第5話 目撃情報
その少し前くらいだっただろうか。今お店に駆け付けてきた警察署に、
「110番」
が掛か二時間くらい前だっただろうか、その時は緊急連絡ではなかったが、おかしな通報があった。
というのは、その場所が、池を回る公園の遊歩道で、
「何か黒いものがある。どうも血痕のような気がする」
というものであった。
ちょうど、時間的に六時過ぎくらいということで、夜も明けて、明るくなってくるくらいの時間だった。
しかも、朝日が昇ってくるところなので、角度がある。
その角度があるせいか、
「その黒くなった血痕というものが、盛り上がっているようだったので、余計に目立ったようだ」
ということで、普段なら気にしない散歩者だったが、さすがに通報に思い切ったのだった。
警察がやってきて、鑑識が見たところ、
「確かに、血痕のようですね」
ということだったので、付近の聞き込みと、捜索が行われた。
「池に落ちてるんじゃないか?」
ということで、池の近くを見てみたが、その血痕が、数か所あるようで、しかも、それが途中で消えているのが不思議だったのだ。
そこに死体が放置されていたりするのであれば分からなくもないが、なぜ、死体がそこから消えたのかが分からなかったからだ。
警察は付近の捜索をしたが、山村が立ち寄っているカフェからは、数百メートル離れているので、そこまで捜索の範囲を広げることはなかった。
何といっても、血痕であることに間違いはないが、動いているということは、少なくとも、
「移動できたということは、少なくともそこまでは生きていた」
ということなので、今、
「生きているのか死んでいるのか分からない」
ということである。
ただ、そうなると、
「一刻も早く、その人を見つけないと」
ということになる。付近を一度封鎖して、
「一刻も早くの捜索」
を優先した。
ただ、まずは、目撃者捜しだった。
血痕を発見した人が、この状況から、
「詳しいことを知っている」
というわけはなさそうだった。
となると、ここは、散歩コースということで、
「すでに何かを知っている人がいるとしても、その人は、この場にはいないだろう」
ということになる。
朝から必死で捜索に入っていたが、なかなか死体はおろか、血痕が消えてからの足取りが皆目分からない。
「まるで狐につままれたような事件だ」
ということだった。
もちろん、付近の病院も捜索された。
ちょうど、公園を出るあたりに、大きな総合病院がある。
そこは、近くの大学の附属病院で、救急も備えていた。
「あの病院に駆け込んだか、治療を受けているかも知れないな」
ということで、刑事が、聞き込みにいったが、
「昨夜からということであれば、救急が二件ほどありましたが、救急搬送された人ばかりで、その二人も、この近くということでもなく、外傷を追ったひとではなく、発作による救急搬送でした」
ということで、無駄足に終わったかのようだった。
しかし、その捜索が終わり、病院から出てきたその時、何やらパトカーが来ていたのだ。
時間としては、すでに八時半を過ぎていた。
付近の捜索に重点を置いていたので、思ったよりも時間が過ぎていたようで、さすがに刑事としても、
「そんなに時間が経っていたのか?」
と感じていたのだった。
ちょうどその場所というのは、山村が立ち寄るカフェのところだったので、勘のいい読者の方は、
「それが、マスターが呼んだパトカーだ」
ということを察していただけたことであろう。
「表に止まっているパトカーが数台、そして、パトランプが消えていない」
というのを見ると、
「ただごとではない」
と思えた。
それを感じた一人の刑事が、
「行ってみよう」
と思い立ち、やってきたのだった。
救急車も一度来たのだが、
「すでに死んでいる」
ということだったので、消防署に帰っていった。
そして、警察が鑑識を呼んだので、ちょうど、その鑑識の車が入ってきたので、
「いよいよ、ただごとではない」
と感じさせられたのだ。
刑事が、店の中に入ると、
「これは一体」
ということで、見かけた刑事に声を掛けた。
「ご苦労様です」
ということで、二人は事情を話しあった。
通報を受けてやってきた刑事は、早朝に、
「何かの通報があって、出かけていった」
ということは知っていたが、詳しいことは聴いていない。
といっても、その詳しいことがまったく分かっていない状態なので、待機の刑事が分かる範囲というのは知れていた。
だから、
「朝出かけていって刑事が、ここにどうしてきたのか?」
ということが分かるはずもない。
お互いに話をしたが、あとからやってきた刑事がいうには、
「関連性はないんだろうか?」
ということであった、
確かに、遊歩道には、血痕が残っている。そして、ここで見つかったのは、刺殺死体だということ。
それを考え合わせれば、
「関係がないとはいえない」
ということになるが、話をすり合わせてみると、
「その可能性は低いかも知れないな」
ということでもあった。
先ほど、マスターと、さくらに刑事が話を聞いていたようだが、
「店に来たのは、二人とも開店30分前くらいだった」
ということであった。
その時間まで、店は完全に閉まっていて、密室になっていた。もちろん、鍵もかかっていたし、おかしいと思うところは何もなかったということであった。
