魔力無し、最強の剣に選ばれる 〜魔力無しの俺がツンデレ魔術師の少女から最強の剣である魔剣を託され、史上初の魔力無し魔術師となる〜

竜田揚げゆたか

プロローグ

 月明かりが照らす夜の町。静まった世界に1人の少女が居た。


 美しい金髪すら血に濡れた少女は、地面から半身を起こすだけでも苦労する程負傷していた。だが少女は痛みなど感じていないようだ。それ程までに我を忘れ、まっすぐに俺を見つめていた。


 瞳には俺の姿が映る。黒髪に赤い双眼、黒衣を身に纏い、裏が赤い黒のマントをはためかせ……その手には青い宝石が埋め込まれた鈍色の大剣を握っている。


 だがこれは俺の変化した姿。


 先程、俺は刃の一撃を持ってして、家屋をゆうに越してしまう程巨大な怪物を倒した。


 少女の瞳には、ただただ驚愕の色が映っている。


「あ、あんた……一体何者なの?」


 この日、俺と少女の運命は交わるのだった。

 

  

 寒さが厳しくなりつつある11月の朝。魔術大国エデンの北に位置する町……アイン町。


 そこにある町唯一の学び舎……アイン第1学園へ向かって今日も生徒が通学路を歩いていく。


 和気藹々とした通学風景。まさに平和そのもの。しかし、そこに突如激しい音が鳴り響く。家屋が瓦礫となり崩れ落ちる音、人々の悲鳴。


「グオオオオっ!」


 そして、魔物の唸り声だ。


「やばいやばい!魔物だ!」

「嘘だろ!?」

「逃げろ!早く!」


 通学中の生徒達は驚愕し、恐怖に顔を引きつらせる。そして異形の怪物から逃がれようと反対方向へ走る。


「魔物……!?」


 それを遠巻きに眺める俺……ジーク・ヴァールハイト。


 切れ長の赤い瞳、後ろに流された黒髪短髪、常に寄せられている眉間の皺。精悍な顔立ちはパッと見では威圧しているようにも見えるだろう。


 だがその顔は、自分でも分かるくらい驚愕に引きつっている。


「っ!」


 そしてその赤い瞳には、逃げようとして転んだ女子生徒の姿が映る。周りの生徒は自分が生きる為に必死で、そんな彼女を無慈悲にも置き去りにしていく。


「クソ……!」


 その時、俺は反射的に走り出した。怪物の居る方向。女子生徒の元へ。


「グルル……!」

「ひぃっ!」


 女子生徒の元へ魔物が唾液を垂らしてゆっくりと迫る。彼女は足がすくんで立ち上がる事すら出来ない。


 間に合え……!


 俺は全速力で地を蹴る。だが、それよりも早く魔物は大口を開け、鋭い牙を女子生徒へ向けて襲いかかった。 


「っ!」


 すると突如、魔物が爆ぜた。文字通り赤い光が瞬き、爆炎と爆煙が周囲を包む。それに俺は立ち止まる。


 そんな俺を追い越すように屋根を駆ける複数の影。皆が黒のローブに身を包み、三角帽子を被っている。


水縄ウォータロープ


 そう唱えたローブの女性。すると、手にした杖に青い粒子が集まり、やがて杖から水の縄が生まれた。それは爆発に目をつぶった女子生徒を捕まえ、手繰り寄せた。


 それは魔術と呼ばれる不思議な力だ。


「あとは魔物だけだ!撃てぇ!」


 同じくローブを来た青年が仲間に号令を出す。すると彼とその仲間達は一斉に炎や風、水や岩を撃ち出し……魔物を一瞬にして倒してしまった。


「大丈夫?」

「は、はい!ありがとうございます……!魔術師様!」


 ローブの女性の手の中で女子生徒は目を輝かせる。先程の恐怖に怯えていた姿はどこへやら。


「うおおお!魔術師様だぁ!」

「あっという間に倒しちゃった!さっすが魔術師様ね!」

「カッケェ!」


 辺りから一斉に歓声が上がる。そう、この国では魔術師は特別な存在だ。町に現れる魔物を倒し、人々から感謝や羨望を一身に受ける。


 皆がその活躍に盛り上がる中、俺は1人黙って立ち尽くしていた。すると、それに気がついた魔術師の1人が声を掛ける。


 20代後半の爽やかな印象の男性……号令をしていたリーダー格であろう人物だ。


「そこの君」

「あ、はい」

「彼女を助けに行こうとしてたね。知り合いかい?」

「いや、そういう訳じゃ……」

「……?そうなのか?なら何故あんな事をした」


 魔術師は少し困惑してから叱るように言葉を発する。あんな事とは、俺が女子生徒を助けに行った事だろう。


「何故って言われても……体が動いたから……」


 そこに理屈など無かった。女子生徒に魔物が迫る様子が見えた瞬間、考えるより体が先に動いた。


 その答えに魔術師の青年は大きく息を吐く。


「いいか?魔物を倒すにはほぼ魔術が必須。戦闘魔術をろくに修めていない一般学生が立ち向かうなど言語道断だ。助ける人が増えては我々も困るからな」

「……はい、すんません」


 バツが悪く目を逸らす。


 魔術師の言葉は正論だ。それを否定するつもりもない。


「ま、その勇気はいつか役に立つ。人を助けたいなら、魔術学院を卒業して魔術師になるといい。君みたいな勇ましい子と一緒に戦えるのは俺も大歓迎だ」


 魔術師の青年はニカッと笑う。そして俺の脇をすり抜けて行くのだった。


 先程の言葉は、魔術師に憧れるこの国の人々にとって最上級の褒め言葉であろう。


「なれたら……いいんだけどな……」


 だが、どんな耳障りの良い言葉を並べ立てても……俺にその言葉はイマイチ響いてはいないのであった。 


 

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