21、喧嘩という名の対話4

 そうして、僕と栞の二人きりの喧嘩けんかはじまった。

 まず、栞は徒手としゅ空拳くうけんで突っ込んでくる。以前いぜんのように真っ先に刀を出してくることはしないらしい。今回はまず様子見ようすみということだろうか?

 からないけど、それでも僕はまずそのこぶしを軽くいなしていく。

 栞は一見して華奢きゃしゃな女の子だけど、それでも武術ぶじゅつ心得こころえがあるのだろう。かなり鋭い拳をり出してくる。手刀や足刀ですら、かなりの高威力だった。

 僕は、その手刀足刀を軽くいなして。或いはかわしていく。いなし、かわして、受け流していく。恐らく、かなりの修練しゅうれんんだのだろう。栞の練度れんどはかなりのもので達人と呼んでも遜色そんしょくないレベルだった。

 いや、少しだけみょうだな?そう、わずかな疑問ぎもんいだく。

 華奢きゃしゃな女の子にしては。いや、一般的な高校生男子とくらべても。彼女は明らかに異常な威力いりょくを叩き出していた。手刀や足刀だけで、コンクリートブロックすらもくだきそうな威力を有しているだろう。

 それだけの高威力をして、まだ余裕よゆうを残しているようだった。

 どうかんがえても、並の女の子の力ではない。それに、これだけ異常な力であばれているにも関わらず、離れた場所から監視かんししているはずの京一郎さんが反応をしめさないのもおかしいだろう。

 ちらりと、京一郎さんの方を見る。京一郎さんたちは、平然へいぜんと僕たちを見たまま未だにだまっている。明らかに、へんだ。

 つまり、これもマナ粒子の力ということになるだろう。マナ粒子の力によって再現された、魔術まじゅつ魔法まほうのなせるわざというわけか。

 言ってみれば、単純な筋力きんりょくの向上という感じだろうか?そして、あらゆる違和感から警察官3人をだましている謎の能力か。もう少し、観察かんさつする必要がありそうだとそう認識した。

 まあ、それはともかく栞との喧嘩けんか一筋縄ひとすじなわではいかないらしい。まあ、それ自体はかっていたけどな。

 ともかく。僕はこのまま栞の攻撃をいなして、けて、まっすぐ彼女の想いと向かい合うべく正面から立ち回る。

 栞も、この程度は理解りかいしているのだろう。だから、さっさと次のに移ることに決めたらしい。腰にいたウエストポーチ。恐らくは、彼女自身のアイテムボックスなのだろうそれに手をかざして。

て、鏡華きょうか

鏡華きょうか?っ⁉」

 気づけば、栞のその手には一振りの日本刀がにぎられていた。そうだ、高校の屋上で僕を切ったあの日本刀だ。

 恐らく、鏡華というのはその日本刀のめいなのだろう。鋭い、美しい刃紋はもんの打刀がそこにあった。人を一人切ったというのに、どうかんがえても新品同然の輝きを有したよく手入ていれの行きわたった美しい日本刀だ。恐らく、これが彼女の持つアーティファクトなのだろうと今更いまさらながら納得なっとくしてしまった。

 アーティファクト。つまり、魔術まじゅつ工芸品こうげいひんだ。恐らく、あの日本刀にもマナ粒子が使われているのだろう。なら、ただの打刀うちがたなではあるまい。

 それをかまえた栞の姿に、思わず見惚みほれてしまったのはまあ、仕方がない。

 ともかく、意識いしきを立て直して正気しょうきに戻った僕は、拳をかまえなおす。

 栞が日本刀までり出してきた。だというのに、警察たちはなにも反応を示さないでいる。つまり、もう警察はあてにならないだろう。そもそも、あてにするつもりなんて最初から無かったけど。

それでも、今改めてそれを自覚じかくしたのは大きいだろう。

 これで、彼女と二人きりで対話たいわ集中しゅうちゅうできるというのも、改めて認識出来ただけでもかなり大きいだろうと思う。

 吉蔵さんのっていたことを思い出す。警察組織の手にえないとは、つまりそういうことだったんだろう。これは、確かに手にえない。いや、現代科学にしばられた現代人からすれば、これは流石に驚天きょうてん動地どうちだろう。