それを聴いた刑事は、
「なるほど」
と答えただけで、一応、山村にも事情を聴いた。
「ええ、最初に見つけたのは、自分でした。ここで朝から絵を描くのが好きなもので、
席に座って、庭を見ながら絵を描いていたんです。座っていただければわかるように死体があった場所というのは、死角になっていて、この席からでは見えません」
と説明をした。
「なるほど、分かりました」
と刑事はそういって、その場所に自分も座って、検証してみたが、
「確かに死角になってるな」
といって、納得したのだった。
その刑事は、名前を桜井刑事といい、彼は、
「聞き込みをしたところ、誰も不審なことを言っているわけではない」
と思った。
ただ、
「何か引っかかりがあるんだよな」
という思いだけは抱いていたが、それが何か分からないまま、
「事実関係を捜査で固めていくしかない」
と感じたのだった。
そこへやってきた、
「朝出動した刑事たち」
だったのだ。
店に入ってきた刑事の一人は、
「門倉刑事」
といい、桜井刑事の先輩にあたった。
最近までは、コンビを組んでいたが、桜井刑事が、
「立派になってきた」
ということで、独り立ちさせようということになり、
「別々のコンビ」
ということで、桜井刑事は晴れて、
「一人前の刑事」
ということになった。
そもそも、桜井刑事は、署内でも、一目置かれていた。
彼は、自分で捜査してきた内容をかいつまんで理解する力に長けていて、その上、推理力も抜群だということで、彼の推理によって解決された事件も、いくつもあったというのが、実情だった。
門倉刑事も、一流の刑事であったが、
「自分にない才能」
というものを持っている桜井刑事には、素直に従っているところがあった。
それでも、門倉刑事も、今までにいくつもの難事件を解決してきた手腕があったので、
「桜井刑事だけの手柄だ」
とは誰も思っていなかった。
「二人のコンビは最強だ」
ということもあり、
「コンビ解消」
ということに賛成しない人もいたが、
「これでは、桜井刑事がかわいそう」
ということで、とりあえず、
「独り立ちさせてみよう」
ということになったのだ。
もちろん、事件解決が一番なので、前の方がしっくりくるようであれば、
「元に戻す」
というのが、上層部の考え方のようだった。
警察組織というと、どうしても、
「堅物」
と言われるところがあるが、それは誤解も若干あるだろう。
テレビドラマなどで、
「盛っている」
というところもあるようで、
「あまり、必要以上に気にしない」
という方がいいのかも知れない。
それを思うと、
「警察も、署によってかなり違う」
とも思えるだろう。
と庶民の中で、そういう目で見ている人もいると感じていた。
特に、山村は、そう思っていた。
彼がタクシーの運転手をするようになってから、特に夜間など、
「客とトラブルになる」
ということもたまにあったり、
「酔っ払いが絡んでくる」
ということも少なく無かった。
その影響で、
「警察に通報」
ということも何度かあり、
「交番で処理をしてもらう」
というのが、ほとんどだった。
中には、
「犯罪に絡んでいる人もいる」
ということから、交番から警察署に送られた人もいて、その事情聴取ということで、警察署に行かなければいけないということも少なくはなかった。
「なんで俺ばかり」
と思っていたが、そうではなく、
「他のドライバーだって似たようなものだ」
ということを、同僚ドライバーから聞かされたことがあった。
「そんなに」
と驚いてはいたが、タクシードライバーにも慣れてくると、
「ああ、夜だったら、そういうことも結構あるだろうな」
と感じるようになったのだった。
それを思えば、
「なるほど、警察というのが忙しい」
というのも分かる気がする。
昼ばかりしか分かっていなかったので、そう思っていたのであって、夜になると、こんなにも、厄介なことが多いのだと分かると、
「夜の時間があっという間に流れる」
ということが分かってきた。
この日は、昼間の勤務だが、
「夜の勤務」
ということもある。
夜は、午後五時からになるので、
「12時間勤務」
ということになる。
一日中というわけではないので、まだマシであるが、
「昼であっても、夜であっても、客が少ない時間帯、うまく仮眠ができる時間を持つということは、大切なことであった」
といえる。
「それくらいのことしても、罰は当たらない」
と思っていた。
何といっても、
「世界的なパンデミック」
というものが一段落しても、
「前の従業員が戻ってこない」
という実情は、
「疑うことのない事実」
だということである。
それを考えると、
「本当にタクシーはブラックだ」
ということになる。
そうなると、馬鹿正直に仕事をしていると、それこそ、
「バカを見る」
というものだ。
そんなことを知ってか知らずか、警察は淡々と話を聞いている。
すっかり、怯えていたさくらだったが、時間の経過とともに、落ち着いてきた。
そもそも、
「白い肌がきれいだ」
と感じていたさくらが、先ほどは、完全に土色に変化した表情だったので、
「血の気が失せた」
というのは、まさにそのことではなかったか?
