第38話 ボクらの明日へと

 風に舞った木の葉が地に落ち、グリフォン達とフォーゼとの睨み合いは戦いへと変わった。フォーゼはグリフォン目掛けて飛びかかり、グリフォンは引き抜いた羽根を四本飛ばしてきた。フォーゼは口から炎を吐き、羽根は全て灰となって落ちた。

 フォーゼはスピードを緩めず、短時間でグリフォンとの距離を詰めた。グリフォンは瞬時に大きなクチバシを開き、フォーゼを丸呑みしようとした。フォーゼはそれに気づき、直前で体をひねったが間に合わず、左翼に噛みつかれた。グリフォンには歯が無いため、外傷は今のところ無い事が不幸中の幸いだ。しかし、グリフォンは左足を突き出してきた。このままでは翼を引き千切られる、そう思ったフォーゼは捕まえられたままグリフォンの首に噛みついた。

「グギャア、ギャオォー!」

グリフォンも噛みつかれた状態でフォーゼの胴体を左足で掴んだ。グリフォンはフォーゼの左翼を引っ張り、飛行不能にしようとする。あまりの握力に、フォーゼは胴体が握りつぶされてしまいそうだ。フォーゼも決して攻撃をやめず、首元を噛みちぎろうとする。ドラゴンは魔物の中でも特に牙が鋭く、首の骨すらも砕くかもしれない。どちらも、勝てそうで勝てない状況だった。

 フォーゼは有りったけの力を込め、自身の骨が潰れるより先にグリフォンの首元を噛み千切った。フォーゼはグリフォンの返り血を浴び、そしてグリフォンの左足とクチバシの力は自然と緩んだ。フォーゼはグリフォンの亡骸の上から動こうとせず、息を切らしている。その一瞬の隙を、敵は見逃さなかった。襲撃してきたグリフォンは二体いて、先程フォーゼは一体倒した。もう一体は戦いに参加せず、フォーゼの隙を見計らっていたのだ。

 グリフォンは鋭いクチバシで、フォーゼの体を仲間の亡骸ごと貫こうとした。フォーゼが気がついた頃には、もう避けることは不可能だった。反射的に目をつむり、その場に丸まった。しかし、背中にクチバシが触れる感触がしたのに、クチバシは何処にも刺さる気配がない。恐る恐る目を開けると、今まで見たことのない魔物が攻撃を止めてくれていた。その魔物は全身毛むくじゃらで牙があり、どことなく兎に似ている。

「ギュルルル…ゲルルルル。」

魔物は口に加えたグリフォンのクチバシを、そのまま噛み切ってしまった。動揺したグリフォンが一瞬だけ動きを止めた時、魔物はその一瞬で体当たりをした。グリフォンは数メートル吹き飛び、地面に打ち付けられると同時に魔物に胴体を踏みつけられた。メキメキと、骨にヒビが入る音が周囲に響いた。相変わらず聴いていて不愉快な音だが、フォーゼは心なしか安心した。

「ムリ、駄目ダァテ…ルダ、言ッデタ。」

魔物はつたない人間の言葉を話し、フォーゼを見て安心したように笑った。

 兎型の魔物の背中に乗せられ、フォーゼはルーダとレペットの元へ戻った。ルーダの左目の負傷が少しばかり気がかりだったが、彼は既に全てのゴブリンを退治していた。レペットが相手にしていた魔物の最後の一匹も、レペットの攻撃により飛行が不可能になった事を確認した。

「フォーゼ、いつの間に外に出てきて…ここ、凄く危ないんだよ!?」

「ギュルルル…グウゥ〜。」

「…そっか、ありがとう。ボク達のために動いてくれたんだね。怖い思いさせてごめん。」

ルーダはそう言いつつ、フォーゼを抱きしめる手が少し震えていた。フォーゼは、ルーダは自分を化け物だと怖がったのかと思い、咄嗟にルーダから離れようとした。しかし、それはどうやら違うようだ。ルーダはフォーゼを強く強く抱きしめ、こう呟いた。