 ちらりと、改めて視線を警察官たちにけた。警察官3人は、未だに無反応であの京一郎さんですらじっとこちらを見たまま微動びどうだにしない。無反応のまま、至極真面目に僕たちを監視かんししている。他にも、公園のまえを通りがかる一般人ですら僕たちに意識いしきを向ける事は一切無い。

 これは、つまり。

 僕は、栞がやっていることに当たりを付けてこたえ合わせをする。

「つまり、これは周囲の認識にんしきあやつっているな?」

「流石に分かった?これが、私の固有こゆう魔法まほうだよ。認識にんしき操作そうさって言うんだ」

「固有魔法、ね」

 つまり、栞はそうやって周囲の認識にんしき操作そうさすることによって自分に都合の良い空間を展開てんかいしているのだろう。

 今現在、周囲の人たちは僕たちになんの違和感いわかんも持っていない。

 それは、文字通りの意味いみで僕たちに違和感いわかんいだけないのだろう。栞によって認識を支配された人たちは栞ののままになるのだろう。

 例えば、休校中の高校校舎に二人の生徒が侵入しんにゅうしても一切気付けない。或いは休校中の高校校舎から警備員けいびいん教員きょういんを一時的に立ち退かせるとか。

 そして、日本刀を所持しょじしているのに周囲の人から無手むてであると誤認ごにんさせ。更には自分の存在を周囲の人たちの認識から意図的にはずしたりなんかも出来るだろう。

 恐らく、栞が僕たちの後を、誰にも気付きづかれずに付いてこれたのはそのためなんだろうと思っている。

 なるほど、これは強力な力だ。固有魔法、ということはつまりこれは栞自身の最も得意な魔法なのだろう。或いは、僕も栞のように固有魔法とか特有の能力のうりょくを所持しているのだろうか?

 分からないけど、今はいだろう。今は、栞に集中しゅうちゅうすべきだ。

 こうしている間にも、栞の太刀筋をけ、受け流し、さばいている。もちろん僕自身は無手だった。

 栞もかなりの達人たつじんらしい。少なくとも、剣術道場の講師こうしたちよりはかなり強いだろうと思っている。そんな栞の太刀筋たちすじ無手むてで流せているのは、単に僕が無手で剣を相手にするのにれているからだ。

 要は、剣術道場でのあの一件がきていた。やってみるものだな、うん。

 まあ、それはともかくだ。僕は、栞の太刀筋をよく見極みきわめる。どうして、相手の認識を操作できる栞に僕がち向かえているのか?

 それは、ただ単純に栞が手加減てかげんをしているからにほかならないだろう。そう、栞は未だに僕に対して手加減てかげんをしている。それは、つまり栞が僕を相手に罪をつぐなうことを大前提にしている事の証明だろう。

 僕なら、この程度はさばけると。逆に言えば、このレベルなら僕は対処たいしょできると信頼している証なのだろうけど。それでも、僕は不満ふまんだった。

 僕は、栞が全力を出すのにりないということなのだろうか?所詮、僕はその程度の器でしかないというのだろうか?

 そう思い、僕は栞の手から鏡華というめいの日本刀を手のこうで受け流し、そのままはじき返した。

「あっ」

 栞はそのまま慌てて鏡華を取ろうと刀にけ寄る。しかし、そんな栞に僕はいら立ち混じりに話しかけた。

「なあ、栞。僕はそんなにふがいないのか?」

「え?」

いまだに、栞は僕に手加減てかげんをしているだろ?栞からすれば、僕はそんなに全力を見せるにりないのか?」

「………………」

 更に、僕はつづける。栞に、今まで僕が誰にも見せたことのないなまの感情を叩きつけるようにして。まっすぐとき合うように。

 僕は、彼女かのじょに言った。

「言っただろ?栞、。僕は、栞のおもいをまっすぐけ止めると。だから、栞も僕に遠慮することなんて無いんだ。てくれよ」

「良いの?私が、本気ほんきで向かっても。晴斗はるくんはもう大丈夫なの?」

「ああ、まっすぐとけ止めてやる。そのおもいを、しっかりけきってやるから栞も変に遠慮えんりょするんじゃない」

「っ、うん!」

 一瞬、栞がとても清々すがすがしい。満面のみを見せた。その瞬間だった。

 恐らく、僕に一切の手加減を放棄ほうきしたのだろう。その瞬間しゅんかん、栞は僕の視界から一瞬でえ去った。

 そして、次の瞬間……

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