と感じたのだった。
マスターは、さすがに男で、店主というだけのことはあって落ち着いている。
というよりも、
「他人事だ」
と思っていたのかも知れない。
実際に、被害者の顔を見ると、その場にいた三人ともが、
「見たことのない人です」
というのだから、刑事とすれば、
「マスターを一番に怪しむ」
というのも、無理もないことであろう。
「まさか、バイトのさくらや、その日たまたま客としてやってきた山村が犯人だ」
ということはありえない。
ただ、
「見たことがある」
という程度はあるかも知れないと思った。
特に。さくらの場合は、
「お客さんです」
という証言が取れればいいと思っていたが、質問に対して、疑うことなく、
「まったく見たことのない、知らない人です」
と答えたのだ。
それを思えば、
「それも、しょうがないか」
と思えるのであった。
鑑識がいうには、
「死後6時間くらいは経っていますね」
ということであった。
「凶器は鋭利な刃物」
ということで、
「小さめのナイフではないか?」
ということであった。
凶器は持ち去られているので、ハッキリとは分からないが、
「傷口から見て、そんなに重たいものではない」
ということから、刑事としては、
「かなりの力のある人でないと難しいかな?」
と考えると、
「女性ということは考えにくいな」
ということであった。
「じゃあ、即死ではなかったということなんでしょうか?」
と桜井刑事が鑑識に聞いたが、
「それは何とも言えません。ただ、争ったり苦しんだりした痕が見えませんから、状況から見て、即死だったといってもいいかも知れませんね」
というのだった。
それを聴いていた門倉刑事だったが、
「死体を運び込んだということはありませんかね?」
と聞いたが、
「他で殺されて運ばれてきたという形跡は、この現場からは感じませんね」
と鑑識はいった。
門倉刑事は、自分が捜査している事件の内容を話したが、
「これだけ距離があると、難しいかもですね。もっとも、一度抜いた凶器をもう一度刺せば、血は止まるかも知れないけど、そこから、離れたところにもっていくというのは、どうにも無理があるように考えます」
と鑑識はいった。
鑑識の頭にも、桜井、門倉両刑事にも、
「この状況から、事件を結び付けるのは無理がある」
と考えるのであった。
ただ、
「一度抜いた凶器をまた刺すということにどういう意味があるのか?」
ということは考えていた。
「そこにどんな意味があるのか?」
ということと、
「そんな面倒なことを?」
というメリットを考えていると、理屈が合わないと思えてならないのであった。
その日は、そのまま事情を聴いただけで、とりあえず、その場を保存したまま、
「数日間は、営業しない」
ということになった。
桜井刑事は警察署に戻り、事件を説明したが、さっそく、殺人事件ということで、捜査本部ができることになった。
この署では、なかなか捜査本部ができなかったが、最近であればm
「1カ月ほど前にあった誘拐事件」
というのが、そのうちの一つだった。
その事件というのは、おかしな事件であった。
「誘拐した」
という誘拐を表明するかのような電話が家に掛かってきたことで、警察は捜査本部を作り、捜査を行ったのだが、実際に、それから犯人から、これと言った連絡がなかった。
別に、身代金を要求してくるということも、脅迫めいた電話もなかったのだ。
家族も警察も、
「被害者の命が大切」
ということで、ヤキモキしていた。
被害者の家は確かに、
「身代金狙いで誘拐事件が起こる」
ということがありそうな豪邸に住んでいるような人だった。
だから、
「子供を返してくれるのなら、少々のお金くらいは」
と思っていた。
もちろん、相手がいくら要求してくるか分からないが、
「五千万くらいだったら、娘の命に比べれば」
と思っていたようだ。
もっとも、この家のご主人は、まだ先代がしっかりと握っていて、会社の経営などは、息子に譲ってはいたが、家での権力は、以前として、先代が持っていたのだ。
それこそ、
