第40話 悲愴

「ハァ〜、南曇もヤラれるなんて予想外だわ」

 廊下の奥から姿を現したのは、北薗 麗華きたぞの れいかだ。

 議員秘書のような黒のスーツ姿の北薗は、片手に不釣り合いな、大き目の水鉄砲の玩具を持ち、腰にはもう一丁同様の水鉄砲をぶら下げている。背中にはボンベのような物を背負っていて、水鉄砲とチューブで繋がっているようだ。


「お、お前が委員長をやったのか!」

 理瑚が声を上げる。

「ええ、そうよ、何か問題でも?」

 北薗は前髪を弄りながら、事もなげに言う。確かに夢の中では問題無いし、私も他の四天王を倒したけど、この態度は腹が立つ。


 北薗は相変わらず前髪を弄りながら、チラリとコチラを見る。

「しかし、久住が邪魔をするとはね、アンタ達ずっと尾行されてたんじゃないの?」

 確かに、そうかも知れない。ずっと私達をマークして、最後に漁夫の利を狙う作戦だったのかも。でも、結果的に助けられた。

 外にはもう誰もいない。久住は怪物にやられてしまったようだ。そして残りの怪物も南曇の死と共に消えた。


「舞!今なら一対二だ、コイツを絶対倒すよ!」

 理瑚が目に涙を浮かべながら意気込む。委員長のカタキ、私もそのつもりだ。でも、能力がハッキリしないし、計算高い北薗がこのタイミングで姿を現したのは、勝算があるのかも。

「理瑚、悔しいけど冷静にね。慎重に行くよ」

「うん、わかってる」

 理瑚は盾を構え、私もその後ろに隠れながら距離を詰める。


「フンッ、クイーンが塔の上でお待ちなのよ、アンタらいい加減死んでくれる?」

 北薗は後ずさりをしながら、水鉄砲を打つ。すると飛んだ水は、みるみる固まり、鋭い氷の矢となった。

「ガキーン」飛んできた氷を理瑚が盾で弾き返す。

「これで委員長を後ろから撃ったんだね!能力がわかれば、コッチのもんだ!何がクイーンがお待ちだ、オマエなんかアタシ達の敵じゃないよ!」

 理瑚が北薗に向かって走り出し、私も後に続くと、それを見て、北薗は廊下の奥に走り出した。

「待て、コノヤロー!逃がさないよ!」

 理瑚がその後を追いかける。

 わざわざ出て来て逃げるだろうか?もしかして何か罠が……。


「ビチャ、ビチャ」な、何だ?

 足元に水が溜まってきているのに気付く。どうやらトイレ等の水道から一斉に水が流れ出ているようだ。廊下一面、足首辺りまで水が溜まりだしている。

 すると、突然、北薗が振り返り、床の水面に手を触れる。


「凍れ!」


 北薗が叫ぶと、手の先から床に溜まった水が凍りだす!

 えっ!そんなことまで!?

 私達の足元の水まで一瞬で凍りつき、理瑚が足を取られて転んだ拍子に盾を落としてしまう。


「バイバイ!」

 北薗はすかさず水鉄砲を打つと、氷の矢が理瑚の体を貫いた。


「理瑚ッー!!」

 私の足元も凍って、歩く事が出来ない。

 理瑚は振り向いて私を見る。


「やっちゃった……舞が夢の世界を制覇すること信じてるよ……」


 私に望みを託すと、理瑚は光の粒になって消えていった。近くには持ち主を失った盾が寂しそうに転がっている。


「ヒャッハー、氷の矢を撃つ能力だと思ったろ!違うんだな〜、私の能力は瞬時に近くの水を氷にする能力なのよ!もう防御は出来ない、私の勝ちだ!」

 上機嫌の北薗は私に向かって水鉄砲を連射する。

 私は飛んでくる氷の矢を剣ではねのけながら足元の氷を砕き、何とか動けるようになる。

「オイオイ、粘るじゃねーか!」

 北薗は腰に下げていた、もう片方の水鉄砲も持ち、両手で乱射し始める。

 いくつもの氷の矢が、体や顔をかすめる。

 クソッ、駄目だ、防ぎきれない!

 私は廊下の壁を滅茶苦茶に斬り裂き、校庭へ逃げ出した。


 一目散に駆け出す。後ろで北薗が何か叫んでいるが、振り返らない。早くこの場を離れたい。


 気付くと私は自分の家の前にいた。イグアナの襲撃でボロボロになった家に8日振りに入ると、ベッドに倒れ込んだ。

 委員長も理瑚もやられてしまった。もう一人きりだ。今はもう……何もしたくない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る