ギルドを追放された俺、傭兵ギルドのエリートに拾われた〜元ギルドが崩壊したらしいです〜

ネリムZ

第1話 追放とエリートの拾い主

 「今すぐにこのギルドから去れ。俺の前に二度と顔を出さないように国も出て行け」


 「⋯⋯へ?」


 端的に言われたギルマスからの言葉に俺の思考は止まった。


 「な、何故⋯⋯ですか?」


 理解出来なかった。

 今まで何も問題無くやってこれた。

 それがどうして、いきなり⋯⋯こんな。


 「理由なんて必要か? 俺がそう決めた。それだけで十分だよな?」


 「⋯⋯ッ!」


 俺を見る目はとても鋭く、情の欠片すら見えなかった。


 俺は両膝を付いて、項垂れる。

 身寄りのない俺を拾ってここまで育ててくれた父親のような恩師でありギルド、ブーゲンビリアのマスター。

 俺は恩返しのために頑張って、副マスターとして精一杯の事をして来たつもりだ。


 ⋯⋯それは全部、俺の独りよがりだったと言うのか?


 「どうした? 理解したら早く出て行け」


 1秒でも早く居なくなって欲しいのか、ギルマスは俺を急かす。

 今まで逆らった事は無かった。ギルマスの言葉に従っていれば上手くいっていた。

 でも、今回ばかりは納得出来ない。


 「です⋯⋯」


 俺が反論しようとしたが、ギルマスの呆れた目を見て言葉が詰まった。

 これ以上⋯⋯失望されたくない。


 俺は自分の腕に嵌めている腕輪を外す。

 これはギルマスからの贈り物。追放される身分で着けて良い代物では無い。


 「そんな物、お前以外に使い道の無いゴミだ。持って行け」


 「⋯⋯よろしいのですか?」


 「それはお前の物でギルドの物じゃない。さっさと立ち去れ」


 「⋯⋯はい」


 悔しいやら悲しいやら⋯⋯俺達の過ごして来た数十年の情はたったの数分で崩れ去った。

 また同じように来ると思った明日は来ない。


 俺は放心状態でポツポツと外に出て来ていた。

 国からも出るように言われた。行く宛てなど無い。


 「俺はこれからどうしたら良いんだ」


 ギルマスが教えてくれたのは生き残る術と力。

 戦う力や技術はあってもゼロから出来る何かが無い。


 今後の事を考えながら歩いていると、森の中に入っていた。

 かなりの距離歩いてしまったようだ。


 「どうして追放の理由も教えてくれないんだ」


 時間が経って心が落ち着き、ふつふつと怒りが湧いて来た。

 いきなり出て行けは流石に酷い。

 せめて理由を徹頭徹尾問い質して⋯⋯。


 「いや、やめよう。マスターがそう言うなら俺は従うまでだ」


 親に失望されたい子などいない。だから俺はもう、何も聞かない。

 やはり今後の事を考えるべきだな。


 「まずは宿の確保だ。ここから近くの国に行く事が先決⋯⋯」


 俺がブツブツと独り言をしながら頭を整理していると、後ろからやかましい声が投げられる。


 「立派な魔法石を持ってるじゃねぇか! それと金目の物を置いて失せな! そしたら命は奪わねぇよ!」


