51話 オオナの戦い方

【作戦名大祓おおはらえさざなみって、どう戦うんだ?】カエデが問う。


 その時着替えた雨野神楽が入ってきた。

巫女の衣装を着けている。

千早と呼ばれる白く薄い羽織には、銀の糸で、小さな龍が前後ろに数体刺繍されている。


 タケミ女王が悟った。

 一水や綾子、山神社やまがみやしろ山君さんくん神社の娘達も悟った。

「それでオオナの戦いね。」雨野咲那が言った。


【しかし、伊邪那美様がどうするかはわからない。】

女王が危惧する。

【まともに力で戦っても勝てません。私たちが消え去った後、伊邪那美様は、如何されるのか。】

 此花このはが女王のテレパシーに応えながら濃い紫の袴に、白い小袖、金の龍の刺繍が入った白い千早の巫女衣装。

 うるし塗りの手文庫神事の道具を入れる箱を二つ持って帰ってきた。

 

 表裏が金と赤の扇。小さな剣のつばに鈴が8個付いた剣鈴1本。鈴鏡1枚。それぞれの木で作ったあふれんばかりの紅梅を模した真っ赤な花簪はなかんざしと薄桃色の桜花さくらばなを模した花簪はなかんざし


「舞」で清めることができるのですか?」雨野咲那。

「舞は神への感謝と神への平和な世界の祈りをささげるコトとしてあるもの。」此花このはが言葉で答える。

「確証はない?」咲那が聞く

「ないわ。伊邪那美様がどう思うかはわからない。」

「でも、対話は霞ケ浦で終わっています。」とモリヒコ。

「今、私達ができることは戦いではなく伊邪那岐様への祈り。」と此花このは


 【雨野神楽さん、貴方は断ることができるし、誰も責めたりはしないわ。】タケミ女王が言う。

「でも、もし私が断ったら……。」

【大丈夫。いつどんな時でも、その時最良の手段はあるものよ。】女王がいう。

「ただ放っておけば終わる。という事だけはないよね。」

咲那さくながいう。


 この方法しかないのか?と咲那は思う。妹の命が心配だった。でも自分は何も考えられなかった。妹が消える時は確実に自分達も消えるんだろうなと思った。


「……モリヒコからいわれたときは勢いでやる!て言っちゃったけれど、実は怖い。でもやりたい。しくじったら……溶けちゃうのかな。姉さん」

「……やりたいなら……やってみないと……損よ。相手が少し大物だけど……。」咲那さくなが言った。


 モリヒコが言う。

「神楽殿へ行きましょう。父も向かっています。」

【式部たちも準備せよ。】女王が言うが早いか奥の院にいる式部たちは直ちに動き始める。

奥の院の磐座から、だいわ神社本殿磐座へ転移をかける。


 「女王。女王も神楽殿へ」モリヒコが言う。

【無論だ!】タケミ女王が答える。

【待って。そこまではしなくても】娘であるミカが言う。

 「伊邪那美いざなみ様が答えたのは、「ヤマト王国」のトップだったから。 オオナは伊邪那美様を倒した種族。

スクナビコナのミコトはその科学力で蘇生を試みたが、

かなわず封印に至った。

つまり大元はオオナの罠。

オオナの祈りだけでは怨念は晴れないでしょう。

タケミ女王の想いが必要なのです。

そしてスクナビコナのカエデさん、ミカさん、フミカさん、ミトさん、神の使いである銀龍の疾風、紫電、烈風、金狼せいれい、大山猫アルテミス。

そして八百万やおよろずの神 

すべての力が必要です。」モリヒコが言う。


 それから30分。夜の10時。

【モリヒコ、結界を解くわよ】ミカが言う。

「お願いします。」

 結界が消える。

これでスクナビコナは外部の誰からも見える。

 

 神楽殿の登り口にかがり火。

 漆黒の闇に、うっすらと橙色に神楽殿が浮かびあがっている。

 かがり火のあかりをとるため障子、雨戸を開放する。

 風はないが刺すように冷気がすり抜けていく。


 神楽殿奥中央の大太鼓にむすびがつく。

 大太鼓を背にして中央に巫女姿の雨野神楽、巴此花ともえこのはが静かに正座する。

 舞台中心よりやや前に、雨野神楽。

 その後ろ、やや向かって右寄りに此花。


 雨野神楽は白い小袖に緋色の袴、銀龍の紋の千早。

頭に紅梅の花簪はなかんざしをつける。

 舞は激しいものになるだろうと、素足にしている。

 正座した手には、直径2センチの鈴が鏡の周囲に八つつく鈴鏡れいきょうと表金、裏赤の扇。

 

