第21話 本当の世界

 ロワンレーヴ魔法学校卒業式は滞りなく終了した。

 一人だけ魔法の杖を受け取れなかったという、過去に例を見ない出来事はあったのだが。


 卒業式が終わり、卒業生たち同士で集まり何か楽しげに話している。

 私はその横をすり抜けるように、ロワンレーヴ魔法学校を出た。


「……なんで…………?」


 ――どうして、私だけ……?


 気づけば家の前まで帰ってきていた。

 玄関を開け、中に入ると、テーブルにアドルドとオリヴィアが座っていた。


 私は何を言うべきか迷い、俯き加減で言う。


「あっ……えっと、ただいま……」


 二人は穏やかな笑みを浮かべ返事を返してくれる。


「おかえり、ステラ」

「おかえりなさい、ステラちゃん。何か飲む?」


 そう言うとオリヴィアは立ち上がり、キッチンへ歩いて行く。

 私はオリヴィアを呼び止めるように口を開いた。


「あのっ……その、ごめんなさい……」


 私が二人に謝ると、オリヴィアが聞き返してくる。


「ステラちゃん、ごめんなさいって何のことかな?」

「何って、決まってるでしょ? わ、わたしだけ、杖もらえなかったんだよ……?」


 私がそう言うと、オリヴィアはいつもの優しい笑みを浮かべ言う。


「そっかぁ。まあそういうこともあるよね」

「……えっ?」


 私はオリヴィアが何を言っているのかまるで理解できなかった。

 すると、アドルドも口を開く。


「そうだな、そういうときもあるさ。アハハハッ」


 わざとらしく笑うアドルドに、いつも通りの優しい笑みを向けてくるオリヴィアを見て、私は激怒した。


「なに笑ってんのよっ!? なに? 私のこと憐れんでるの? それとも何? 私が魔法の杖もらえなくて、将来立派な魔法使いになってもらえなくなったことに失望でも――」


 パチンッ!


「――ッ!?」


 私の左頬に衝撃が走った。

 顔を上げると、目の前でオリヴィアが泣き顔で私を睨んでいる。

 あの温厚で常に優しいオリヴィアが、まさか私の頬を叩くなんて思いも寄らず、驚きを隠せなかった。


「私もアドルドもそんなこと思ってないよっ? そんな風に自分を卑下しないでっ!」

「お、お母さん…………」


 こんなにも怒っているオリヴィアを初めて見た。

 徐々に左頬がじんじんしてきている。


「それに杖がもらえなかったからって、ステラちゃんはステラちゃんだよっ! 誰でもない私とアドルドの大事な娘よっ!」

「……で、でもっ! 二人はわたしに立派な魔法使いになってほしかったんじゃないのっ!? わたしが初めて魔力に目覚めたときからずっと私に期待してたでしょ?」


 私のオリヴィアが言い合いしている間にアドルドが割って入ってくる。


「ああ、期待していたよ。だがな、ステラ。俺とオリヴィアが期待していたのは、お前が言う立派な魔法使いになるってことじゃない」

「……!? ど、どういうこと……?」

「ステラが心の底から笑顔になってくれることが俺とオリヴィアが願っていることだ」

「い、意味、分かんない……」


 アドルドの言葉に、私は俯いた。

 アドルドは私の肩に手を置く。


「ステラ、お前が一番笑顔になれることは、立派な魔法使いになることなのか? それよりもステラには好きなことがあるんじゃないのか?」

「…………ッ!?」


 私は顔を上げ、アドルドとオリヴィアの顔を交互に見る。

 アドルドはさらに続けて言う。


「ステラ。実はな、今日ステラが杖をもらえなかったのは、俺たちがそうしてくれってカーリン先生に頼んだからなんだ」

「えっ…………? な、なんで……? 何でそんなことしたの……!?」

「ステラ。その意味は自分が一番わかってるんじゃないか?」

「わ、わたしが……?」


 考えても考えても答えがわからない。

 私が何を一番わかっているの?

 なぜ、アドルドとオリヴィアにはわかるの?


