日常

 水浴み場は簡素なもので、水樽の栓を抜いて浴びるだけ。

 洗具は石鹸しかないし、仕切りもカーテン1枚。


「カーテン閉めますよ」

「見られてもいいのに」

「ダメです」


 私の特権だぞ。

 ユーリさんが栓を抜いて水を浴びる。

 銀の髪と白い肌が濡れてまとまり、いっそう輝きを放つ。

 エロスだが、それ以上に心が震えるほどの造形美。

 水の精霊ウンディーネ……?


「背中流してくれる?」

「あ、はいはい」


 見惚れちゃった。

 油断するとすぐこうなる。

 罪なヒト。


 タオルで背中を擦る。

 シミ1つ無い純白の大地……と思いきや肩、腰、お尻が赤く滲んでる。

 掴んだり叩いたりされた跡。

 先の情事がイヤでも想像される。


「よいしょ、よいしょ」

「そうそうその辺ね。気持ちいいわ」


 赤味が薄まるように心を込めて流した。



 水浴みが終わると、ユーリさんを部屋に送るまで雑談タイム。


「やっぱりユーリさんも好きなんです?」

「何が?」

「……エッチ」

「フフ、好きというか日常よ、娼婦だもの。ご飯とか寝るのと何ら変わらないわ」

「はぁ」

「エマちゃんは?シないの?」

「私?」

「相手なら選び放題じゃない、ここ」

「うげぇ、やめてくださいよ」


 たとえ男でもここの連中は無理。

 ゴツい、汚い、ムサい。

 絶対優しくしてくれない。


「いい人もいると思うけどな」

「イヤなものはイヤです」

「あらそう。やっぱり女の方がいいのかしら?」

「そりゃあねぇ……」


 ん?


「はい?」

「女が好きでしょ?というより私を、かしら?」

「な、何言ってんですかぁ?私男じゃない、女ですからぁ?パンツ脱いでみせましょうかぁ?」

「それはまた今度。今さら隠さないで、ね?」


 バ、バレてんの?


「私を見る目と手つきがいやらしいのなんの。男の子のソレよ。そういうの敏感なんだから、私」

「……そんなに?」

「もうビンビン、熱くてたまらないくらい」


 露骨だったかぁ。

 いやぁ、オワリだぁ。


「……ごめんなさい。今までずっとやましい気持ちがありました」

「謝らないで、同性を好きになるなんて普通よ。娼婦カップルも珍しくないし。それに私、嬉しいの」

「嬉しい?」

「こんな可愛い子も私に夢中なんだって、ジンジンきちゃう」


 『可愛い』だってぇ?


「ノせられませんよ、私は」

「本心なのに? ひどいわ」


 バレはしたけど、嫌われてない。

 仲良くなったまである。

 娼婦でよかったぁ。


 話が弾むうちにユーリさんの部屋に着く。


「また明日ね。お休みなさい」

「お休みなさい」


 トボトボと自室に戻る。

 夜のお世話は何とも言えない気持ちになる。

 会えるのは嬉しいし、裸も見れて役得のはず。

 でも何かこう、喉奥がイガイガする感じ。

 風邪かな?

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