第8話 恋の九尾ット
「あ、シャーロットさん。こっちこっち」
噴水広場で、タキシード姿のテオは大きく手を振る。
そこにいたのはシャーロットだ。普段の制服姿とは打って変わって、ブルーのワンピースを着ていた。肩と袖部分がレース生地になっていて、程よい透け感が実に大人っぽい。
シャーロットは顔を背け、頬を紅潮させ、指先でくるくると髪を弄りながらもじもじしていた。
「今日は、その……誘って下さってありがと……ですわ」
「気にしないでよ。それより休日なのに丸一日もらっちゃって大丈夫だった? 僕は全然放課後でも良かったんだけど――」
「ワ、ワタクシにも準備というものがあるのですわ! あんな急に言われても、その……心の準備が……」
後半よく聞き取れなくてテオは首を傾げる。
でもまぁ、確かにいきなりっていうのは急すぎるか、と勝手に納得した。
「コヨリちゃん達も来れば良かったのにね」
「…………忙しいのでしょうね。今頃はきっと食堂のおやつでも食べているに違いありませんわ」
「はは、確かに」
あの日のコヨリの態度については未だ良く分かっていない。どうしたのかと聞いても「デート頑張るのじゃぞ! 応援しているぞ!」としか言われなかったのだ。
(デートじゃないんだけどなぁ……)
これはあくまで学友の気分転換に付き合っているだけであり、デートではない。
パリッと格好を決めているのも、女の子と会う手前は最低限ちゃんとしようというテオなりの礼儀だ。
「それじゃあ行こっか。こっちだよ」
テオは半歩だけ先を歩き、シャーロットを先導していく。今日は週に一度の休日のため、大通りはいつも以上に人でごった返していた。
復興作業も殆どが終わり、王都にはいつもの活気が戻ってきている。
テオはふと思い出したかのように、シャーロットに顔を向けた。
「シャーロットさん。その服とっても似合っているね」
「なっ!? あっ、うっ、そ……そうです、か……?」
「うん、凄く可愛いと思うよ」
「あぅ……あ、ありがとうございます……ですわ……」
「うん? うん、どういたしまして?」
やっぱりよく聞こえなかったので、曖昧に頷いておく。
澄ました顔のテオと、顔を真っ赤にしたシャーロット。
二人はお目当てのお店へと歩いて行った。
その後ろを謎の3人組がつけているとも知らずに。
***
「うっ……あの服装を見たらまた吐き気が……ぐふっ……」
「大丈夫ですか、コヨリ様」
ルーナはコヨリの背中を優しく撫でる。
今コヨリ達は大通りを歩くテオより少し後ろ、離れた位置から監視していた。
「テオの奴、余裕の態度だな。結構女慣れしてるのか?」
「……ふぅ。奴は天然女たらしじゃぞ。その実力は並ではない」
そもそもがハーレムエンドを迎えるような奴だ。対女性能力はかなり高い。しかもそれを自然にやるのだから最早天性の才能だろう。女たらしの才能なんて不名誉極まりないが、ハーレム主人公ならばさもありなん。
「それより、シャーロットの態度がいつもより軟化してますね?」
「いかにもウブな娘っこって感じじゃな。テオみたいに下心ゼロで向かってくるのに慣れてないんじゃろ」
シャーロットはその生まれと容姿も相まって学院でも人気者だ。擦り寄ってくる者は多い。大体がその美貌かセレスディア家という生まれを狙ってくるようなのばかりだが、テオは違う。
彼は純粋にシャーロットのことを慮って今日デートに誘ったのだ。当人はデートだなんて一ミリも思ってないだろうが――
「あそこの雑貨屋は結構可愛いものが多いんだ。きっとシャーロットさんの気に入るものもあるだろうから、後で行ってみようか?」
「え、えぇ……お任せしますわ……」
絶妙な距離感で、片方はにこやかに女性をエスコートし、片方は恥ずかしそうに頬を染める。
「うむ。完全にデートじゃな」
「デートですね」
