第15話「彼女の声を求めて」

 朝と夜の区別が曖昧な研究施設――“○○テック”のラボで、妙な日々が続いていた。外の光がほとんど差し込まない構造ゆえ、天候も時間帯も分かりにくい。代わりに館内放送で「午前〇時です」「午後△時です」とアナウンスが流れるのだが、どこか味気なく、囚(とら)われの感覚が強い。


 高峯理久(たかみね・りく)と桜来(さくらい)凛花(りんか)、そして若いスタッフの三人は、一時的に許された“宿泊区画”で夜を明かし、昼間はラボの“観察ブース”へ通うのを繰り返している。目的はただひとつ──アコアの少女アルマの“目覚め”を見届けること。


 アルマは修理のための手術が一通り終わり、いまは休眠モードのような状態にあるらしい。メンテナンス中のケーブルや人工皮膚の再生用パッチはほぼ外されているが、本人の意識は未だ深い眠りの奥底に沈んだまま。「人格システムの安定化」を数日かけて進めると言われており、外見上は沈黙の寝姿が続いている。


 「……ほんとうに大丈夫なのか? あれから三日だぞ」


 狭い宿泊区画で、理久はゴツゴツとした壁を見つめながら唸(うな)る。ベッドも机も最低限の備品しかなく、まるでビジネスホテルの簡易版だ。窓すらないため、息苦しいことこのうえない。


 「私も不安だけど、技術者の言うには“一定期間のデータ再構築”が必要なんですって。下手に急いで起こすと人格崩壊のおそれがあるとか……」


 凛花が悔しそうにつぶやく。彼女もこの数日、メンテナンスルームへ通ってアルマの状態を見守っているが、企業側に「立ち入りは最低限に」と制限されており、思うように介入できない。


 若いスタッフはベッドの端に腰掛け、タブレットを見ながら「早くアルマと話したいな……」と呟(つぶや)く。病院での騒動を経てここへ来たのだから、彼女に“生きていること”を伝えたくて仕方ないのだ。


 #### * * *


 その日の午前、三人は決まった時間にラボの“観察ブース”へ行き、ガラス越しにアルマを確認した。白衣の技術者たちがモニタを監視している中、アルマはまだベッドに横たわり、目を閉じている。頭部へのケーブルは減っているが、胸や腕の一部には制御モジュールが接続されたままだ。


 「あ……皆さん、おはようございます」


 インターホン越しに技術者がこちらを見て声をかける。口調こそ柔らかいが、どこか事務的だ。

 「アルマさんのコア安定度、昨日より10%ほど改善しています。バイタルといえる擬似脈拍や脳波も安定傾向。もう少しで“覚醒プロセス”に進んでも大丈夫かと……」


 「本当か……! やっと目を覚ますんだな……!」


 理久が思わずガラスを叩きそうになる。若いスタッフも「よかった……」と小さく声を上げ、凛花は思わず肩を撫(な)で下ろすように息を吐く。だが技術者は「まあ急ぎすぎは禁物です。今日か明日、具体的にはこちらで判断して再起動試験を行いますから」と冷静に釘を刺す。


 「……分かった。頼むから、無理に人格に干渉はしないでくれよ。彼女の思い出や意志を消すなんて……」


 理久が切実に懇願すると、技術者は苦笑いを浮かべて頷(うなず)く。

 「大丈夫ですよ。契約書でも“人格領域の改変はしない”と記しましたし。それを破ったら当社も訴えられてしまうでしょう。ご心配なく」


 (その契約書自体がかなり怪しいんだよ……)


 理久は胸中で毒づきながらも、いまは信用するしかない。アルマが再び意識を失うような事故があれば、もう取り返しがつかないだろう。契約のこともあって二の句は継げない。


 観察ブースの扉が開き、サングラスの男が入ってくる。今日も愛想のない表情で「おや、お集まりですね。いい報告がありますよ。最短で明日の昼にもアルマさんを‘再起動’できるかもしれません」と言う。三人は息をのむ。すぐにも覚醒するかもしれないのだ。


