第12話 RICO

 そして、夜が来る――


 私は再び夢の中で目覚めた。夢の中で目覚めるって、どういう事?って気もするけど。

 場所は公園のベンチ。そうそう、昨日はここで眠りに落ちたんだ。目の前には、バスケットゴールがささやかに建っている。

 ホークの言った通りだな、立派なバスケットコートが消えて、現実と同じように、色褪せたバスケットゴールが建っているだけだ。環境を変えた人物がいなくなれば、元に戻るって事か。

 私は昨日の事、そして昼間の学校での事を思い出し、不愉快になる。

 どいつもこいつもバカにして、この世界を制覇するのは私なんだから……。


「あー、いた!人がいた〜!」


 声がしてビクッとする。うわ、いきなりだ!思えばこんな見晴らしの良いところは危険だ。

 声のする方を見ると、1人、明るい茶色の髪の小柄な女の子が手を振りながら走ってくる。

 ん〜、私服だから見慣れないけど、あれは漫研の棚加 理瑚たなか りこか?よく見ると、背中に何か背負っている。

 武器か?先手必勝だ、弱肉強食のこの世界、誰だろうと叩き斬ってやる!


 私が右手を振ると「ズギャンッ!」と音がして、鋭い剣が伸びる。

 それを見た棚加 理瑚が急ブレーキで立ち止まって叫ぶ。

「う、うわぁ、ちょっと待った!待ったぁー!」


「悪いけど、話は聞いてられない。だって私がこの世界を制覇するって決めたから!」

 私が走りながら剣を構えると、棚加が背負っていた円盤状の物を手に持ち変え、前に突き出す。


「うわっ!」私は反射的に、転げながら横に飛び退く。

 顔を上げ、改めて棚加が持つ、直径80センチ程の鋼色の丸い物を見上げる。

「ん、盾?」

 よく見ると真ん中に「RICO」と彫ってある。


 私の動きが止まったのを見て、その丸い物から少し顔を出した棚加が叫ぶ。

「待ってよ、アタシはやり合う気無いからさ!も、もし、やったとしてもこの盾は絶対切れないからね!」


 やっぱり盾なんだな。棚加の必死さを見て、ひとまず剣をしまう。


「ワァオ、それ自由に出し入れ出来んの?アタシも、そうすれば良かった、デカくて重いしさ。肩掛のベルトは付いてんだけど、持ち歩くのに不便なんだよね」


 えっ、消せないんだ?そういうパターンもあるのか、重そうなのに。


「ところで、あなた、確か東京から引越してきた人だよね?カッコいいマスクしてるから、わかりづらいけど」

 棚加がチラチラと顔を見ながら尋ねる。


「エッ、あ、そう、緋影舞という名前……です」

 マスクやっぱ、役たたねーと思うと同時に、カッコいいと言われて動揺してしまった。あと、23区内ではないので、東京と言われると後ろめたい。


「舞ちゃんね、クラスで話した事無かったよね?アタシは棚加 理瑚たなか りこ、漫研部だよ、理瑚って呼んで」

 うん、リストで確認してるから知ってる。やり合う気がないというのは本当みたいだ。しかし、何か馴れ馴れしいな。


「つーか、さっきの剣、チョー便利じゃない?メッチャ長いし、出し入れ自由なの?アタシって盾じゃん?重いし、盾だけじゃ、どうにもならないからさ、困ってたんだよねー」

 棚加 理瑚、随分グイグイくるな。でも、不思議と嫌な感じは無い。


「ど、どうして、盾にしたの?」

 私は思わず聞いてみる。

「あー、やっぱ、気になるよね、ちょっと話長くなるけどイイ?」

 私の回答を待たずに理瑚は話し始めた。


「昨日の夢でなんだけどさ、うちのクラスの漫研部8人全員集まったんだよね、そんで、みんな黒板の言葉が気になっててさ、麦原 未海むぎはら みうって子が、能力発現させてみようとか言い出してさー。やっぱ、漫研だからさ、みんな好きなんだよね。自分の推しのバトル漫画のキャラの能力とかイメージしだしてさ、未海は、急に手足が伸びるようになって、スゲー速さでパンチしだしてさ」

 手足が伸びる!?この世界ではそんな事もできるのか。

「それ見て、みんなそれぞれ能力発現させて、大騒ぎよ。そのうち、バトルしようぜとか言い出してさ、城之内 徐杏じょうのうち じょあんなんか、自分の分身みたいなの出現させてさ、それを炭白 円香すみしろ まどかが、ナンチャラの呼吸とか言って斬り掛かったんだけど返り討ちにあったり、空後 紗里弥くうご さりやってのが、エネルギー弾みたいなの飛ばしちゃって、戸成 真紀となる まき半田 伴那はんだ ともなが流れ弾に当たっちゃって消えちゃうしで、もうパニックよ。

 そん時アタシもう、身を守るので精一杯だったもんだから、盾が出現しちゃったんだね。

 まだ何にしようか考え中だったのにさ、こんな無骨な盾なんて、何のキャラでもないよ、ただ丈夫なだけー」


「な、なるほど、凄いね、そんな事があったんだ。仲間同士で3人もね……あれ、もう1人、やられた人いない?」

「あっ、そうそう、その後、上戸 智じょうご さとが、ナンチャラ展開とか言って、周りに何か壁を出してさ、みんなヤベー!ってなったんだけど、なんか本人だけが囲まれて小さくなって消えちゃったんだ」

「あー、自分の想像を超えちゃう能力だと制御出来なくなるみたいだね」

「やっぱそうなんだね!自分の能力で首を絞めるわけだ。それで、残ったアタシたちは、ちょっと冷静になったんだ。てか、4人やられてるって良く知ってるね?」

「あ……うん、昼間教室で、ちょっと見えたからね。あと、何か言い合いしてたよね?」

「そうなんだよ、結局一晩明けてみると、アタシ以外の残った3人は、夢の世界の王におれはなる!とか、オラワクワクすっぞーとか、何か最高にハイになってるからさ。アイツらの攻撃のせいで、他の子が抜け殻みたいな状態になったのにね。アタシも盾が無かったらヤラれてたのに、弱い方が悪い!とか言い出して、挙句の果ては、今度会ったら仕留めてやる!とか言い出してさー!」

「その3人は、めちゃくちゃヤル気なんだね。能力も凄そうだし、ちょっと会いたくないな」

 夢の世界の制覇が、もう怪しくなってきた。私もどんな能力でも出来るって知ってたら、もっと他のにしたかったな。

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