光の音が降る

高橋健一郎

第1話

🎼 タイトル:『光の音が降る』


プロローグ:静寂の音


神戸・北野異人館街。

春祭りの準備が進む夕暮れ、古びたピアノが静かに佇む音楽ホールがあった。

鍵盤には薄く埃が積もり、時計の針は止まったままだ。


ピアノの前に座る男──高橋健一郎(48)は、静かにポケットウォッチを指でなぞる。

母の形見だが、針は動かない。


「まだ…音を鳴らせる資格はない。」

囁くように呟いた言葉が、ホールの片隅に消えていった。


第1幕:止まった音と少年の影


異人館街の坂道を下る水野玲奈(30)は、夕日を浴びながら悩んでいた。

「生徒が退学処分になるかもしれないの。」


問題児──佐藤大地(17)が学校の楽器を壊し、教師たちは手を焼いていた。

「彼に手を差し伸べなければ…。」


玲奈の胸には、小さな万華鏡のペンダントが揺れる。

かつて彼女もまた、「救えなかった生徒」がいた。


玲奈は「音楽で彼を救えるかもしれない」と考え、高橋に助けを求める。

しかし彼は、頑なに首を振る。

「音楽が人を救えるなんて、幻想だ。」


第2幕:音が響く場所


大地は夜の街角で、一台の壊れかけたシンセサイザーを弾いていた。

その音は不安定で、まるで彼の心そのもの。


「父さんは、音楽が好きだった。」

父の形見のカセットプレイヤーは再生できず、大地の心もまた止まっていた。


ある夜、高橋は偶然その音を耳にする。

「…似ている。」

亡き母のピアノの音に、重なるものを感じた。


玲奈の「彼を助けてほしい」という願いが、再び頭をよぎる。


第3幕:光と影が交わる祭りの夜


春祭りの夜、大地は楽器店でシンセサイザーを弾いていたが、音が乱れ暴走した。

玲奈が駆けつけるが、間に合わない。

「もうダメだ…。」


だがその時、

「やってみろ。」

高橋がピアノの前に立ち、伴奏を重ねた。

音はやがてシンクロし、光の音が祭りの夜空を満たしていく。


シンセサイザーが奏でる音が、ピアノと融合し、ホールの止まっていた時計の針がゆっくり動き始めた。


第4幕:再生の音楽


玲奈の目には涙が浮かんでいた。

「救えなかった生徒のことを…ずっと忘れられなかった。」


彼女はポケットに手を入れ、万華鏡を覗く。

映し出された光がホールを照らし、玲奈の影を優しく包み込んだ。


最終幕:光の音が降る


祭りの夜が明けるころ、大地は再びシンセサイザーを手にし、高橋のピアノと共に演奏する。

「音は、人を救える。」


止まっていた時計の針は、今も音楽と共に静かに進んでいた。

玲奈は生徒たちに微笑みかけ、万華鏡の光をそっと空に掲げた。


──春の光の音が、彼らに降り注いでいた。


(終)

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