第11話 セクハラは許しません

「高貴な血筋……?」

「そうだ。ドラゴンの乳で育てられたこと、それがその血筋の人間が家名を継ぐための条件となっている。……このことは我が家の身内とこのドラゴン牧場の者以外、誰も知らない秘密となっている。私の家は特殊でね、家の跡継ぎとなるには、そんなさまざまな大小の誓約があるのだ」


 それを聞いて、私はあれっと思った。

 その疑問を口にする。

 

「待ってください。アリオン様はドラゴンナイト。でも、自らのお力で竜を乗りこなし、ドラゴンナイトとなったとお聞きしましたわ」

「そうだ。もともと私の家はそれなりの地位の貴族ではあるが、ドラゴンナイトではなかったからな。でも、どうしても竜騎士になりたくて修行したのさ」


 なるほど。

 そういわけがあったのか。

 それはわかった。

 だから、身につけている衣服や装飾品が、貴族の一員とはいえ末席の竜騎士とは思えないほど豪奢なのか。

 となると、もう一つ疑問が出てくる。


「アリオン様の血筋の方がドラゴンのお乳で育つというのはわかりましたわ。でも、それならなぜ我が夫、ルパートに……?」


 私がそう言うと、アリオンは別のところに引っかかったのか、苦笑いを浮かべてこう言った。


「我が夫、か……。ガイナ隊長の娘であれば、この私が後見人になってもよかったのだがな……。私と同じく、アスモア伯爵もガイナ隊長に恩を感じていて、アスモア伯爵のたっての願いでお前の後見人になるのを許したのだが……まさか病で倒れてその息子、ジュリアンがこんな暴挙にでるとは……。しかし、その相手がルパートであれば私も亡くなったガイナ隊長に顔向けができるというものだ。ジュリアンのやつ、私とルパートがまさか同じドラゴンの乳を飲んで育った関係だとは知らなかったのだろう……」


 ますますわけのわからないことを言う。


「アリオン様。とりあえずはルパートがなぜドラゴンのお乳を……」


 そこで、精悍な顔つきの青年は私の顔をじっと見つめ始めた。

 そして何かを言いかけて……ふっと笑った。


「そりゃ、ルパートは私の弟分だからな。乳を分けてやるのも兄としての努めだ。……ルパートはただの農夫だが、こいつは竜をのりこなす才能があると思う。ミント、君も貴族から農夫に嫁いできてがっかりしただろうが、ルパートはいずれ……竜騎士になれるよ。それだけの努力は必要だがな」


 ルパートが表情をパッと明るくして言った。


「ほんとうですか、アリオン様? 僕、竜騎士になれますか? ……いや、なってみせます!」

「その意気だ、ルパート。努力は怠るなよ。体力も筋力も魔力もまだまだだ、毎日の鍛錬を怠るな」

「はい!」


 しっかし、このアリオンって人、声が低くてさー、男らしくてさー。

 なーんかイラッとくるところはあるんだけれど、それはそれとしてなんかこう……。

 いやいや、私は人妻なんだった。そんなことチラッとでも考えたらだめでしょ。


 そのアリオンは、力強さを感じさせる瞳で私をじっと見て言った。


「そういうわけだから、……ルパートをあまり溺れさせないでくれよ、かわいいお嫁さん?」

「はい? 溺れる……? どういうことですか?」

「だから……その……いや、なんでもない」


 自分で言っといて、アリオンは少し頬を染める。

 ふーん、けっこう色っぽい表情もするんじゃんこいつ。


「はぁ……?」


 それはそれとして、なんの話だったんだろ、と私はちょっと考えて。

 そんでもってピーンときた。

 ピーンときたら、あ、これセクハラ発言じゃん! と思って、思ったらついつい大声を出していた。


「私たちまだそういうの、やってません! 侮辱しないでください! それに、ルパートはそんな男じゃないと信じてます!」


 そしたらアリオンはなぜかほっとした顔で、ニコニコ笑顔になった。


「そうかそうか、うんうん、ルパートにはまだ早いよな、うんうん。心配してたんだ、そうかそうか」

「他人にそんな心配してもらわなくても結構です!」

「なあかわいいお嫁さん」

「ミントです!」

「悪い悪い。ミント、君もまだ若い。ゆっくりと、じっくりと時間をかけてルパートが大人になるのを待ってやってくれよ」


 そんな私たちの会話を、ルパートは顔を真っ赤にして俯いて聞いていた。

 ほんと、いくらイケメンでもセクハラは許しません。

 私はもっと文句を言ってやろうと口を開きかけたとき。


「おっと。もうこんな時間か。宮廷に戻らねば国王陛下に叱られてしまう。……ではな、かわいいお嫁さん」

「ミントです!」

「あはははは。ではまた会おう、ルパート、ミント、それにギーアルさん」

「ギャウっ」


 ギーアルが短く返事する。


 そして、アリオンは慣れた動作で竜の背にのると、あっという間に飛び去ってしまった。

 その姿を見送りながら、私はルパートに尋ねた。


「あの貴族、国王陛下に謁見できるほどの身分なんだ……?」

「そうだね……。今はドラゴンナイトってことになっているけど、もともとの出自は……いや、それは秘密なんだった。ミントさんにもまだ言えない」

「ふーん。で、あの貴族がドラゴンの乳を飲んで育ったのはわかったけど。ルパートがなぜドラゴンの乳を?」

「…………それは……それも、まだ、秘密、です」

「ふーん」


 まあいいか。

 これから先は長い。

 もっと仲良くなってから、ゆっくりと聞けばいいでしょ。


 そして、その数日後。


 私たちは国王陛下から王宮への呼び出しをくらったのだった。




――――――――

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