 すると、オリヴィアも私の肩に手を置き、優しい笑顔のまま言う。


「ステラちゃん、あなたは一人じゃないわ。私もアドルドもいる。一人で悩むことなんてないの。だって、私たちは家族なんだよ?」


 ああ、そうか。そうだったんだ。

 二人には全部わかっていたんだ。

 私が二人の顔色ばかり気にして、どうしても言い出せなかったこと。

 

 二人は私が魔法使いになることを期待していたとばかり思っていたのに。


 涙が溢れ、私の視界が徐々にぼやけていく。

 その涙で濡れた声で私は、私の本当の気持ちを涙と一緒に吐き出す。


「わ、わたしはっ……ぅ…………歌姫に……っ……“世界一の歌姫”に、なりたいっ……!」


 今の私の顔はひどいもんだろうな。

 でも、それでもいい。

 やっと私の本当の気持ちを二人に言えたから。

 やっと二人の子どもになれた気がしたから。


「よく言ってくれた。ありがとう、ステラ」

「……ぅ……そうよ、家族に……っ……家族に隠し事は無しってね……っ……」


 オリヴィアも私と一緒で、とめどなく涙を流している。

 隣のアドルドの目にも、光るものがあった。


「で、でも……っ……い、いいの……ぅ……っ……?」

「ええ、いいのよ……っ……アドルド、お願い……っ……」

「ああ、わかったよ」


 オリヴィアに返事したアドルドは、私から離れ、奥の部屋へ。

 すぐに戻ってきたアドルドの手には青い箱。

 そして、アドルドはその青い箱を私に差し出して、


「ステラ。改めて、卒業おめでとう」

「おめでとう、ステラちゃんっ!」


 二人がなぜ祝いの言葉を言っているのかよくわからないまま、私はアドルドから青い箱を受け取った。


「な、何これ……?」


 私がそう聞くも、アドルドは答えず、


「いいから、開けてみてくれ」

「う、うん……」


 私は青い箱を、ゆっくりと開けてみる。


「…………えっ? こ、これって……!?」


 私は自分の目を疑った。

 まさか、これがこんなところにあるはずがない。

 前世では当たり前に握っていた私の商売道具の一つが。


 ――でも、どうしてこれが、ここにあるの……?


 私のその疑問にアドルドが答えてくれる。


「覚えているか? ステラが三歳のとき、俺の誕生日にプレゼントでくれた絵のこと。あのときは、直接これが何なのか聞くことができなかったけど、ミアちゃんの協力もあって、これがステラの夢に繋がるものだってわかったんだ」


 ――私が三歳のとき? ……はっ!? 私が歌ってて二人が笑ってる絵のこと!?


 アドルドの肩から顔を出し、オリヴィアが続きを話す。


「そうなの。それでアドルドが、二年前から何度もドワーフの国に行っててね、そこにいる昔お世話になったお師匠さんに作り方を教わって、試行錯誤の結果やっと完成させたの。それでね、アドルドが作ってた〈魔力増幅器〉ってあったでしょ? 実はそれを改良して出来たものなの! すごいよねぇ! ちなみに私も装飾部分を手伝っちゃいましたぁ」

「あはは、俺はあまりそういうセンスがないみたいだからな。オリヴィアがいてくれて助かったよ」

「ウフフッ」


 二人の顔を交互に見て、私はもう一度手元に視線を移した。


「……ありがとう……本当に、ありがとう……っ……わ、わたし……っ……お父さんと、お母さんの子どもで……ぅ……っ……本当に、よかった……っ!」


 私の手元の箱の中には、紛れもない“マイク”が入っていた。


 ヘッド部分が青色の結晶になっていて、反対側のコネクタ部分も小さな青色の結晶が埋め込まれている。

 ボディー部分は白がベースで、キラキラ光る青い星が螺旋状に散りばめられている。


「これを持って、夢を叶えるステラを見て見たいと、俺たちはそう思っているよ」

「ステラちゃんならできるわ。だって、私たちの娘なんですもん」


 二人の言葉に、私は思わず二人に飛び込んだ。


「お父さんっ! お母さんっ! 本当にありがとうっ! 大好きっ!」

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