27、あの日の約束5

 そして、次の日。僕はある場所ばしょ電話でんわをした。電話をした相手はかなり僕のことを心配していたようだけど、たのみたいことがあると言ったら快く会う約束を取り付けてくれた。

 そして、何とかその相手の居る場所まであるいていく。そこは、桜木組の本部事務所だった。つまり、僕の会いたい人物とは桜木組会長。桜木さくらぎかいだ。

 桜木組の本部ほんぶビル、その受付うけつけの人に頭を下げる。受付の人は勝手知ったる様子で他の人物に受付をまかせると、僕を応接室おうせつしつに案内した。

 ドアをノックする音がひびく。奥からドスのいた声が響いてきた。桜木組長、おやっさんの声に間違まちがいない。彼は、このこうに居る。

会長かいちょう晴斗はるくんが来ました」

「おう、はいれ」

 そして、僕はそのまま受付の人にうながされるままドアをけ中に入る。

 ドアの向こうには、筋肉質で大柄な男性がするどい目つきですわっていた。並大抵の人では恐らく秒もえられないだろうこの視線しせん圧力あつりょく。だけど、僕はすぐに察した。おやっさんはかなり僕を心配しんぱいそうに見ていると。

 なんだかんだ言って、やさしい人なのである。見た目でそんをするタイプだ。

「失礼します。おひさしぶりです、桜木会長」

かたい言葉はこの際抜きにしようや、俺とお前のなかだ。それより、大丈夫か?お前を除いて一家全員皆殺しなんざ不届ふとどきな野郎だ」

「はい、その一件は本当にかなしかったです。ですが、わけあって何とか気持ちを持ち直すことが出来ました」

「ほう?そのわけってなあいても良い話か?」

「ええ、これからする話に関係かんけいがある内容なので。是非ぜひともお願いします」

 そう言って、僕はこの前までの話をつつみ隠さず素直すなおに話した。やはり、分かってはいても自分の色恋いろこいばなしをするのはかなり勇気ゆうきがいるよな。

 そうは思いながら、僕は素直すなおに話を続ける。そして、話をえた直後。おやっさんはあからさまに涙を浮かべ、男泣おとこなきを始めた。

 いやまあ、分かってはいたものの、かなり涙もろく人情にんじょうふかい人だな?だからこそ部下から強くしたわれているんだけど。流石にこれはちょっとばかり引く。

 けどまあ、それでもいつも通りで安心あんしんした。

「そうか、ずいぶんとまあ良い出会であいをしたものだな。それより、晴斗はるが気を持ち直して本当ほんとうに良かった。ああ、本当に良かった」

「はい、それでその一件でおやっさんにたのみたいことがありまして」

「ああ、あらかた予想よそうは付いている。えよ」

「はい、僕をきたえてください。僕に、身の回りのすべてをまもれるくらいに強くして欲しいんです」

「おう、それは是非ぜひもない。だが、今はとりあえず体をなおしてからだ。全てはまずそこからだな。今日はもう、病院びょういんかえれ」

「はい」

 そう言って、僕はその日は病院に帰ることにした。実を言うと、かなり無理むりをしてこの場所まで来たのである。

 うん、今日はきっとおこられるな。そう、僕は覚悟かくごを決めた。のだが……

 まあ、実際はかなり心配しんぱいされたけれど。それでも、僕のことを本気で心配してくれていると知ってすこしだけうれしかったのは事実だった。

 ・・・ ・・・ ・・・

 その日の昼頃、児童じどう公園こうえんに行ったものの何故か栞はあらわれなかった。心配こそしたものの、仕方しかたなく病院にかえることにした。何か、あったのだろうか?