 「ただし“実演制限ルーム”で覚醒させ、万一の暴走や混乱に備えます。あの子には軍事レベルのシステムがあるらしいですからね。念のため、セキュリティ措置を取りますよ。それでも見学はOKです」


 男の言葉に、理久は胸を締めつけられる。アルマが目を覚ましても、すぐに身動きできない環境に置かれるわけか。仕方ないとはいえ、機械的な対応がやりきれない。「でも……彼女、暴走なんてしない」と反論しかけるが、男は「あなたがそう言っても、我々はリスク管理を優先します」と突っぱねる。


 「くそ……!」


 理久が歯噛みしながら唸(うな)ると、凛花が腕を引いて小さく囁(ささや)く。「ガマンして、理久……彼らに逆らえばアルマを助けられなくなる……」その言葉でなんとか怒りを堪(こら)える。


 「そうですね。ぜひご協力ください。アルマさんが安定したら、自由に面会できる時間も増やしますよ」


 そう言い残して、男は技術者らと何やら話し合いをしながら出て行く。再起動の準備には細かいチェックが必要らしい。

 理久は男の背中を睨(にら)みつつ、ガラス越しにアルマの寝顔を見やる。閉じた瞼(まぶた)は薄い人工皮膚で覆われているが、そこに確かに“命の息吹”を感じた気がする。もう少しだ。もう少しで、あの幼い声を再び聞ける――。


 #### * * *


 その夜、理久は宿泊区画の自分の部屋で目を覚ました。消灯時間を過ぎていたが、ドアの外で人の足音がしたような気がして、目が覚めたのだ。時計を見ると深夜2時近く。隣室の凛花やスタッフも眠っているはずだが、廊下を何者かが通りかかったっぽい。


 (こんな夜中に移動してるのは誰だ……?)


 一抹の不安を感じ、そっとドアを開いて廊下を覗(のぞ)く。暗い非常灯だけが点いており、人影の気配はすでにない。足音も聞こえない。気のせいか――そう思いかけたとき、先の方に小さな扉が開いているのを見つけた。そもそも昼間はロックされていた扉で、「立ち入り禁止」と表示されていたところだ。


 好奇心と警戒心が混ざり合い、理久は廊下をそろそろと進む。もし警備員に見つかれば怒られるのは必至だが、何か気になる。扉の先には数段の階段があって、さらにその奥は薄暗い通路につながっているようだ。研究所の別フロアかもしれない。


 (この施設、ずいぶん広いみたいだし……アルマのことを運んでたりしないよな……?)


 嫌な想像が頭を駆け巡る。企業はまだアルマを“保護”しているとしか言っていないが、もし深夜にコア解析を進めたり、変な研究に使ったりする可能性だってある。先ほど聞こえた足音が“それ”のために動く技術者のものなら――。


 意を決して扉を潜(くぐ)り、短い階段を下りると、そこは静まり返った通路が続く。壁には配管やケーブルが剥き出しで、昼間見たメディカルルームや宿泊区画より質素な造りだ。どこか古い施設を改装して、上のフロアとは別運用しているのかもしれない。こういう場所を見ると、施設の本質が垣間見える気がした。


 暗がりを進むうち、監視カメラらしきものが設置されているのに気づき、理久はビクッと身をすくめる。赤いランプが点いているが、音や人影はない。万一見つかればトラブルになるので、なるべく死角を狙うように体を寄せながら進む。ほんの少し先にドアがあり、そこからぼんやりした灯りが漏れていた。


 (ここまで来たし……覗(のぞ)くくらいならできるはず。もしアルマが運ばれていたりしたら大変だし……)


 理久は気配を殺してドアへ近づき、ゆっくりと耳を当てる。何か機械音が低く唸(うな)っている。人の声はしない。意を決してノブをひねるが、鍵はかかっていない。中をそっと覗くと、そこで目に飛び込んだのは鉄骨と巨大な筒状マシンが並ぶ、薄暗い倉庫のような光景だった。


