だから、悪役令嬢。

いとう縁凛

1.令嬢とは


 慎ましやかに、前に出ない。

 それが五年前までの、令嬢としてのあり方だった。

 しかし、侯爵令嬢エリザベス・ウェービーにはとても無理な話。

 侯爵令嬢という立場にふさわしく、手入れの行き届いた輝く金の髪はエリザベスの存在を主張するかのごとく。毎日完璧な仕上がりの巻き髪も、人目を引く。

 化粧をしなくてもはっきりとした顔立ちは、化粧をすることでさらに過激に豪華に。つり目の碧眼は、目が合う者全ての戦意を喪失させる。

 エリザベスは、見た目からして控えるのは無理なのだ。

 そんなエリザベスは性格も勝ち気で、敵も多い。しかし、最大の味方――後ろ盾がいる。

 王妃だ。

 第一王子から第三王子までいる王子三人の王位継承権争いが激化する中、第三王子の婚約者でも将来は安泰と言われている。第三王子だけが王妃の子であるし、王妃とは言うが実質的には女王だ。

 女王が政治や流行――国を動かしていると言っても過言ではない。

 そんな女王のお気に入りのエリザベスが活躍できるようにと、今までの令嬢観を覆す流行が生まれた。


 それから五年。

「さすが、エリザベス様だわっ!! あんなにヒールが高いのに」「右手がこう、左手がこうね」「こんな情熱的なダンス、私には真似できないわ」

 学生達が集まるのは、国立学院のホール。そこで今日はクリスマスパーティーが開かれている。

 踊る空間にはエリザベスが一人。中央でドレスの裾を捌く。自他共に認める見事な巻き髪も、エリザベスの動きに合わせて豪快に弾む。

 手拍子でリズムを取り、次のダンスを求める学生達の前を、踊るようなステップで進んでいく。

(っ! また、あの子ね)

 ぷつぷつと、カンテが止まる。エリザベスの晴れ舞台のために、歌い手に名乗り出た第三王子。エリザベスの婚約者イザーク・カーヒローに近づく不届き者がいる。

 約一年前に聖女の力を発現させたと噂の、カリナリア・マウトだ。元庶民の伯爵令嬢は、イザークだけに飽き足らず、何人もの爵位持ち子息を虜にしているらしい。

 エリザベスと同じ十六歳で、元庶民なのに、二つ年上のイザークとどうやって出会ったのか。

(桃色の髪なんて、あの子は頭が弱そうに見えるのに)

 くりっとした茶色の瞳が、庇護欲をそそるのかもしれない。

 そんなエリザベスなりの考察をしてみるが、当たっていても外れていても関係ない。

 ダンスパーティー。別名、ダンス武闘。女王が考案した、新しい令嬢のあり方を見せる場なのだ。

 エリザベスが両手を挙げると、場の手拍子が止む。そしてタンタタンと三回叩きながら自分の手拍子に合わせてピンヒールで床をタップする。

 エリザベスの意図を汲んだイザークが頷いたのを確認し、手拍子を他の学生達に任せてカリナリアの元へ行った。

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