32、更新される約束5

 そして、僕たちは無事高橋家にいた。別にやましいことは何もいけど、いざドアを開けようとすると少し身構みがまえてしまう。やはり、きちんと仲直なかなおりするためとはいえ喧嘩けんかをすると言って出ていったのがわるかったのだろうか?

 ……うん、かっている。言葉ことばにしてみたら意味いみが分からない。

「……まあ、結局は覚悟かくごめるしかないよな」

晴斗はるくん?」

「いや、何でもないさ。大丈夫だいじょうぶだ」

 そう言って、僕は高橋家の玄関ドアをける。その瞬間しゅんかん……

 パンポンパァンッ‼

 紙吹雪かみふぶきと共に、クラッカーの音が盛大せいだいに鳴り響いた。呆然ぼうぜんとする僕たち、其処には全員がそろっていた。昴さんや舞だけではない。吉蔵さんや愛美ちゃん、京一郎さんや春日部さんに遠山さん、おやっさんや、道徳くんまで居た。

 と、言うか。流石に警察官けいさつかんとヤクザのおやぶんがおな場所ばしょに居るのは、かなりの大問題なのではとおもわなくもないけど。まあ、本人たちが良いなら別に良いかなと無理やり納得なっとくしておくことにする。

 春日部さんと遠山さんが、すこし居心地悪そうな顔をしているけど。京一郎さんとおやっさんが問題もんだいさそうなのでいだろう。

 ちなみに、京一郎さんとおやっさんは昔はライバル関係かんけいだったらしい。今は裏と表で情報を交換し合う悪友あくゆう同士どうしなのだとか。悪友あくゆうというか、どちらかと言えば戦友せんゆうちかい関係だと聞いたことがある。

 まあ、2人は2人でいろいろと事情じじょうがあるのだろう。春日部さんと遠山さんの2人はどうか納得なっとくしてしいところだ。

 それよりも、いまはどうして高橋家がこんな大所帯おおじょたいになっているのかだ。

「……えっと、昴さん?」

「おかえりなさい、晴斗くん。その様子ようすでは、どうやら無事ぶじに仲直りを済ませてきたみたいですね」

「ええ、はい。じゃなくて、ええと。どうして家がこんなに大所帯おおじょたいになっているんでしょうか?」

「ああ、そのけんですか。その気はしていましたけど、やはり仁くんと花さんからは何も聞いてきていないようですね」

 その言葉ことばで、僕はおもわずさっと仁兄さんと花姉さんの方を見た。2人は悪戯が成功したような意地いじわるい笑顔で僕たちを見ていた。

 どうやら、僕と栞は2人にめられたらしい。不思議ふしぎくやしい気持ちにこそならなかったけど、それでもしてやられた気分にはなった。

 どうやら、さっきの2人のみはこのことだったらしい。

「ええっと、仁兄さん?花姉さん?」

「はは、悪戯いたずら大成功だいせいこうってね」

「ごめんね、晴斗はるくん。栞ちゃんも。2人をだますつもりは、私にはさらさら無かったんだけどね」

「何をっているんだよ。お前もかなりノリノリだったじゃねえか」

「何よ」

「何だよ」

「「イエイ‼」」

 二人してにらみ合っていたかと思えば、次の瞬間しゅんかんには満面のみでハイタッチをしている。その姿は、どちらかと言えば戦友せんゆう同士どうしといった風情ふぜいだった。その姿はまさしく、うん。

 やっぱり、2人ともなかいだろ?そう、実感とともに思ってしまう。恐らくは栞もそう感じているだろう。

 事実、栞は最初こそ呆然ぼうぜんとしていたものの、やがてくすりと笑いころころと歌うように笑い始めたからだ。

 そのたのしそうに笑う姿に、皆が一瞬いっしゅんぎょっと栞の方を見た。しかし、やがてその楽しそうな姿がみんなへと伝播でんぱしたのか、全員が楽しそうに笑い始めた。

 うん、なんかこう。みんなが楽しそうに笑っているのって、なんか……

いな」

 その声が、栞にも聞こえていたのだろう。不思議ふしぎそうな表情で栞が僕のことを見詰めてくる。

「えっと、晴斗はるくん?」

「ああ、すまない。みんながたのしそうでなんだか良いなって思えてさ。こうしてみんながひとつの場所にあつまってさ、楽しそうに笑い合う。本当に、ああ。良いな」

「うん、そうだね。それもこれも、全て晴斗はるくんのおかげだよ!」

「僕の?」

 一体、どういうことだ?そう思うけど、栞には瞭然りょうぜんの話なのだろう。あるいは全員にとって瞭然りょうぜんの話なのだろう。全員がその言葉ことばにうんうんと頷いていた。

 本当に、どういうことだ?

