触手と少女の流離譚 ~ 触手になって強気美少女と旅するお話 ~

@p-o-i-d

第1-1話 俺が触手になった話

「魔法の薬を生み出したり、一晩で城を建てたり。私もそういう力を手に入れて、糞みたいなスラム出て人生変えるはずだったのに! なんで! エロ! 触手! なの!」


「いだ! いだい! やめろっ! ての!」


 晴れやかな空の下、川べりで。少女の怒号が響く。少女の髪は金色で、すみれ色をした大きく勝気そうな瞳は細い眉と長いまつげが飾る。濡れネズミになって張り付いたシャツに浮き出る、細くしなやかなシルエットと快活な声は、猫科動物を思わせる。そんな少女が……うなじから生えた黒い蛇のような触手をビッタンビッタン地面に叩きつけていた。この触手というのが、俺なのだが。


 断っておくが俺は人間だ。その俺がなぜこうなってしまったのか、それは少し時間をさかのぼる……




俺はついにたどり着いた。神の座所、古の神秘が生み出した奇跡、あらゆる願いを叶えられるというその場所に。目の前には無限に広がる暗黒と、その中に渦巻く光が見えた。それこそが神であると理解した俺は、渾身の声で、呼びかけた。



「神よ! 俺に応えてくれ! 俺の願いを叶えてくれ!」



 声に、渦巻く光が揺らぎ……頭の中で声がした。



「……私を、呼びましたか」



届いた。神は応えた。俺は歓喜と共に、神へ願いを叫んだ。



「神よ! 俺は! 美少女と触手でエロイことがしたいっ!」


「はい?」


「美女や美少女と触手で色々エロエロしたいっ!!!」



 拳を突き上げ再度叫ぶ。男の夢を。書物の中にしか存在しなかったそれを。現実のものとするために! 



「さあ神よ、願いを叶えたまえ!」


「……良いでしょう」


「よっしゃああーーーーーっ!!」



 ついに夢がかなう時が来た。俺は天を仰いで目を閉じ、歓喜を噛みしめた……神の言葉と同時に、俺は長旅の疲れからか、眠気に包まれ……







「……なにそれええーーーーーっ!?」



 その眠気は、どこか子供っぽい、甲高い女の声で破られた。



「やり直し! やり直しよ! なんで有り金はたいてそんなアビリティ付けられなきゃならないの!」


「なんでって言ってもねえ。最初に言ったでしょう。どんなアビリティが付くかはわからないって」


「だからって触手って! 『様々な変態的行為を行える触手』って! そんなもの……!」


 状況が呑み込めない。耳は聞こえるが何も見えない。手で周りを探ろうとしても動かない、手の感覚がない。足も。立っているのか寝ているのかも、狭い出たいどこへどこから身をよじり進んで



「ブハッ!」



 カーテンか何かを掻き分け、狭い空間を飛び出すような感覚とともに一息ついた。そこはどこか地下室のよう。周りを見渡すと全身をローブで覆った怪しい風体の男。そしてもう一人、背中の半ばほどの長さの金髪を二つに分けてまとめた、小柄な少女。服装はよく言えば活動的、悪く言えば小汚くて男っぽい。その少女の白いうなじから黒い蛇のようなものが飛び出している。これが俺だ。俺……俺?



「俺えええぇぇぇぇぇ!!?」


「喋ったあああああああ!?」



 俺と、一拍置いた少女の叫びが地下室に響き渡った……

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