四面楚歌

 サイバーキャノンの砲撃音が轟いた。


 敵機から放たれた粒子弾が、オフィスビルを派手に吹き飛ばす。


 七瀬はジークとともに、近くの建物の影に身を隠している。破壊されたビルは、目と鼻の先と言えるほどの距離だった。首元に冷や汗が伝う。


「くそっ、挟まれた……」


 つい声が漏れる。現れた敵機は4機。


 左手の中央交差点に2機、そして向かいにあるビルの隙間から砲撃してきたのが2機。


(しかも全員、サイバーキャノン装備だ……)


 サイバーキャノンは、フォトンライフルを上回る射程と破壊力を誇る武器。


 視線誘導による自動ロックオンで、うかつに体を晒せば即座に攻撃が飛んでくる。


 一方で、背面固定による機動性の低下や、むき出しの砲身が攻撃されるリスクがあり、混戦のバトルロワイヤルでは、不向きなはずだった。


(けど、敵同士で連携してるなら話は別だ)


 多方向から攻撃される心配がなければ、サイバーキャノンのデメリットは消え、その強みを最大限に発揮できる。


(かなり徹底してる。やられた……)


 上位チームを集団で潰すための共闘。プライドを捨ててでも、勝利を掴もうとする候補生たちの執念に、七瀬は戦慄する。


 隣のビルの上部がサイバーキャノンで吹き飛び、破片が目の前に崩れ落ちる。飛散する煙が視界をわずかにくもらせた。


 この場所が狙われるのも時間の問題だ。


(回り込んで交差点側の敵を狙う?でも、それは敵の狙い筋か……)


 七瀬が迷い、動きを止めていた瞬間、ジークが突然動き出した。


「ジーク!?」


 ジークは建物の隙間から顔を出し、向かいの敵機が潜むビルをライフルで狙い撃つ。粒子弾が直撃し、破片と硝煙が舞い上がった。


 そのまま、彼はビルの間を素早く移動し始める。


「マズい!」


 七瀬は反射的に隠れていた場所を飛び出す。


 直後、サイバーキャノンの反撃が、先ほどまで身を潜めていた建物を粉々に吹き飛ばした。


(危なっ……ジーク、何を狙ってるんだ?)


 七瀬はジークの動きを注視しながら、必死に思考を巡らせる。


 ジークは移動しつつ、向かいの建物を撃ち続けていた。敵機もすかさずサイバーキャノンで反撃する。


 激しい攻撃の応酬。双方のビルが崩れ落ち、濃い硝煙が周囲を包み込む。


 一瞬にして、視界を煙が埋め尽くした。


 その瞬間を狙いすましたように、ジークが全力で向かい側へ突き進む。


「……そういうことか!」


 七瀬はジークの意図を理解した。


(サイバーキャノンは視線誘導で敵をロックオンする)


 視認できなければ、その性能は活かせない。


 これだけ濃い硝煙に覆われた今この瞬間、敵はサイバーキャノンの強みを失っていた。


 扱いに不慣れなサイバーキャノンの連射と、本来敵同士である候補生たちの拙い連携が生んだ、一瞬のチャンス。


(今なら!)


 硝煙の中を、敵の粒子弾がジークを狙い乱れ飛ぶ。敵の注意は、完全にジークに集中していた。


 七瀬は建物を縫うように移動し、側面から交差点側の敵に全力で接近する。隙間から2体のサイバースーツが見えたが、その視線はまだジークに向けられていた。


 道路に飛び出した七瀬は、敵が気づくと同時にライフルを構える。


ーー狙うは1点


「当たれぇぇ!」


 放たれた粒子弾は、交差点奥にいる敵のサイバーキャノンに吸い込まれていった。砲身が閃光を放ち、すさまじい爆発を起こす。


 爆発により撃たれた敵は力なく倒れ込み、もう1体も衝撃でのけぞる。


(……ダメージが大きい!?チャンスだ!)


 のけぞった敵機の砲身が七瀬に向き、蒼白い閃光が砲身の奥で煌めく。その瞬間、七瀬は引き金を絞っていた。


 七瀬の粒子弾が一瞬早く敵のサイバーキャノンを撃ち抜く。砲身は爆音とともに爆散し、閃光がかき消えた。


 間をおかず、ひるんだ敵機2体にライフルを乱射する。追撃を受けた2体のサイバースーツは、力尽きて崩れ落ちた。


「はっ……はあっ……」


 荒れた息を整えながら、周囲を見回す。


 単独での2機撃破。通常であれば試合を決定づける戦果だが、素直に喜べる状況ではなかった。七瀬は左上のアイコンに目をやる。


『フォトン残量 70%』


 開始わずか数分、予想以上にフォトンを消費していた。


 サイバスーツは攻撃、防御、移動のすべてにエネルギー源である《サイバーフォトン》を使用する。フォトンが尽きれば、その時点で敗北だ。


(このままじゃ、終盤にはフォトン切れになる……)


 この試合の想像を絶する難易度に、胃の奥がきりきりと痛む。


(ジークは、どうなった?)


 七瀬が急いで戻ると、煙は薄れ、建物の残骸が周囲に散らばっていた。その中で、立っていたのは1機だけ。


『ジーク!無事だったか!』


 安堵から思わず通信を入れる。HUDにはジークの名前が表示されていた。ジークはわずかにこちらを一瞥しただけで、応答する気配はない。


 七瀬はディスプレイの情報に目を走らせた。


『生存機数:12機』


 試合開始時点より6機が減少。うち4機は七瀬とジークが撃墜したものだ。


 では、残り2機は誰が撃墜したのか?


 ノアの顔が浮かんだ。同率1位のノアも、集団に襲われて反撃しているのかもしれない。


『次の敵が来るはずだ。早いとこ動かないと』


 そう言いながらジークを見た瞬間、背後の風景にごくわずかながちらついた。


『ジーク!』


 七瀬は反射的にスラスターを全開にして飛び出し、ジークを庇うようシールドを構えた。


 徐々に大きくなった黒点ーーサイバーキャノンの砲撃は凄まじいな勢いで迫り、七瀬の構えたシールドに直撃した。


 重たい衝撃が全身を揺さぶり、シールド表面のフォトンフィールドが悲鳴のような高音を上げる。


「……っ!抑え、きれない!」


 圧倒的な衝撃に、思わず叫び声が漏れる。


 次の瞬間、シールドが半壊した。


 背後のジークを巻き込むまいと咄嗟に体を捻る。粒子弾の勢いに押され、七瀬の体は斜め後ろに吹き飛ばされた。


『アーマー損傷率 17%超過 』

 

 衝撃で意識が霞む中、無情なシステム警告音が七瀬の耳元に響き渡った。

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