第3話 コヨリ、学生になる
「それでテオよ。不老長寿の法について、何か収穫はあったか?」
なんとか店主を「こやつは我の弟子じゃ」と窘めて、コヨリ達は部屋に戻ってきていた。
「うん。先輩達に聞いたら、もしかしたら学院長なら知ってるかもって」
「学院長? あぁ、あの研究バカのことじゃな」
「け、研究バカって……というかコヨリちゃん、学院長と知り合いなの?」
「知り合いではないが、まぁ有名じゃからな」
コヨリは顎に手を当てて考え込む。
(素人がどれだけ不老長寿に関する情報を集めようとしても、結局は真偽不明の偽情報にしか辿り着かん。それならもっと専門的な、知ってそうな奴を探して情報を集めた方が効率的。ふむ、良い手じゃな)
アラド学院の学院長は魔法研究の第一人者だ。もしかしたら不老長寿の方法に心当たりがあるかもしれない。少なくとも処女のエルフの生き血とかユニコーンの血とか人魚の肉なんかよりは余程信頼できる情報にありつけるだろう。
「流石はテオじゃな。今までで一番有用な情報じゃ」
「いや、僕はただ先輩に聞いただけだから」
ルーナとミズキは「ふぎぎ……」と悔しそうに歯噛みしていた。この場にハンカチがあれば引きちぎっていたことだろう。
悔しがる権利なんかお主らにはないぞ、とコヨリは思った。ユニコーンの血(ただの水)と人魚の肉(ベーコン)では勝負にならない。
「ただ問題が一つあって……」
口籠るテオに、コヨリが後に続く言葉を言い当てる。
「学院長がどこにいるか分からない、ということじゃな」
「そうなんだよね。学院長は多忙で殆ど学院には帰って来ないらしいんだ。今度の入学式なら流石に来るんじゃないかなって思ったんだけど、どうやら例年副学院長が挨拶してるらしいし」
確かにコヨリの持っている原作知識でも、テオの入学式に学院長はいなかった。唯一登場するのは学内で行われる武道大会だ。
しかし武道大会は年に一度、年末に行われる。今は時期じゃない。それまで待つと言うのは当然論外だ。
(ネメシスの動向が掴めない今こそ、不老長寿の法を探るいい機会なんじゃが……これは時間がかかりそうじゃな)
このゲーム『スペルギア』におけるラスボス――ネメシス=ブルーム。
彼は仲間であるミーナリアと共に姿をくらましてしまった。おそらくは昔の仲間の所に行ったのだろう。原作知識のあるコヨリはその場所に当たりをつけてはいるが、追いかけるのは無謀だ。
現状のコヨリ達の力では、まだネメシスには太刀打ちできない。今、彼を追った所で無駄死にするのがオチ。
向こうからアクションを仕掛けてこない限りは放置でいいだろう。だからこそ、この時間を有効に使う必要がある。
あまり時間をかけることはできない。
「ううむ……教師の中に学院長の所在を知っている者はおらぬのか? 副学院長とか」
知っている者がいればコヨリの
「それが誰も知らないらしいんだ。連絡がある時は向こうから一方的に連絡してくるだけみたいだし」
どうやら学院長は自分の居場所も教えずふらふらといなくなるダメ教師のようだ。
「……よくそれで学院長が務まるのう」
「あはは。それはほら、あの人は天才だから」
『才知鋭敏』。それが学院長タリス=クロウラーの二つ名だ。その天才的な発想力と目的達成まで絶対に諦めない執念と根性と行動力を持って、このマグミリオン王国の繁栄に寄与した偉人。魔道具技師でもある彼によってこの国の文明レベルは飛躍的に向上したとされている。
「ふぅむ……どうしたものか」
コヨリとテオはうんうんと頭を悩ませる。だが、これといって良いアイディアも浮かばない。
原作において学院長はそこまで重要なキャラではなかったので、使えそうな情報も特にない。
八方塞がり。やはり大人しく武道大会まで待って、今は独自で情報収集するしかないか、と考えた時――
「その学院長の方から来ていただければ、楽なんですけどね」
ルーナがそんな愚痴をこぼした。
コヨリの脳内で、閃きとアイディアがスパークした。
「そうか……! こちらから連絡を取る手段がないのなら、向こうから来てもらえばいいではないか!」
「コヨリちゃん……?」
なぜそんな簡単なことに気が付かなかったのか。机の前でうんうん唸っているだけでは良いアイディアなんて出ないと言うが、やはり他人の意見というのは脳を活性化させる。
コヨリはルーナの頭をわしわしと撫で回した。
「でかしたぞルーナ! 流石は我が一番の配下じゃな!」
「は、はぅぅ……そんな、コヨリ様……あ、もっと……」
「もっとか! この欲しがりめ! 許す!」
「あ、あ……コヨリ様……できれば、その……尻尾で、その……」
「尻尾もふもふをご所望か! 贅沢な奴じゃのう。許す!」
気をよくしたコヨリは尻尾でルーナの体を撫で回す。ルーナは「あ……」とか「うぅん……」とか艶めかしい声を上げて身をよじった。頬が蒸気して実に艶っぽい。
「コヨリ様とルーナの絡みを見て飲む酒も、実に乙だね」
ミズキはのんびりと酒を傾けていた。
反対にテオは、見てはいけないような気がして目を逸らす。
いつの間にか尻尾4本を顕現させ、ルーナの全身をこねくり回しているコヨリに、テオはわざとらしく「んん!」と咳払いを挟んだ。
「それでコヨリちゃん。どうするつもりなの?」
「ふっふっふ。なに簡単なことよ。学院長が学院に戻らざるを得ない状況を作ればいいだけの話じゃ」
コヨリは、にやぁと悪戯を思いついた子供みたいに口角を上げた。
「コ、コヨリちゃん……? あんまり騒動になりそうなことするのは、ちょっと不味いんじゃないかなぁって……」
「心配するな。そんな大それたことはせん。ちょこーっとだけ我という存在を学院に知らしめるだけじゃ」
「ねぇそれ絶対ちょっとじゃないよね!? なんか悪いこと考えてるでしょ!?」
「悪いことなんて、まさかそんな。これ程までに良いアイディアは他にない! 我はやはり天才じゃな! わーはっはっはっは!」
テオは頭を抱えた。コヨリはそんなもの露知らずと言った感じで、びしっと窓から見えるアラド学院を指差す。
「これから我らはアラド学院の真摯かつ清廉潔白な学徒となる! ルーナ、ミズキ、我に続けぇ!」
「仰せのままに」
「御意」
コヨリ達は窓から跳び出すと、そのまま屋根伝いにアラド学院へと向かった。
ぽつんと一人取り残されたテオはがっくりと膝から崩れ落ちる。
「終わった……僕の学生生活……」
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