 「……なんだ、ここ……?」


 明らかにメディカルルームとは違い、ゴツゴツした産業機械やクレーンがある。天井にはクレーンレールが走り、床には作業用のラインが描かれている。軍用か重工業用のパーツらしい箱が積まれ、ラベルに“試作”と書かれた箱もある。まるで地下の格納庫だ。


 辺りに人影はない。モーターのような低周波音が鳴っているだけだが、その規模は大きい。さらに奥には透明なタンクが複数並び、緑色の液体が満ちたものもあるが、中身は見えない。思わず吐き気を催(もよお)すような化学臭が漂う。


 (こういう場所で軍事系の試験をやってるのか……? まさかアルマみたいな子をここで量産とか……)


 理久の背中に冷たい汗が伝う。企業のラボというより、軍用ロボットやAI兵器の開発拠点に近い雰囲気だ。“○○テック”はこういう隠された裏顔を持っているのだとしたら、アルマを“修理”という名目で手に入れ、軍事技術を吸い出そうとしている可能性が高い。


 「やっぱり……危ない連中だ……」


 低く呟(つぶや)いた瞬間、背後で足音がした。振り向く間もなく、何者かがガシッと腕を掴(つか)む。反射的に理久は声を出しかけたが、相手も口を塞ぐように手を回してくる。


 「……ここで何をしているんです? あまり探索は推奨できませんがね」


 聞き覚えのある声――サングラスの男だ。仮に深夜まで館内を見回っているとは。理久は振りほどこうとするが、男の力が予想外に強い。


 「離せ……勝手に徘徊するなとは言われてない。部屋の外に出ただけだ……!」


 男は小さく鼻を鳴らし、理久を壁際へ押し付ける。室内には誰もいないらしく、二人きりの格好だ。暗いライトに照らされて、男の瞳が冷徹に光る。


 「言い訳は聞きたくありません。ここは当社の重要区画で、一般の立ち入りは禁止です。あなたが契約違反を犯すなら、強制的に退去してもらうしかないですよ? アルマの修理も途中ですが、それでも構いませんか?」


 刺すような脅し文句に、理久は言葉を失う。もし今ここで追い出されれば、アルマの命はどうなる? それを考えれば抵抗は厳しい。


 「……ぐっ……」


 理久が歯を食いしばると、男は少しだけ腕を緩めた。顔を覗(のぞ)き込むようにして、低い声でささやく。


 「あなたたちはあくまで“客”であり“取引相手”だ。私たちはアルマを救うため協力しているが、この施設のことを探られるのは困る。今後は気をつけてくださいね」


 「はあ? 脅して……ふざけるな。俺たちを監禁するつもりか? アルマを利用して……」


 「利用? まあ、ビジネスですからね。お忘れなく。彼女は商品になり得る貴重なサンプルでもある。もちろんあなた方が正式に引き取るなら、それなりの費用や手続きが発生しますが……」


 男は再び皮肉混じりの笑みを浮かべる。理久は激昂(げきこう)しかけるが、今はどうにもならない。アルマが無事目を覚ましてからでなければ、争っても失うだけだ。


 「今度だけは不問にしますから、おとなしく部屋へ戻ってください。そして明日以降の覚醒を楽しみにしていればいい。よろしいですね?」


 男が腕を解放する。理久は肩で息をしながら男を睨(にら)むが、無力感に襲われる。闇に飲まれたようなこの倉庫――ラボの裏の顔を見せつけられた今、なおさら警戒感は高まるばかりだ。


 「……分かった。部屋に戻る」


 ようやく言葉を吐き出すと、男は「そうしてください」と冷たく言い放つ。理久は歯噛みしながら踵(きびす)を返し、階段を登って元の廊下へ戻る。心中は怒りと不安が渦巻き、胸が押しつぶされそうだ。


 (アルマが……あんな連中に囲まれたまま、危険な研究に利用されたらどうする? それでも助けるためには放っておくしかないのか……?)


