深淵の魔族が迫る異世界で、地球のゲーマーたちが女神の力とゲームの知識で世界を救う物語

@BestXiaoMing

第1話夕焼けの血染め:異世界からの救援要請

血のように赤く染まった夕陽が、崩れかけた王座の大広間を不気味に照らし出していた。ひび割れた石畳には黒い焦げ跡が蜘蛛の巣のように広がり、勝利の余韻に浸る間もなく、鼻腔を突く硫黄と血の匂いが北斗を苛立たせた。


北斗(ホクト)は剣を杖にして、片膝をつき、激しく息を切らしていた。


ひびの入った鎧は元の輝きを失い、あちこちに深い傷跡を残していた。額に垂れた数本の髪は、汗と血で張り付き、彼の疲れた顔を覆っていた。息をするたびに、肺が焼けるように痛んだ。


しかし、その口元には安堵の笑みが浮かんでいた。


「……ようやく、終わった。」彼はかすれた声で呟いた。


彼の目の前には、かつて威風堂々としていた魔王の姿はなく、ただの黒焦げの残骸が、吐き気を催すような悪臭を放っていた。


かつて不吉な気を放っていた魔剣も、真っ二つに折れ、力なく傍らに転がっていた。


この戦いは、丸三日三晩も続いた。


魔王の強さは想像を絶しており、女神の祝福を受けた勇者、北斗でさえ、ほとんど精魂尽き果てていた。


何度も、もう倒れてしまうと思った。しかし、脳裏に浮かんだのは、アレス大陸の罪なき人々の顔だった。


「……やったんだ。」北斗は再び魔王の死を確認し、張り詰めていた神経がようやく緩み、強い疲労感が押し寄せた。


彼はそのまま尻もちをつき、大広間の天井に開いた穴から、血のように赤い夕日を仰ぎ見た。


「帰ったら、ちゃんと女神様に報告しないと。」北斗は心の中でそう思った。「今回の任務はこれで完了だ。そろそろ、元の世界に送り返してもらうようにお願いする頃合いだろう。」


彼は「地球」と呼ばれる世界から来たのだ。彼はかつて、地球の大手ゲーム会社『星海ゲームス』で、VRMMORPG『アレス戦記』のゲームプランナーを務めていた。アレス大陸での冒険は、彼が企画したゲームの世界が現実になったような、刺激と挑戦に満ちたものだったが、故郷への想いを常に抱いていた。


しばらく休憩した後、北斗はよろよろと立ち上がり、大広間で戦利品を探し始めた。


地球で愛読していたライトノベルの展開によれば、魔王を倒した後には、貴重な宝物が見つかるはずだった。


「何か高く売れそうなもの、ないかな……せめて、レアアイテムの素材くらい、落ちてないか?」彼は独り言を言いながら、足元の瓦礫を蹴飛ばした。


その時、彼の目に、王座の後ろにある巨大な黒い結晶が飛び込んできた。


その結晶は微かな黒い光を放ち、表面にはびっしりと符文が刻まれ、不吉な気を放っていた。


「これは……」北斗は慎重に近づき、結晶の符文をじっくりと観察した。


女神の祝福を受けた勇者として、北斗はアレス世界のあらゆる言語を理解する能力を持っていたが、この符文の意味は理解できなかった。


その符文は、言いようのない不安感を伴っていた。


彼は手を伸ばし、そっと結晶に触れた。


指先が結晶に触れた瞬間、氷のように冷たい思念が彼の脳に流れ込んできた。


無数の断片的な映像が彼の目の前をよぎった。暗い虚空、巨大な魔物、そして津波のように押し寄せる無数の影。


「これは……深淵魔族の情報なのか?!」北斗は顔色を変え、咄嗟に手を引っ込めた。


彼はようやく理解した。いわゆる「魔王」は、最終的な敵ではなく、「深淵魔族」と呼ばれる異世界種族の先遣隊に過ぎなかったのだ!


