貴女と一緒に居たいだけ
神田(kanda)
貴女と一緒に居たいだけ
どうしてなのでしょうか、私はどうして貴女と一緒に居ることを許可していただけないのでしょうか。なぜそれがいけないことなのでしょうか。 教えてくださいお嬢様。私には分かりません。
お父上様はかつて仰ってくださいました。私は一人の人間であって、物ではないのだと。人であって良いのだと。
であるならば、私が貴女を愛するのもまた、よいのではないのですか。
なぜ駄目なのですか。
それは、同性だからですか。
違うと仰るのなら、何故ですか。私には分かりません。もう、何もかもが分かりません。
そうです、それに、最初に手を出したのはお嬢様じゃないですか。私に甘い言葉をかけ続けて、誘惑し、夜の寝室へ招き入れて、私のことを一方的に愛していたのはお嬢様だったじゃないですか。
私の体も心も全部、全部、全部!貴女に捧げた!
貴女のことを心から愛した!
旦那様よりも、奥様よりも、婚約者様よりも、何もかもより、私は貴女のことを愛している。だというのに、何故、どうして貴女の隣にいさせていただけないのですか。
ええ、そうですね。貴女はお優しいから、無学な私にも丁寧に説明して下さいましたね。これがこの世なのだと。この世とは、あらゆる偶然が重なるという必然が起きる場所なのだと。我々には、決定的な希望や救済などは無く、それらはあくまでも人の頭の中の幻想なのだと。
ああ、ひどい!
これまでの人の歴史の中で、一体何度このような顛末があったというのでしょうか。
どうして、どうしてなのですか。どうして私がこんな目に合わなければならないのですか!
ええ、そうです、そうですね、こんなのは所詮、事実の集積による必然的な結果、運命というやつでしたね。
私と貴女は、お互いにお互いを心の底から熱愛していたというのに、引き裂かれなければいけません。私はこの屋敷の手伝いという職を失い、屋敷の敷地内に入ることは許されない。
私はもう、永遠に貴女に会えない。
私はそんなの嫌です。
私は貴女ともっと一緒にいたい。
どうして、どうして、どうして貴女は拒むのですか!
私のことを選んで下さらないのですか。私のことを愛して下さらないのですか。あの日々は、気の迷いだったというのですか。
.........
.........
.........そう、ですか。
あれらは全てほんの気の迷いであって、私のことなどは、元から愛していなかったのですね。婚約者様に飽きて、たまたま私で遊んでいたに過ぎなかったのですね。
.........そういうことなら、仕方ありませんね。
自分の荷物の片付けをしてきます。それでは、失礼します、お嬢様。
......お嬢様、どうして泣いていらっしゃるのですか。せっかくのお綺麗な顔が台無しですよ。
ほら、これで綺麗になりました。
お嬢様に涙は似合いませんからね。
.........ねえ、お嬢様。私は、諦めませんからね。
貴女は私を壊してしまわれたのです。私という人間に、絶対の基準を設けてしまわれたのです。
私に、決定的な希望を与えてしまったのです。
救済の幻想を見させてしまったのです。
私を裏切ったお嬢様。
私の愛しているお嬢様。
私は貴女から、全部奪ってあげますから。貴女の大切なご家族も、地位も、名誉も、財産も。全部壊してあげます。たとえ私のこの体が壊れても、たとえ四肢がバラバラになったとしても、ウォッカでも飲んで、無理やり体に命令して、全部壊してあげますから。
そうして、私と貴女の二人きりの世界を作って、破壊の衝動に身を任せて貴女をぐちゃぐちゃにして、愛の衝動に身を任せて、貴女を愛して、そうしてついに、貴女の全てを奪います。
そしたら、一緒に堕ちていって、一緒に壊し合いましょう。
あの日の夜のように。
これまでの夜のように。
愛して、壊して、壊されて。
だからね、お嬢様。
お利口さんにして待っててね。
必ず迎えに来てあげるから。
それまで、いい子にしてるんだよ。
―貴女と一緒に居たいだけ―
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