 夕方、僕は病院食をべていた。すると、ドアをノックする音とともに病室に娘を引きつれた昴先生がはいってきた。

 まあ、事前に僕がんだんだけどね。娘も一緒いっしょなのは、その方がいろいろと都合が良いからだ。話の内容的に、一緒にいていた方が良いだろう。

「えっと、僕に用事ようじですかね?」

「はい、この前の返事へんじをさせてもらおうと思いまして」

 その言葉に、昴先生は居住まいをただした。少し、緊張きんちょうしている様子だ。まあ、無理もない話だろう。きっと、昴先生からすればかなり勇気を振り絞って僕に振った話題だろうし。

 僕だって、返事へんじを返すのはかなり勇気がいるだろう。けど、これはどうしても必要な話だから。けてはとおれない話だから。

 そう、僕は自分自身に言って聞かせて呼吸こきゅうを整える。

「確か、この前昴先生は僕に義理ぎり息子むすこになって欲しいと言いましたよね?」

「はい、晴斗はるとくんに僕の義息子ぎむすこになってもらう。そうでなくても、僕自身が晴斗くんの後見人になる。それが、何よりきみのためになると僕自身思いました」

「そうですか。それで、その一件に対する僕の返事ですが……」

「はい」

「その話、けさせて貰おうと思います。いえ、受けさせてください」

 僕の返事に、昴先生ははっと目を大きく見開みひらいた。そして、話の内容ないようが呑み込めてきたのか口元にみが浮かんできた。

 かなりうれしいらしい。笑顔がかくせていない。

「で、では……」

「ですが、一つだけ条件じょうけんがあります」

「えっと、それは?」

「僕が、昴先生の義理ぎり息子むすこになる。それはかまいません。ですが、僕の苗字は今までと変わらず織神おりがみ名乗なのらせてもらいます。それだけは、僕自身譲ることの出来ない一線いっせんだと思っています」

「それは、」

 何かを言おうとする昴先生。それを、僕は片手でせいした。

 言いたいことはかっている。気持ちも理解は出来る。けど……

 昴先生には悪いけど、まだ僕の話はわっていない。もう少しだけ、続く。

「昴先生をしんじていないわけではありません。これは、あくまでも僕自身の亡くなった家族に対する義理立ぎりだてでしかないです。要するに、わすれたくないんです。なのでこの一件に関して、昴先生が罪悪感ざいあくかんを感じる必要は全くありません」

「そう、ですか?もし何か僕にいたらないことがあれば、」

「いえ、ですから僕が昴先生に文句もんくを言うことは絶対ぜったいにありません。むしろ、僕は昴先生から多大なおんが出来たと思って、非常に感謝かんしゃしているくらいですし」

「そう、ですか。いえ、そうですね。ありがとうございます」

 そう言って、僕と昴先生は同時にわらった。

 そんな昴先生の服のすそを、娘であるまいが引っ張った。

「ねえ、お父さん?これってなんの話?」

「ああ、晴斗くんを僕たちの家にむかえ入れようって話ですよ」

「え⁉それって、お兄ちゃんが私たちの家族かぞくになるっていうこと?」

「はい、端的たんてきに言えばそうなりますね。いえ、そのとおりです」

「やった!これで、晴斗お兄ちゃんと一緒にずっとあそぶことが出来る!」

 無邪気むじゃきに喜ぶ舞。そのあまりにも純粋じゅんすいで無邪気な姿に、僕と昴先生は同時に苦笑をらしたのだった。いや、本当に純粋で無邪気なことだ。

 そうして、僕はその日以来より頑張ってリハビリにはげむようになった。

 けど、話は良いことばかりではなかった。以来、どうしてか児童公園に栞が現れなくなった。僕と栞は、おわかれの言葉すら無いまま。どころか何も言葉ことばを交わさないまま別れる事になった。

 栞とのわかれは当然悲しかった。寂しかった。けど、それでも僕は当初の目的通り必死に頑張り続けた。

 体もかなりきたえ上げたし、勉強べんきょうも必死に頑張った。そして、亡くなった兄を真似るようにして交友関係も必死に構築こくちくした。

 理由りゆう不純ふじゅんかもしれないけど。それでも、僕は必死になって友達を作ったし友達を大切にした。みんなも、そんな僕の気持きもちを分かってくれた。

 今度こそ、自分のまわりの全てをまもれるようになるために。もう二度と、誰かの理不尽によってうばわれないために。僕は、必死に頑張った。

 高校生になるときには、もう地域では知らない人が居ない程に人気者にんきものになっていたと思う。おやっさん以外にけたことがないほどに、強くもなれた。

 そして、高校2年生のなつ。結局、栞のことをわすれる事だけはついに無かった。それでもそこそこたのしく学校生活を送っていた。そんな日のことだった。

 なんの因果いんがか、同じクラスに転入てんにゅうしてきた栞と再会さいかいした。

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