彼の脳裏をよぎった映像は、深淵魔族の本隊だった。彼らは膨大な数と恐るべき力を持っており、アレス大陸のいかなる種族も匹敵しなかった。


さらに重要なことに、アレスは過去の戦いで多くの高位戦力を失っており、普通の兵士や魔法使いでは、これらの強大な魔物に対抗できない。


「まさか……世界の均衡を崩す存在が、こんな形で現れるなんて……予想もしていなかった。」北斗は信じられない思いで黒い結晶を見つめた。


魔王を倒せば全てが終わると思っていたのに、これは更なる危機の始まりに過ぎなかったのだ。


彼は、アレスの現在の力では、深淵魔族の侵略を防ぐのは難しいだろうと、ゲームプランナーとしての冷静な目で分析した。


彼は手に持つ聖剣を強く握りしめ、剣から伝わる冷たい感触を感じた。


彼は、ここで諦めるわけにはいかないことを知っていた。この情報を女神に伝え、より大きな挑戦に備えなければならない。


夜通し走り続け、北斗はついに大陸の中心にある聖都、エルドの神殿に戻った。


神殿は朝日に照らされ、荘厳で神聖な雰囲気を醸し出していた。


彼は休息も取らず、直接神殿の最奥、女神の神殿へと向かった。


神殿の中央には、巨大な女神像が柔らかな光を放っていた。女神の顔は慈悲深く美しく、まるで世の中のすべてを見守っているようだった。


アレスに降り立ったばかりの頃、北斗も凡人の目で女神を見て、不埒な考えを抱いたこともあった。しかし、長年の付き合いの中で、女神の偉大さと純粋さを真に理解し、かつての邪念は消え去っていた。


「女神様。」北斗は像の前に恭しく跪き、低い声で言った。


彼の言葉に応えるように、柔らかな光が像から放たれ、北斗の目の前に美しい人影を形作った。それは女神の化身だった。


「勇者よ、戻ったか。」女神の声は優しく穏やかで、北斗が魔王との戦いで受けた傷も、その声によって和らいでいった。「よくやった。魔王を倒したのだな。」


「女神様の祝福に感謝いたします。」北斗は頭を垂れ、謙虚に言った。「ですが……非常に重要なことを発見しました。」


彼は黒い結晶を取り出し、女神に差し出した。女神は手を伸ばし、そっと結晶に触れた。


瞬間、女神の化身の周りの光が激しく明滅し始め、彼女の表情も険しくなった。


「……やはり、深淵魔族か。」女神の声には憂いの色が混じっていた。「彼らは我々が想像していたよりもずっと強い。アレスは過去の戦いで大きな損害を受けており、自らの力だけでは、彼らの侵略を防ぐのは難しいだろう。」


「女神様、深淵魔族とは一体どのような存在なのですか?我々はどうすればいいのですか?」北斗は心配そうに尋ねた。


女神はしばらく黙り込み、ゆっくりと語り始めた。「深淵魔族は異次元から来た邪悪な種族で、強大な力と無限の野心を持ち、あらゆる次元を飲み込もうとしている。彼らの行くところには、破壊と絶望しか残らない。そして、アレスの現在の力、兵士の数、高位戦力の備蓄、魔族の特殊な魔力に対抗する手段、どれも大きく不足している。」


「それでは……」北斗はさらに心配になった。


「だからこそ、新たな使命を与える、勇者よ。」女神の声が厳かになった。「私はお前の助けが必要だ。異世界の助力を召喚するのだ。召喚……お前の故郷の戦士を。」


「地球の戦士を召喚する?!」北斗は驚いて目を大きく見開いた。「そんな……そんなことが可能なのですか?地球には超常的な力はありません。本当にアレスの助けになるのでしょうか?」