巴此花ともえこのはは白い小袖に本紫ほんむらさき色のはかまに白足袋たび、金龍の紋の千早。

 普段のお団子ヘアをおとし、背中に届く黒い垂髪たれがみを白い絹のひもで結っている。

頭には桜の花簪はなかんざしをつける。

正座した手に剣鈴と扇。


 神楽はじっと目をつむっている。

手に汗をかいている。緊張してる?

そう気づいたら急にドキドキしてきた。

体温が急上昇していく。

気持ちが悪くなり思わず身体を折りそうになる。

頭が真っ白になる。


 その時、左肩にそっと手が触れた。

 此花がほほ笑んでテレパシーを雨野神楽に送る。

 【大丈夫。私とあなたなら最高の舞を魅せられるわ。

今は二人で一人。見てごらんなさい。神楽殿の正面を。

そしてゆっくり舞台を見渡してごらんなさい。】

神楽の目の前。神楽殿の上り口。

怨霊の伊邪那美様を迎える最も前線に、

身長5センチのタケミ女王。その右にミカ第1王女。

左にカエデ中尉とフミカ軍曹のスクナビコナ達。

3人は白い軍服。

3人が神楽の緊張を察して振り向く。笑顔で雨野神楽を見た。

 その先、地面上り口両脇のかがり火が見えた。

右に、姉の雨野咲那。左に大刀花加奈。

二人とも弓掛し、雨野神楽を見ている。

 振り向く。此花このはは微笑んでいる。

奥の大太鼓の前に、宮司の巴結ともえむすび

その両側に、スクナビコナの式部たちが円錐の拡声板の前に。

出雲の式部もいる。

 神楽殿正面 

カエデ達のにいる階段下にモリヒコと西川一水、葛城綾子。

みな緊張はしているのだろうが、こわばってはいない。

大自然で生きる小人スクナビコナ達の度胸は据わっている。

モリヒコ、一水、綾子は知的好奇心優先しているので鈍感。


 雨野咲那と大刀花加奈は弓道の無心、

ぬえを祓った経験もあり落ち着いている。


雨野神楽は落ち着きを取り戻した。吐き気も消えた。


【神楽さん。楽しみましょう。ここまで来たら、あなたはアメノウズメ様のように、ただ楽しむのよ。私と一緒に。】

此花がテレパシーでささやいた。

 

かがり火の横に、雨野咲那と太刀川加奈が弓を構える。

神楽殿入り口階段にいるモリヒコとその手の平にカエデ 

一水の手にミカ 綾子の手にフミカが乗った。

疾風が5メートルほどのサイズで、

モリヒコ、一水、綾子の背中に接触する。

八百万の神達の気をカエデ、ミカ、フミカに供給するためだ。

 

「みなさん。そろそろお見えになる頃です。」

時計を見てモリヒコがいった。

「咲那さん、加奈さん」

 二人はすっと弓を構えると矢をつがえ、ゆっくりと80度くらいに構える。

 かっこいいとモリヒコは思った。


「フミカさん」モリヒコが合図。

 フミカは、加奈に青龍の光を、 

咲那さくなに黒龍の光を託す。

弦を引き絞る。


「始めましょう!」モリヒコの声で青と黒の気を放つ龍の矢が

新月まじかの細い細い三日月へ刺さるように

先端を青、黒に輝かせながら登ってはじける。

 強力な龍の気が周辺に立ち込めているはずである。

 二人はかがり火の後ろに弓を下げて下がる。


【神域界は本当に展開しないのか?モリヒコ】ミカが言った。

「あの時も、あっという間に溶かされてました。伊邪那美様は別格ですから」

 

 冷気が吹き抜けた。

 神楽殿正面。

かがり火に照らされ人間の形の黒く腐敗した

伊邪那美いざなみ様と

それに巻き付く漆黒の大蛇おろちがいた。

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