「デートだな」
どっからどう見てもデートしているカップルにしか見えなかった。
二人はお目当てのお店を見つけたのか、店内に入っていく。それは以前コヨリとルーナがテオと来たスイーツのお店だった。
それを見て、ルーナがふるふると肩を震わせる。
「コヨリ様をお誘いした店に他の女性と来るなんて…………殺します」
突然短刀を取り出したルーナを、慌ててコヨリが止める。
「まぁて、まてまてまて。我は気にしとらんから一旦落ち着くのじゃ。な? ほれどーどー」
「ふぅ……ふぅぅ……」
犬のように鼻息を荒くするルーナを宥めてコヨリ達も店内に入っていく。
テオとシャーロットはテラス席。コヨリ達はテラス席から少し離れた店内席だ。テラスと店内の間の窓は開け放たれているので、コヨリの聴力を持ってすればテオ達の会話も十分に聞き取れる。
既にテオとシャーロットはケーキを食べながら談笑していた。普通に良い雰囲気だ。今のところは。
「コヨリ様、これからどうします?」
「今はまだいい雰囲気じゃが、きっとそろそろシャーロットがボロを出してくるはずじゃ。行動するならそこじゃな」
「おぉ、ここの店にはカクテルがあるのか。なら無難に……いやしかし甘味と合わせるとなると選択肢が……ふむ……」
メニューを眺めて悩むミズキはガン無視しておく。
コヨリの宣言通り、しばらくするとシャーロットの態度が徐々に普段通りに戻って行くのが見て取れた。
「どう? ケーキ食べて、少しは気分転換になったかな?」
「ふん、こんなことをしなくてもワタクシは必ずあなたに勝ちますわ」
「ふふ、少しは元気になったみたいだね」
「い、いいですこと! 次こそはあなたを完膚なきまでに叩きのめして、あの生意気な狐っ娘にぎゃふんと言わせてみせますわよ!」
大分この状況に慣れてきたのか、もう完全にいつも通りだ。
しかしそれではいけない。もっともっとテオと親密になってもらわねばならないのだ。学院長をおびき出すためにも。
コヨリはテオ達にバレないようにこっそり魔力を練り上げる。その密度を更に更に高めていく。
普通、魔力による物理的干渉は不可能だ。魔法という形で放たなければ、基本的に物質に作用することはできない。
だが、より濃密に魔力を練り上げればそれ単体で干渉することが可能になる。
つまりどういうことかと言うと――
コヨリは濃度を上げた魔力をこっそりとテオのいるテーブルへと近付ける。そしてテオの隙をついて、テーブルの上に置いてあったフォークを魔力で
「あ、ごめん――」
「いえ、ワタクシが拾いま――」
丁度二人の真ん中に落ちたフォークを、両者とも拾おうと手を伸ばす。
「「あっ……」」
そして不意に、二人の手が触れ合った。
「ご、ごめん!」
「あ、いえ、こちらこそ……」
がばっと身を離し、照れたように笑う二人。
コヨリはほくそ笑んだ。
「ふっふっふ。どうじゃルーナ。我の手腕は」
「お見事です。戻りかけた雰囲気を一気に甘々へと引き戻しましたね、流石です」
そう。これこそが今日コヨリ達がやろうとしていた作戦。常に甘ったるい空気を維持させ、無理矢理にでも相手を意識させるという策略。
ずっと甘々大作戦、である。
テオとシャーロットは気恥ずかしそうにもじもじとしている。それがどうにもおかしくて「くふっ……ぶふふ……」と変な笑いが漏れてしまった。
「よし、この調子でゆくぞ。テオとあの娘っこを上手くくっつけるのじゃ。だがその前に――」
コヨリはテーブルに置かれたもう一枚のメニュー表をルーナと一緒に覗き込む。
「まずはケーキが先じゃな!」
「ですね!」
本当はテオのことなんかよりも、さっきからケーキが食べたくて仕方がなかったコヨリだった。
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