「地球の戦士は、アレスに欠けている特質を持っている。」女神は辛抱強く説明した。「彼らは私の力によって『不死』の特性を持つことができる。たとえ戦闘で『死』んでも、再び『復活』できるのだ。そして、彼らは豊富な『ゲーム』経験を持ち、戦術や戦略に対する天性の理解を持っている。彼らは異なる文化背景を持ち、様々な技能や考え方を持っており、アレスに新たな希望をもたらすことができる。さらに重要なのは、彼らの数はアレスの現在の戦士をはるかに上回っていることだ。アレスはこれ以上多くの戦争に耐えられない。」


北斗は納得し、さらに言葉を続けた。「女神様、私がこのアレス世界に来る前は、とあるゲーム会社でプランナーを務めておりました。故郷の仲間たちを鼓舞し、彼らが快く協力してくれるような提案の仕方は心得ているつもりです。ですが——」北斗は真剣な表情で女神を見つめた。「地球では、ごく平凡なサラリーマンに過ぎなかったかもしれませんが、故郷を裏切るような真似だけは断じて致しません。決して、葉文潔(『三体』に登場し、地球の座標を売ることで故郷を危機に陥れた人物)のような愚行は犯しません。」力強い眼差しを女神に向け、北斗は言葉を重ねた。「そのため、地球連邦理事会の同意は不可欠です。加えて、地球側が援助に同意した場合、彼らの魂をアレス世界へ転移させるにあたって、何らかの危険が生じないか、そして、万が一、このアレス世界が深淵魔族に完全に制圧された場合、地球の座標が彼らに漏洩してしまう危険性はないのか、どうか、お教え頂けますでしょうか。」


北斗の問いは鋭く、ある意味容赦のないものだった。彼はアレス世界に降り立って以来、常に穏やかで、たとえ女神の代弁者として、世界最強の戦力であろうと、横柄な態度を取ったことはなかった。だが、今の彼はアレスの勇者ではなく、地球の北斗だった。彼は地球の八十億の人々(架空の設定で、地球は科学技術が高度に発展し、仮想現実技術を有している)を代表していた。


女神は不満を示すことなく、ただ厳かに言った。「私がアイリス世界の統治者——アストラエアの名において、ここに誓いを立てます。もし地球側がアイリス世界への援助に同意するならば、私が息絶えるまで、地球から来た魂を庇護すると。もし本当にアイリスが陥落する日が来たならば、」彼女の優しい眼差しは力強くなった。「私は深淵世界と運命を共にします。」


北斗は粛然と敬意を表したが、まだ幾つかの疑問があった。「どうすればゲームを通してアイリスと地球を繋げられるのでしょうか?」


「私はお前に『世界之钥』(せかいのかぎ)を授けよう。それはアイリスから地球への『扉』(とびら)を開き、二つの世界を繋ぐ架け橋となるだろう。そして、お前のゲームに神力を与え、地球の魂を運べるようにする。」


女神の言葉と共に、一筋の金色の光が北斗を包み込んだ。彼は神秘的な力が体内に流れ込んでくるのを感じた。それは以前の女神の祝福とは全く異なる力で、より深く、より広大で、まるで世界の法則を含んでいるようだった。


彼はアストラエア女神をじっと見つめ、口を開いた。「地球への通路を開いてください。この件については、私が直接地球へ行かなければなりません。」


女神は微笑み、多くを語らず、ただ静かに頷き、「これは当然のことです。」と言った。


その後、彼女は細い両手を胸の前で重ね合わせた。


「星々の名において、世界の契りにおいて……」女神は静かに詠唱した。金色の光が彼女の指先に集まり、徐々に複雑な魔法陣を形成し、二人の目の前にゆっくりと展開していった。


魔法陣の中心には、渦を巻く通路がゆっくりと回転し、かすかな銀色の光を放ち、まるで無限の虚空に繋がっているようだった。


北斗はアストラエアを一瞥し、迷うことなく回転する通路に足を踏み入れた。


銀色の光が瞬時に彼を飲み込み、彼の姿は虚空の中に消えていった。


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