第1章 10話 二度目の人生の終わり…

梓は、川野先生が退院しても、見舞いに来ている振りをして…

元に会いに行った…



元は梓の事を、ただの奥さんの友達くらいにしか思っていない。

でも、元は感じのいい人で…前世の通り優しい人だった。

ただ、その優しさは私への愛情ではない…

それは分かっている。



奥さんは、私に色々と話してくれた。

元は膵臓がんで…1か月持つかも分からないと…

本人にも告知はされている。

元は、まだ39歳だと…



これまで結婚もせずに元と会えることだけを考えて生きてきた。

それなのに…せっかく出会えた元との出会いがこんな出会いだったなんて…

しかも、今の元にとっては梓は親しい仲でもない…

元は、梓に気付いてもない…



梓は、諦めるしかなかった…



それから、2週間して…

奥さんから、元が亡くなったと聞いた。



そうか…

梓は、何のために生まれ変わったのか…

分からなくなった…

人生は一度きりって言うけど…

やっぱり、そうなんだよね…



いっそ、死んでしまいたいとも思った…



でも、私は命を粗末にしたくないから…

最後まで生きるしかないと思った。

元の分まで私は、生きるからね…



それから、川野先生が亡くなった…

川野先生は、若い頃に両親を亡くしていて…

身寄りが無かった…

私にとって…川野先生は母も同然だ。

というか、前世のお母さんだった人だもん…

ずっと、私の人生には川野先生がいた…



梓は、川野先生も見送って…

遺骨を家に持って帰った。



まだ、父の遺骨も家にある。

梓は、父の遺骨と川野先生の遺骨を

それぞれ、樹木葬に入れて貰った。

梓にも、身寄りがないから…

お墓を作っても見る人がいない…



それからの梓にとって…

楽しみは、前世の長男と二男に会うことだけだった。

理由をつけては会いに行った…



そして…前世の兄の近藤さんが亡くなった…



梓も、60歳を過ぎた…

みんな居なくなっちゃったな…

身寄りもないし…

私の人生は、ひとりぼっちで死ぬんだね…





それから、更に月日が流れ…

梓は、胃がんになって入院した。



時々、前世の長男が会いに来てくれた。

真は、結婚してお父さんになっていた。



「梓ねえちゃん、大丈夫?辛くない?」



「大丈夫よ…私ももう長くない…誰でも通る道だからね」



「何言ってるんだよ。もっと生きてよ…」



「もし、私が死んだら無縁仏にしていいからね」



「何言ってるの?俺が何とかするから…」



「いいんだよ…私にかまわず…家族のことだけ考えなさい」



そして、葵と一緒に前世の二男の翔も来てくれた。

翔も、すっかり大人になっていた。



「梓おばちゃん、頑張って…また一緒に遊びにいこうよ」



そう言ってくれた。



葵が…



「梓…ずっと聞けなったんだけど…あの時に言ってた好きな人とは、会えたの?」



「会えたけど…あの人は結婚していた…。私ってバカだね…」



「そうか…来世では会えるといいね…」



「うん…。ありがとう」





それから、少しして…

梓の、亡くなる瞬間が訪れた…



真が来てくれて…手を握ってくれた…



―――真ありがとう。



元とは、愛し合えなかったけど…

色々な人に支えられた…

私の二回目の人生は、楽しかったよ。



そして…

叶うかも分からないけど…



―――もし…もう一度生まれ変われるなら、元と愛し合えますように…



と、梓は願って亡くなった…

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