上がることに難儀している。
絶好のチャンス。
乙女は両足のキャタピラで前進を始めた。
「おい! どこに行く!」
グリシナがその背中に叫んだ。
ゴスロリナイトタンクは全然違う方向へ進んでいた。
ドレスコード・デュラハンは頭が非常に取れやすい。
実はさっきのジャイアントスイングの時に、勢いでどっかに飛んで行っちゃったのだ。
「ムム、さらまんだあはどこへいったでござるか? というか、なんでござるかこの状況は? まるで天地がひっくり返ったかのようではござらんか。うむぅ、面妖な」
「あらら、あの大きな剣が壁につっかえて動けなくなってますね。うーん、かっこ悪い」
「アホかー! さっさと頭を探せー!」
「わたくしたちも探しましょう! ほら、フィーも!」
「こういうのって、探してる時に限って見つからないんですよねー」
魔法使い三人は慌ててどっかいっちゃったエリスの頭を捜索開始(一人テレビのリモコン感覚)。
そんなことをしている間に。
コースアウトしたミニ四駆みたいになっていたエリスの背後に巨大な影。
ぱく。
「「「あ」」」
サラマンダーがエリスを口に咥えた。
ひょいっと持ち上げた。
魔法が、解除された。
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