 「⋯⋯俺か?」


 「お前以外に誰もいねぇよ!」


 銃を片手に持ち、トサカ頭の男が俺に向かってふざけた事を言う。


 魔法石⋯⋯魔法を使うための魔石から作る道具。

 俺の腕輪に付いている石が奴の言う魔法石だ。


 「聞いてんのか!」


 「聞こえてはいる。⋯⋯一つ質問良いか?」


 「なんだ?」


 「そのニワトリみたいなトサカ頭はオシャレか?」


 「最近の流行りだ!」


 「まじか?!」


 知らなかった。

 俺達のいたフラワア王国では誰もしてなかった。

 違う国ではこんな頭が流行っているのか。


 「つーかそんなのはどうでも良いんだよ! さっさと魔法石を置いてけ!」


 「それは困る。これは⋯⋯数少ない家族との思い出の品なんだ。特別な理由以外で手離したくない」


 その家族に捨てられた⋯⋯。

 精神的ダメージが心を深く抉って来る。


 「知るかよ!」


 男と口論になりそうな時、遠くから木々を躱して颯爽とバイクが現れた。

 稲妻を迸らせるバイクは俺達の間を通って、停止する。


 「ようやく見つけたわよ! 100万賞金首のバッシュ!」


 「げっ! お前は!」


 バッシュ⋯⋯彼はそんな名前なのか。

 そして今現れた女はバイクから降りて体から電気を迸らせる。


 銀色のロングヘアーに宝石のような碧眼⋯⋯魔法石はピアスにしているらしい。

 彼女は俺の前に片腕を広げながら立つ。


 「奴は危険よ下がってなさい」


 ん?

 いきなり現れて命令口調だな。


 「ゲヘヘ。速いじゃないか」


 「ふふん。轟雷のフィリアを舐めるんじゃないわよ」


 胸を張って二つ名を自慢する人は珍しいな。

 フィリアの名前を聞いてからバッシュの顔は明らかに青ざめる。


 「ゲヘヘ。そんな雑魚を守りながらこの俺を倒せると思うのか? お前の魔法は知ってるんだぞ!」


 「私はA級の傭兵。エリートなの。余裕よ」


 なんだろう。

 さっきからモヤモヤとする。


 「丁度溜まっていたところだ。無駄に見せているその乳で抜いてやるよ!」


 「キモっ」


 フィリアの格好は下側の胸が強調される服装で露出がとても多い。

 なのにコートを羽織っている。

 寒いならちゃんと着込めば良いのに⋯⋯。


 「それじゃ、覚悟は良いわね。私の雷は苦しいわよ」


 「どれだけそいつを守り切れるかな傭兵さん」


 下衆な視線をフィリアから俺に向ける。

 殺意の籠った目だ。


 「守りながらお前を捕まえる。なんてイージーなミッションなのかしら」


 そう言いながらも冷や汗を流すフィリア。

 バッシュはそんなに強そうに見えないが何を警戒してるんだ?

 ⋯⋯あ、ようやくモヤモヤの正体に気づいた。


 フィリアは俺を守ろうとしている。バッシュは俺を盾にフィリアを倒そうとしている。

 二人の中にある共通認識で俺は『弱い』事になっている。


 ⋯⋯なんかイラッとする。

 何も知らずに勝手に弱い者扱いされるのは気に食わない。

 守られる事が前提?

