第21話 邂逅
「テメェ!! 待ちやがれ!!」
時は少し遡り、デュラン王国の外れ。如何にもゴロツキといった風貌をした三人組の男が幼い少女を追いかけていた。
「ハァ……! ハァ……!」
背丈や顔立ちから察するに少女の年齢は十歳前後であろう。農家が着る作業着のような衣服を着ており、また肩口で切り揃えられた髪はリンゴの様に赤い。
「逃げきれると思うなこのクソガキ! 大人の足腰舐めんなよ!」
背の低い男が走りながら怒号をぶつけた。少女は怯えながらも必死に足を動かすが、無情に両者の距離は見る見るうちに縮まって行く。
「大人しく白いリンゴを渡しやがれ!!」
三人組の一人、細身の男の手が少女の髪を掴もうとしたそのときだった。
「そこまでであります!」
「ぬおっ!?」
はきはきとした声が響いたそのとき、突如空から降って来た何者かが三人組の行く手を阻んだ。
予期せぬ乱入に三人組は驚き戸惑い、伸ばした手を引っ込めた。
「クソッ! あと少しだったのに……! 誰だ!!」
三人組の最後の一人、左頬の傷跡が特徴的な大男が声を荒げた。
「聖テレジア騎士団が一人、マリー・ライトであります! 歳は十八! 悲鳴を聞きつけ、職務を放り出して駆け付けました! 座右の銘は"とりあえずカチコミ"! 以後よろしくお願いします!!」
少女を庇うようにして前に立った乱入者は背筋をピンと伸ばし、口上を述べながら敬礼をした。
「あぁいやそんなご丁寧に、いつもお仕事お疲れ様です。こちらこそね、ここは一つよろしくお願いします……ってやかましいわ!!」
マリーのペースにのまれかけた大男は、寸での所で我に返った。
マリーは聖職者とも騎士とも見て取れる、露出が殆ど無い白い衣装を身に着けており、腰には銀の装飾が施されたレイピアが差してある。
それを認識した背の低い男が慌てたように大男の服を引っ張った。
「お、お頭! こいつが着てる服、聖教会の腕っこきが着てるやつだぞ!」
「な、何ィ!?」
大男は目を丸くした。聖教会という思いがけないビッグネームに三人組は冷や汗を禁じ得ない。
「え、えっと……?」
「大丈夫、私がきっちり守ります!」
困惑する少女にマリーは微笑みかける。少女は安心したように頷き、マリーの服をぎゅっと手で掴んだ。
「何でったって聖教会のエリートがこんなところに……! ず、ずらかるぞテメェら!!」
大男の指示が飛ぶ。三人組が踵を返して逃げ出そうとしたときだった。
「どこへ行くつもりだ?」
音もなく現れたグラムが、三人組の行く手を阻んだ。
「~~!?」
「随分と楽しそうなことをしていたじゃないか? なぁ? 俺も混ぜてくれよ────」
言いながらグラムが千里眼で確認した少女に目を向けたと同時、少女の前に立つマリーの存在に気が付いた。
「……何?」
グラムは怪訝な顔をした。
(うわ顔怖! じゃなくて、この人いつの間に現れたのでしょうか……目付き悪っ)
突如現れたグラムに一抹の不信を抱くマリー、しかしグラムの強面に思わず顔が引き攣る。
(千里眼にはずっと四人しかいなかったはず……この女、いつからここにいた? いやそれより────)
グラムはマリーの存在に疑問を抱く。
千里眼に映っていたのは子供一人と大人三人。そして子供を襲っていたシルエットの数も三人だが、今この場所にはグラムを除いて五人いる。
つまり、あり得ないことが起きている。
そしてその理由は、案外すぐに判明した。
(この女、魔力が感知できない……?)
グラムは珍しい物でも見たように目を少し見開く。
その時点で、グラムは憂さ晴らしという当初の目的を忘れていた。
マリーもまた同様、三人組から意識を外してグラムに注意を向けていた。
「い、今の内に……!」
それに気付いた三人組はこれ幸いと言わんばかりに忍び足。気配を殺してグラム達から逃げようとした。
その刹那、グラムが空気を裂くように人差し指を振った。その指先から光の縄のようなものが飛び出すと、それは即座に三人組の手足を拘束した。
「あぎゃす!!」
手足を縛られ、バランスを崩した三人組は顔から地面に倒れ込む。一瞬の出来事にマリーと少女は思わず倒れた三人組に視線を送るが、グラムはマリーから視線を動かさなかった。
「お前、何者だ」
「人に物を聞くなら、まずは自分から名乗るのが礼儀というものであります!」
マリーの返答を聞いたとき、突然手のひらサイズのシャルロットがグラムの脳内に現れた。
それはグラムの記憶から抽出されたシャルロットのイメージだった。
『人間界では魔族グラムの名を名乗ってはいけません! 特に聖教会に情報が洩れることは絶対ダメです!』
幼さと声の高さがそこそこ誇張された小さなシャルロットがグラムに釘を刺す。
『今の貴方は私の兵士、私の兵士として相応しい振舞を心がけてくださいね! いつもの傲慢も慎んでもらいます! あと私のことはいい加減シャルルって────』
(やかましい)
グラムは表情を変えないまま、頭の中で好き勝手喋っている小さなシャルロットを摘まみ出す作業に専念した。
「……あの?」
返答がないグラムの様子にマリーは困惑する。そこからまた少しだけ過ぎた頃、グラムはようやく口を開いた。
「…………俺はラヴ。リンゴが好きな、ただの放浪者だ」
グラムが偽名を名乗ったとき、マリーの後ろに隠れていた少女の顔が花が咲いたように明るくなった。
「おじさん、リンゴ好きなの?」
少女は声を弾ませながらラヴへ問いかけた。
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