「徳川時代における。家康と秀忠の関係のようだ」
とその時捜査に当たった、桜井刑事は、考えていたのだった。
桜井刑事は、歴史が好きだった。
それは、
「日本史としての歴史」
というものもそうだったが、
「世界史の中の近代史」
ということで、明治以降の戦後すぐくらいまでに至る歴史には、興味を持っていた。
それは、タクシードライバーである山村も同じで、彼は、年齢的にも、
「歴史が好きな人の多い時代に育った」
といってもいいだろう。
「今の時代の方が歴史好きの人が多いのではないか?」
と思っている人もいるだろう。
何といっても、女性での歴史ファンというものが多く、特に、
「歴女」
などと呼ばれる人が多いということから考えてもそうであろう。
ただ、山村とすれば、
「今と昔とでは、歴史を好きだという基準が違う」
と思っていた。
それは、昔であれば、まわりから、
「そんなことも知らないのか?」
と言われ、その屈辱から、
「自分で勉強する」
ということをしているうちに、
「歴史が好きになる」
ということが多いからではないだろうか。
しかし、今の時代になると、
「アニメやゲームで、歴史に触れる」
というのが多いのだ。
そもそも、今の子供が、
「学問に触れる」
というのは、
「まわりの人との関係」
であったり、
「学校の勉強」
ということはなかなかないだろう。
友達と仲良くするなどというのは、昔のことであり、今では、
「SNSなどのバーチャルな世界での友達が多い」
というのが今である。
だから、オンラインゲームであったり、マンガによる知識から、歴史を学ぶ人が多いのだ。
特に、
「ゲームなどでは、歴史上の人物であったり、ある戦などが、シミュレーションとして描かれているので、まず、皆、
「そのキャラクターに興味を持つ」
ということになるだろう。
キャラクターに興味を持つと、ゲームの中で、争っている人との会話の中で、
「知らないと、恥ずかしい」
という思いが出てくる。
そこまでくると、
「あとは昔も今も変わりない」
ということになるだろう。
というのも、
「知らないと恥ずかしい」
と思ったことで、昔の人は、図書館で本を見て調べたりしたが、今ではパソコンやスマホがあり、検索することで、その答えが簡単に得られるということで、歴史に興味を持つのだ。
それは、
「きっかけは、違っても、最終的な気持ちに変わりない」
と思うことで、
「今の人も昔の人も、お互いに分からない」
という心境になるのは無理もないことだ。
ということになるだろうが、
「その接点はない」
というわけではない。
それを思えば、
「今も昔も、歴史を好きになる人の増え方に、変わりはないのかも知れない」
と感じるのだった。
というのも、
「頭の良さは、昔よりも今の子供の方がいいのかも知れない」
といっている人がいた。
それは、
「山のような情報を処理できる力があるからだ」
ということである。
ゲームをするのも、
「知能を柔らかくする」
という力に繋がっているのではないか?
といっている人がいたが、まさにその通りではないだろうか?
「何をするにしても、準備段階が必要で、今の子供の方が、その才能に長けている」
といってもいいだろう。
ただこれは、逆にいえば、
「それくらいのことができなければ、今の子供は、それ以外にいいところがない」
ともいえることではないか。
「人間、一つはどこか、人にはないいいところがあるはずだ」
ということで、それは、
「同一時代の人間相手」
というだけではなく、昔の人間と比較すれば、それぞれに、
「一長一短がある」
ということになるであろう。
それを考えると、
「今の時代において、
「何かいいところがあるのか?」
と今の子供を見ていて。気づかない大人ばかりであろう。
それは、子供の方で、
「大人に分かられたくない」
という意識があるのか、考えさせないようにしているからなのかも知れない。
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