 葛藤が止まらないまま、自室へ戻る。ベッドに身を沈めても眠気など来ない。暗闇の天井を見上げ、ただアルマの声を求めて胃の奥が痛むような感覚が続く。


 (アルマ、お前が生き延びた先には何がある? また誰かに“道具”扱いされるなら、いっそ……)


 否定的な考えが湧きかけ、理久は頭を振る。アルマ自身はきっと“生きる”道を選んでいたはずだ。前のマスターとの思い出を抱え、誰かと一緒に生きていく未来を望んでいた。その意思を守ると誓ったのは、自分だ。ここで諦めるわけにはいかない。


 (会いたい……少しでも、声を聞きたい……明日こそ、彼女が目を覚まして話ができるかもしれない。絶対にそばにいるんだ)


 そう心に言い聞かせ、理久は夜明けを待つことにした。寝返りを打っても頭が冴(さ)えて眠れないが、少しでも身体を休ませなければ。――アルマが覚醒したら、今度こそしっかりと手を握り、彼女の“自由”を守るために動かなければならない。


 #### * * *


 翌朝、ラボは慌ただしく動き始めたようだ。いつものように観察ブースへ案内された理久たちは、技術者が集まりミーティングをしている光景を目にする。サングラスの男も同席し、モニタには「Re-Awakening Mode」の文字が映し出されていた。どうやらいよいよアルマの“覚醒”が実施されるらしい。


 理久と凛花、若いスタッフはガラス越しに立ち、息を詰めて見つめる。アルマは固定ベッドに仰向けのまま、補助パッドを数カ所に装着されている。顔色――いや、人工皮膚の色はだいぶ正常に戻っており、呼吸のリズムも安定しているようだ。ケーブル数はさらに減っており、完全ではないにせよ“人間に近い外見”を取り戻している。


 「アルマ……」


 理久が苦しく呟(つぶや)く。あの幼い姿をしたアコアは、もうすぐ再び目を開き、言葉を発するのだろうか。彼女は暴走などしないはずだが、この施設の者たちは念のため“制御ルーム”に待機しており、もし暴走の兆しがあれば高出力の抑制装置で動きを封じるつもりらしい。


 「抑制装置なんて……必要ないわよ」

 凛花が歯噛みするが、技術者は「リスク管理ですから」と淡々と返すだけだ。


 そして時間が来た。モニタに大きくカウントダウンが表示され、「3、2、1……Activate」という無機質なアナウンスが流れた。アルマの周囲にわずかな電流音が広がり、照明が少し瞬く。彼女の頭部センサー付近で、緑色の小さなランプが点滅を始める。


 「……っ!」


 思わず息を呑む理久。アルマの胸が一度だけ大きく上下し、瞳がうっすらと震えた。技術者が「システムオンライン」と報告し、モニタに流れる人格シミュレーションのグラフが急激に上昇する。やがて――。


 アルマのまぶたが、ゆっくり開いた。焦点の合わない瞳が天井を彷徨(さまよ)い、かすかな唇の動きが見える。外部音声を認識するかのように耳を研ぎ澄ましているのか、或いは周囲の状況を確認しているのか。技術者が慌てて何か操作をして音声チャンネルを確保する。


 次の瞬間、静寂を破るように、アルマの声がメディカルルームに流れた。


 「…………ここは、どこ……?」


 それはかすれた小さな声だったが、紛れもなくアルマだ。人間じみた呼吸音とともに、意識が戻ったことをはっきり示している。理久は涙が滲(にじ)むのを堪(こら)えながら、ガラスに手を当てて呼びかけた。


 「アルマ……! 理久だよ、ここにいる……!」


 技術者が制止する間もなく、理久はインターホンのボタンを押し、「アルマ、聞こえるか!」と叫ぶ。するとアルマは声の方向に首を向け、まだ焦点は定まらないが、確かに反応している。


 「……りく、さん……? 凛花さん……? ボク……」


 体を動かそうとするが、固定パッドがあるためうまく動けず、表情には戸惑いと不安が混ざっている。技術者が「まだ安静にして」と声をかけるが、アルマはまばゆい光に耐えるように目を細めながら周囲を見回す。