 ふざけるな。


 俺は戦うための力や技術を教わったんだ。

 それを有効活用出来ずに女の影に隠れるなんて恥晒しも良いところ。

 追放されても仕方ない男じゃないか。


 「露出魔のフィリアと言ったな」


 「轟雷のフィリアね。ぶち殺されたいの?」


 「すまない本音が出た。少し良いか」


 「ごめん謝ってないわよねそれ。何かしら? 今油断したくないから下がっていて欲しいのだけれど」


 「初対面でいきなり侮らないで貰いたい」


 俺はフィリアの言葉を無視して前に出る。


 「ちょっとっ!」


 「なんだ? 先に殺されたいのか?」


 「二人とも、なんでそんなに俺を警戒しない? 俺だって魔法石を持っている。つまり魔法が使えるんだ」


 「ゲヘヘ。それでお前が俺に勝てるってか!」


 バッシュは下卑た笑みを浮かべ、銃口を俺に向ける。


 ここで二人の認識を改めて貰おう。


 「俺は魔法を使わない」


 「「は?」」


 「知ってるか。化学と魔法の共通点を」


 「「は?」」


 二人して疑問符を頭に浮かべる。

 それだけで分かる。

 バッシュでは俺に勝てない。


 バッシュは魔法を使う予兆を見せればすぐにでも引き金を引くだろう。

 だが、俺は魔法を使わない。

 正確には⋯⋯使う必要が無い。


 「それは⋯⋯どちらも道具を使うって事だ」


 魔法には魔法石を、化学にも適切な道具が必要だ。


 「戦うのに武器はあると便利だが、人を倒すのに武器は必要無い」


 重要なのは⋯⋯技だ。


 俺はギリギリまで歩いて近づいた。

 相手が愚かにも俺を近づかせてくれた。

 俺を弱いと思っている。侮っている。そして不意の脈絡の無い問に油断を増大させる。


 「何を⋯⋯」


 バッシュが俺に疑問をぶつける瞬間、地を蹴って加速する。

 即座に引き金を引こうとするが、時既に遅し。

 俺はバッシュの手首を掴んで下に向け地面に弾丸を飛ばさせる。


 「クソっ!」


 反対の手でナイフを抜こうとする。

 化学や魔法の戦いに慣れるとこうやってすぐ道具に頼るようになる。

 その動作が隙になると教わってないのだ。


 「遅いよ」


 俺は膝でバッシュの腕を折る。

 痛みに慣れているならこのまま攻撃して来るだろうが、バッシュは違った。

 痛みに悶絶して武器を地面に落としてしまう。


 ほら、こいつじゃ俺に勝てない。


 気絶させるために裏拳で顎を殴り脳を揺らす。

 ぐったりと倒れるバッシュを地面に捨てる。

 気絶を確認してからフィリアに向き直る。


 「賞金首と言っていたな。賞金の一部を貰っても構わないか?」


 呆然としているフィリアから返事が来ない。

 そんなに予想外な結果だったのか。

 確かに、ギルドから追放された身分だけども。


 「貴方⋯⋯強いわね」


 「どうも。だがコイツが弱かったのもある」


 「⋯⋯そう。何はともあれありがとう」


 「そうか。なら訂正してくれ」


 「え?」


 「俺を守るべき弱い奴と思ってただろ? それをこの場で今訂正してくれ」


 フィリアは呆気にとられたような間抜けな表情になる。

 間抜けな顔でも美人だと綺麗に見えるのは、世界の理不尽だと思う。


 「そこ、気にするところ?」


 「めちゃめちゃ気にするところ」


 「訂正するわ」


 とても大切な事なのにどうして呆れた顔をされないといけない。

 呆れる⋯⋯と言うか哀れみに近いか?

 残念な生き物を見る目を向けられるぞ。


 いたたまれない気持ちになる。

 話を変えたい俺に対して、フィリアが次の言葉を出す。


 「貴方、どこのギルド? 国は?」


 「ギルドは⋯⋯追い出された。国からも、出て行けと言われた」


 「ふーん。じゃあ帰る場所が無いんだ」


 理由も聞かずに信じてくれた。

 俺はそれで彼女は良い人だと確信する。


 「じゃあさ、実力を見込んでスカウトしても良い? 来ないかい、うちのギルドに。良いとこだよ」


 行く宛ても無く、今後の生活も怪しい。

 俺はまだブーゲンビリアの一員としての心が残っている。

 他のギルドに行く事への罪悪感や不安。それらが俺の心を蝕む。


 「もちろん無理にとは言わない。ただ、ソレを国に引き渡してからじゃないとお金は貰えないから、付いてきて貰うよ。国はメモリイ王国ね」


 ここから1番近い国⋯⋯。

 居場所の無い俺にとって、願っても無い事だ。


 「スカウトの件、お願いしても良いか? 実際問題、行く所が無い」


 「もちろんよ。優秀な人材は大歓迎。ただ私以外の人には敬語使いなさいよね。感じ悪いから。私はフィリア=ローゼウス。轟雷のフィリアよ。知ってる?」


 「全く知らない。カグラ=アマツキだ。よろしく」


 「⋯⋯全く⋯⋯知らない」


 フィリアはショックを受けたらしい。

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