第9話

 徳永製菓の賢治さんが、お菓子の製造販売以外に、新しい商売を始めたのである。

 雄一は休日に店を訪れてみた。

 新商売とは、バナナとパイナップルの苗木を鉢植えにして、本土に売り込もうと云うものだった。奄美に来た観光客にPRして、注文をとって商品を発送するというものであった。

 市の観光課にも話を付けて、パンフレットも出来上がっていた。上手く育てることが出来れば、もなるそうだ。

 雄一は、半信半疑だったが、それぞれ一鉢ずつ買ったのである。そして

「福岡に帰ったら、知り合いにも宣伝してあげますよ」と約束して、パンフレットを五十枚程受け取った。自分が買った分は宗像の自宅に送ってもらった。


 雄一の自宅は、福岡県の宗像市である。

 アスカに入社して、七年目の三十歳の時に建てた家だった。アスカは社員にをを持たせる事を応援していたのである。社員が自分の家を持って、家族を持ち、安心して働いて貰うことで、企業も発展する。と云う渕山ふちやま社長の理念のもとに実施されることになったのである。労働組合も大賛成であった。低金利で融資をしてくれたので、社員の持ち家比率は高くなってきたのだった。

 融資の際の保証人も、社員二人で良かったである。

 後日、妻の由美子から鉢植えのバナナとパイナップルが着いた旨の電話があった。

「しっかりと世話をして、ちゃんとをならせてくれよ!」と雄一は由美子に頼んだ。

「明美と二人でしっかりと管理するわ」由美子は笑いながら、楽しそうに応じたのだった。

 雄一の現在の生活は、自宅では明るくて、聡明な妻が居り、可愛い一人娘の明美がいる。家庭も極めて円満であった。

 一方、奄美には、好きなタイプの女性が居て、忙しい仲にも張り合いのある単身赴任生活を謳歌おうかしていたのだった。なんと幸せな男だろうと、現在の自分自身の環境に感謝していたのだった。


プラザアスカ大島店の売り上げは、計画通りに順調だった。ただ、流通業界の場合、新規開店の一年間は、あくまでも未知数であるが、二年目からは、前年比が評価に重くし掛かってくる。数値責任者にとっては厳しくなってくるのである。前年割れを出すと、めはきつくなってくるのだった。プラザアスカ大島店も今後が気になる所ではある。今が二年目の七月なので、後三ヶ月先の十月で、三年目に突入することになる。全社員が気を引き締めて。実績を向上させる努力をしていかなければ!と雄一は自分に激を飛ばしたのだった。


 奄美に転勤になった社員は、原則、二年で島の勤務をかれる取り決めがなされていた。四月の定期異動時迄には、大半の者が異動になる予定だった。

 各課の課長たちの異動も、既に始まっていた。フーズラインの肉、魚、野菜、グロサリー、デイリーの各担当課長は、既に全員交代していた。衣料品担当の課長も残っているのは三人中一人だけだった。後方部門も、レジ担当の女性課長が入れ替わったのである。

 雄一たち次長も、企画室担当の次長と食品担当次長は転勤してしまった。残りは、業務担当次長とソフト・ハード担当次長の雄一との二人だけになってしまったのである。ソフト・ハード担当とは、衣料品、日用品全般、そして、家具インテリア、ホビ-担当次長の呼称であった。これは、プラザアスカ大島店の独自のポジションであった。場合によっては、後任が決まり難いかも知れなかった。

 それならそれで、雄一としては構わなかった。むしろ、喜ばしいと思う気持ちもあった。しかし、一方では娘の明美の高校受験が控えていたのである。妻の由美子だけに任せっきりでは、無責任すぎると彼は考えていた。家族みんなで明美の進学を応援してやりたい気持ちも強かったのである。

 

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