7話

「すみませーん。トラックが中に入りますので少々お待ちくださーい」


傷の手当をしてから再び歩き始めて。


僕と望の前に一人の男性が現れてすぐ、そう言った。


年齢は40代だろうか? その顔から年齢は読み取れない。


30代にも見えるし、50代にも見えた。


「あ……」


「はい、わかりました」


「すみません、すぐ終わりますので」


「オラーイ、オラーイ、オラーイ」


男性は手に持った光の灯ってない誘導灯を振って案内を始める。


大きく手を振り、敷地の中へ中へと招いていく。


僕達には見えないトラックを、僕達には見えないところへ。


「はーいオッケー」


「どうも。ご協力ありがとうございます」


「今日は暑いんで熱中症に気をつけてくださいね。それでは」


「そちらこそ気をつけてください」


「お仕事頑張ってください」


最初は声を上げた望だけど、別れる時には普段通りに戻り。


「…………」


「行こう、望」


「……うん」


望を促して、止まりそうになっていた歩みを進める。


多分、ここで働いてた人だろう。


今では決して珍しくない。


ああいう人は、結構いる。


地球の滅亡を、落ちて来る月を前にして。


現実を受け入れられる程、強くなく。


かと言って簡単に受け入れられる程、弱くなく。


生きるのを諦められなくて。


でも迫ってくる死が恐ろしくて。


結果的に壊れてしまう。


そうなった人は現実を認められなくて。


自分の日常を守るためなのか、普段からしていた行動を繰り返す事が多い。


例えば、学校とか、スポーツとか、家事とか。


さっきの人は多分、仕事をする自分の日常を繰り返してるんだろう。


「………………」


「………………」


望も気にしてるのか。


いつもの軽口も軽足も無く、歩き続ける。


彼女にとってみれば、あの人は自分のせいで壊れてしまったんだから。


言いかえれば、彼女があの人を壊したんだから。


彼女の気分が落ちるのは仕方ない。


それでいつも通りなら僕も少し困るけど。


……いや、困らないかな。


「…………」


どっちにしても、いつもは聞こえてる声が聞こえてこないのは調子が狂う。


単純に寂しい気持ちもあって。


「…………」


でも僕は彼女に何も言えない。


だから歩き続ける。


「…………」


そもそも僕達は何を目的に歩いてるのだろう。


自分でも疑問に思う。


散策なのか、捜索なのか。それとも模索なのか。


多分、どれも違ってて。


あえて言うなら散歩が一番近いんじゃないか。


これは僕と望が出会ってから、ずっと続いている、ただの散歩だ。


「あ、コンビニ」


「……ほんとだ。寄ってく?」


「もちろん」


望の顔が少し明るくなる。


コンビニなんてものは世界がパニックになってから、あらかた荒らされたわけだけど。


何か食べ物とか飲み物とか歯ブラシとか洗顔料とか、残ってる可能性もあるし。


今の世界にはあって困る物も、持って困るものもない。


荒らされてるところを探して、使えるものを探す。


RPGで街やダンジョンを探索してるみたいな気分。


少し、とは言わず、結構わくわくする。


なんて言ったらやっぱり不謹慎だろうか?

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