 理久たちの姿を目に捉えたのか、あるいは声を認識したのか、少しだけ表情が和らいだ。けれど、その次の瞬間、小さく身震いして唇を噛(か)む。


 「ボク……どうなったの……ボクは……死ぬはずだった……? いや……マスターは……もういなくて……」


 混乱した言葉。死ぬはず――そうだ、彼女は施設で瀕死の重傷を負い、なお暴走警備ロボを制御していた。そのあと意識を失ってしまったのだから、自分がどうやって救われたかまったく知らないのも無理はない。


 凛花がインターホン越しに「アルマ、落ち着いて……あなたを修理したの。私たちは無事に外へ出て、そしてこのラボに助けてもらったのよ」と優しく話しかけると、アルマは少し呼吸を整えて、微かな声を返す。


 「……ボク、生きてるんだ……。ボクが……理久さん、凛花さん……」


 その声がかすれながらも、理久と凛花を呼びかけたとき、二人は同時に胸を熱くした。確かにアルマは戻ってきたのだ。意識があって、自分たちを認識している。これこそが何よりの証拠――奇跡でも何でもなく、彼女の“意思”そのものだろう。


 (アルマ……よかった、本当によかった……!)


 理久は言葉にならない感情が込み上げ、思わずグッと唇を噛(か)む。若いスタッフも目頭を押さえている。長く険しい道のりを越えて、やっとアルマの魂がこの世界に帰ってきたのだ。


 とはいえ、技術者のリーダーが「落ち着いてください。まだ脳波が不安定です。軽く自己チェックを行いますから」と操作パネルを叩き始め、状況を仕切る。アルマは痛みを堪(こら)えるように少し眉をひそめるが、大人しく従っている。


 「理久さん、もう少し後で直接面会できますよ。いまは安定化プログラムを走らせるので、会話は控えてください」


 インターホンからそう伝えられ、理久は仕方なく「分かった……でも、すぐに会わせてくれ」と答える。遠目に見てもアルマが苦しそうなのが分かるし、本当は駆け寄って抱きしめたい。しかし、ガラスの仕切りと企業のルールがそれを許さない。


 こうして、アルマがまばたきする姿や、小さく体を動かそうとしている様子を見つめながら、理久と凛花は一歩引き下がるしかなかった。しかしその瞳には、確かに“生命”が宿っている。まるで闇を抜け出して再び光を見た赤ん坊のようだ。


 (おかえり……アルマ。よくぞ戻ってきてくれた)


 理久はかすかに涙を滲ませながら、ガラス越しにアルマの名を呼ぶ。彼女がまた笑顔を見せ、“人のように生きる道”を探す日が来るといい。そのためには、ここ“灰色のラボ”で少しずつ身体と心を取り戻すしかない。


 幸い、連日の報告によれば、“○○テック”の技術者たちはアルマの人格領域を無理に書き換えたりはしていないようだ。会社としてはビジネスかもしれないが、少なくとも表向きは約束を守っている。ただ、彼らが水面下で何を企んでいるかは分からない。


 「まだ危険は残ってるよね……。このままだと、アルマは完全にこの企業の“商品”として扱われるかも……」


 凛花が隣で苦い顔をする。理久もうなずき、目を細める。アルマが意識を取り戻した今こそ“どうやって彼女を自由にするか”を考えなければならないのだ。


 そして、技術者たちが“安定化プログラム”を終えれば、ついにアルマは本格的に再起動し、会話もできるようになるだろう。そのとき、アルマが何を望むのか――それは誰にも分からない。もし“前のマスター”との思い出が部分的に失われていたら、彼女はどんな気持ちになるのか。


 いずれにせよ、理久たちが望む“彼女の自由”と“企業のビジネス”は、いつか衝突を避けられないかもしれない。深い覚悟を伴いながらも、喜びに胸を熱くする時間がしばし続く。アルマという存在は、決して過去の延長だけのものではなく、新たな可能性を宿してこの場に帰ってきたのだ――。

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