「大きな怪我がなくて、良かった…良かった…」

ルーダの顔を見つめ直すと、頬に水が伝っている。拭いてあげようと翼で頬を触ると、水なのに温かい感覚がした。不思議に思いきょとん、としていると、ルーダはこう答えた。

「あぁ、これ?これは『ナミダ』っていうんだよ。ところで、その子は…」

ルーダはフォーゼを背負ってくれた、兎型の魔物の方を見た。ルーダが歩み寄ると、魔物は一生懸命かがんで目線を合わせた。

「タダイ…マ、ルゥダ。」

「うん、お帰り、ポコロ。」

ルーダが両手でお椀の形を作ると、魔物はみるみる縮んでいき、やがていつものサイズのポコロに戻った。ポコロは嬉しそうにピョンピョンと飛び跳ねながら、ポケットの中に頭から入った。

「それにしても、ポコロが言葉を話せるなんて…成長っていうのは、早いものだね。」

それを聞くと、まるでルーダがポコロの親のようだ。レペットとフォーゼは互いに顔を見合わせ、クスクスと笑った。


 数分経ってようやく笑いが収まり、ルーダはリシュアとリエーテの様子を確認しに行こうとした。すると、左方向から誰かが途轍もない速度でこちらに走ってきた。ルーダはレペットとフォーゼ諸共その人に突き飛ばされ、高い草が生い茂る草原で尻餅をついた。

「うわっ、いったぁ…何ですかいきなり。」

「(理由は後で話す、今は隠れろ!)」

突然そう言われたので混乱したが、ルーダは指示に従い、暫く身を潜めることにした。草花から少し頭を出して様子を見てみると、近くで数人の大人が何か話している。装いからして王国騎士団の人々で間違いないだろう。

「…魔物の亡骸が大量にあるぞ。そしてこれは…人間の血痕だ。誰かが魔物を討伐したのだろうが、一体何処に消えたんだ?」

「今は気にすんな、ベルク。周囲に敵影がいないか、よく確認しろよ。」

どうやら北東から来る魔物がこれ以上居ないかどうかを確認しにきたようだ。あのまま人目の付く場所に留まっていれば、魔物であるポコロ達の存在に気づかれていたかもしれない。そう考えると、先程の人の言う通り隠れて正解だったと言える。

「あの人は…ボク達を助けてくれた?」

「ジジジー?」

レペットの鳴き声は思いの外大きく、ルーダは慌ててレペットの口を塞いだ。

「(シィーッ!大きい音出さない!)」

「(キィィ…)」

二人がこの場を離れるまで様子見をしていると、奥の方からもう一人こちらに向かってきた。見た所四十代半ばの中年男性のようだ。更に、ルーダ達を突き飛ばした人と顔が同じのようだ。

「あぁ、アフィーノ将軍。ここらへんにもう魔物はいませんぜ。」

「(ッ!今、アフィーノって…)」

「そうか、では北西の魔物の討伐に加勢しよう。行くぞ、ベルク、カスパー。」

「イエッサー!」

 人の足音が聞こえなくなってから数分ほど経った頃、草をかき分けて先程の中年男性が顔を出した。ベルクとやらが、目の前の彼のことを[アフィーノ将軍]と呼んでいた事が、ルーダの頭の中を巡って離れない。

「いや…急にあんな事を言って済まなかった。その、何だ…近くに敵がいたら、危ないだろう?でも、年頃の子供の声のかけ方が良く分からなかったんだよ。」

「あ、いえ…お気になさらず。あの、差し出がましいとは思いますが…お子さんはいらっしゃらないのですか?」

二人は互いにおたおたと視線を泳がせながら話を続けていたが、子供に関する質問をすると、将軍は真剣な眼差しをしていた。

「実はいたんだ、十数年前に亡くなっているがね。生きていれば、君と同い年だよ。ルー…いや、何でも。じゃあな。」

男性は何かを言いそうになったが、それを飲み込んだように見えた。彼の子供はルーダと同い年で、更に彼はルーダの名前を恐らく知っている。

「間違い無い…あの人が、ボクの父さんだ。」

将軍の後ろ姿を見送りながら、ルーダは確信した。

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