 どうやら、僕だけがかっていないらしい。もやもやとする話だけど。

 それでも、全員が分かっているのだろう。一目いちもく瞭然りょうぜんだとでも言わんばかりにうんうんと頷いているのが理解出来た。うん、せん。

 その疑問ぎもんに答えるように、栞がほおを少しだけあかく染めて言った。

晴斗はるくんにはね、みんなを笑顔にする才能さいのうがあるんだよ、きっと。だから、みんながこうして晴斗はるくんを中心ちゅうしんにして笑顔で一緒に居られるんだと思う。だからこうしてみんなが笑えるのは、全て晴斗はるくんのおかげ」

「そう、かな?」

「そうだよ、絶対にそう」

 そう言って、栞は僕に満面のみを見せた。

 その笑みは、僕が今まで見てきたどの笑顔よりも綺麗きれいで。花がくように美しかったと思う。綺麗きれいに輝いて見えた。本当に、どんな宝石ほうせきよりも。或いは夜空に輝くほしよりも綺麗に美しく輝いているように見えた。

 その笑顔を見ながら、僕は一つだけ納得なっとくした。

「そう、か。でも、きっと僕がそうなれたのは多分栞が居たからだと思う」

「私が?」

「ああ、あの日栞がてくれたからこそ。あの日、栞が僕をすくってくれたからこそ僕はこうなれたんだよ。きっとね」

「……………………」

「だから、ありがとう」

 その本心ほんしんからの言葉に、しばらく栞は呆然ぼうぜんと聞いていた。

 けど、それでもやがてその目はうるみはじめ。そして、

「っ、晴斗はるくん‼」

「うおっ、栞⁉」

 勢い、僕にき着いてくる。その勢いに、僕は思わず後方こうほうによろける。それでも無様に倒れる事が無かったのは、まあきたえていたからだろう。

 全員ぜんいんが、その姿に思わず目をまるくして見ている。舞や愛美ちゃんなんか、目をくわっと見開いてこわい表情をしていた。いや、本当にこわいなおい。

 仁兄さんや花姉さんは、にまにまとみを浮かべて僕たちを見ていた。

 まあ、それはともかく。今は栞か。栞は感極かんきわまったように目に涙を浮かべ、僕に感謝と愛の言葉を口にする。

晴斗はるくん、大好きだよ!愛してる!」

「うん、僕もだよ。栞のことが大好きだ。愛してる」

「うん、大好き!」

 そう言って、栞は勢いのままに僕に顔をせて。キスをしてきた。

 僕の口に。

 思わず、僕は目を大きく見開みひらいてしまった。思考しこうしろくクリアになる。状況が一瞬だけ理解出来なかった。けど、やがてそれが理解出来るようになると。

「っ⁉っっ‼」

 ぼんっと、顔が真っ赤にあつくなっていった。混乱こんらん困惑こんわくが、脳内を一瞬で拡散していく感覚が。いや、じゃなくてっ‼

 混乱こんらんしている僕を、栞はころころとわらいながらたのしそうに見ている。此処には以前のようなうれいやかなしみは存在しない。

 その心底から楽しそうな笑顔に、僕も思わず苦笑をこぼしてしまう。

 まあ、別に栞が楽しそうならそれで良いか。そう、思った。

 その後、僕たちは全員からはやしたてられたり。嫉妬しっとに狂った舞と愛美ちゃんが大泣きしだしたり。いろいろとあった。

 いろいろとあったけど。結局、最後は全員で仲良なかよく食卓をかこんで夕食を共にすることになったのだった。

 みんなでかこむ夕食は、なんだかいつもよりも楽しく美味おいしい気がした。いや、それよりもやはりそこに栞が居る。それだけでいつもよりずっと、かなり楽しく美味おいしい気がしたのは間違まちがいないだろう。

 やっぱり、栞と仲直り出来て本当に良かった。そう、心から思える。

 それが何より、ずっとうれしい。

 僕の視線に気付いたのか。栞は僕の方を見て笑う。

「何、晴斗はるくん?」

「いや、何でもない。こうして皆でかこむ食卓って美味おいしいな」

「……………………」

「そこに、栞が居てくれる。それが何よりも、うれしい」

 しばらく呆然ぼうぜんと見ていた栞だったけど。それでもやがて、満面まんめんの笑みをかせて僕にかえした。

「うん!」

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